特集③-❹ GOOD NATURE HOTEL KYOTO サステナブルな価値提供が海外宿泊客からも好評 山下剛史

SDGs採択に先駆けて提唱した「BIOSTYLE」

―御社が運営する「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」と「GOOD NATURE STATION」の特徴についてお聞かせください

山下 弊社が所属する京阪グループでは、地球環境に配慮したものや健康によいものを生活のなかに取り入れる新しいライフスタイル「BIOSTYLE(ビオスタイル)」を、SDGsが国連サミットで採択される1年前の2014年から提唱しています。その新しいライフスタイルを発信するフラッグシップ施設として、2019年12月に「GOOD NATURE STATION」が開業しました。
私たちは、いくら地球環境に配慮したものや健康によいものでも美味しくなかったり楽しくなかったら広がらないと考え、「エピキュリアン(快楽)なナチュラル志向」をコンセプトに掲げ、アーリーアダプターの30代〜40代の女性に喜ばれる施設のデザインにこだわりました。
 施設は1〜3階までのショップやレストランと4階以上の「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」で構成されていますが、ホテルも施設共通のコンセプトを具現化したもののひとつ。ホテルで宿泊したお客様が、食事や買い物なども体感して帰っていただきたいと考え、宿泊客を対象とした無料館内ツアーを企画しました。ショップやレストランにある様々な商品のストーリーを紹介することで、理解度も高まり商品やサービスの購入につながります。この取り組みが思いのほか好評だったことから、「SDGsツアー」として有料販売したところ、全国各地の企業や大学、行政などが視察に訪れました。今後はインバウンドの需要増に対応して、海外のお客様に喜んでいただけるような仕掛けを考えなければいけません。

―独自の体験プログラムも好評だと伺いました。詳細についてお聞かせください

山下 「きっかけエクスペリエンス」と名付けた体験プログラムは、朝ヨガや大文字山のトレッキング、京都近郊の畑で有機イチゴやタケノコの収穫体験を楽しめる「みんなで農活!
GOOD NATURE FARM」など多彩です。京都の知られざる魅力を参加者の皆様に体感していただくことで、農家の方にとっても観光収入につながります。こうしたサステナブルツーリズムは、ホテルの開業時から意識しており、各所と連携して京都の多層的な魅力をより多くのお客様に知っていただくことで、他のホテルとの差別化を目指しています。

ホテルでは世界初の認証の同時取得

―アフターコロナの中でインバウンドの比率はどれくらいで推移しているかお聞かせください。また海外の方のサステナブルに対する関心度について教えてください

山下 アフターコロナでインバウンドのお客様が急増しており、ここ数か月は80〜85%の間で推移しています。特に海外向けの情報発信に力を入れているわけではありませんが、海外OTAなどからの流入が多く、どのサイトでもおしなべて10点満点中9点以上の口コミ評価をいただいていることが影響しているのではないでしょうか。欧米のお客様も多いことから、連泊率は2・2〜2・5泊と向上しています。
 海外のお客様は日本のお客様に比べてサステナブルへの関心が高く、口コミでもその点を高く評価していただいています。当ホテルでは、開業時から歯ブラシ、ヘアブラシ、ひげ剃りの三大プラスチック廃棄物になるアメニティを設置しませんでしたが、当初はご希望に応じて無料でお渡ししていました。
2022年の4月にプラスチック資源循環促進法が施行されたのに伴い有料化すると、無料時に50%の方が希望されていた歯ブラシの購入率は15%に減り、さらにインバウンドの方が多く宿泊されるようになると歯ブラシの購入率は3%程度まで下がりました。海外では脱プラスチックへの理解が進んでいることを表すエピソードです。
 また心と体に心地よく、地球環境にも優しいホテルを目指し、2020年8月には、環境や健康に配慮した建物が認定される「WELL認証(v1)」をゴールドランクで取得。同年8月には環境に配慮したグリーンビルディングを評価するプログラム「LEED認証」をシルバーランクで取得しています。ホテル版評価基準によるWELL認証及びLEED認証の同時取得は、当ホテルが世界で初めてとなります。
特に「WELL認証」を取得するにあたっては、100項目以上に及ぶホテル版の評価基準を独自に定め、「清潔で安心な空間をつくる空調方式や手洗い環境の整備および除菌清掃」「京都らしさ・日本らしさを表現した客室デザイン」「京都の植生を再現した『大緑化壁』など60項目以上が評価されました。客室用に独自に開発した快眠照明システムは特許を取得しています。

地域産業との連携を深め魅力の更なる向上が目標

―開業されてからすぐにコロナ禍に入り、当初は大変苦労されたと伺いました。コロナ禍で感じたことをお聞かせください

山下 おっしゃる通り、「宿泊」と「飲食」という、最もコロナ禍の影響を受けやすい業種だったため、正直なところ大変厳しかったです。それでもホテルは休まず営業を続けました。当初想定していた30代〜40代の女性ではなく、20代の方の宿泊が多かったのは意外でした。施設やホテルがSNSとの相性が良く、若い世代の方に響いたのではないでしょうか。また、私たちが提唱するコンセプトに共感を示していただいたのかもしれません。少し話がそれますが、SDGsの広まりを受け、我々の採用活動の中でも、当施設のコンセプトに共感してご応募される方がたくさんいます。

―今後、施設運営で実現したいことについてお聞かせください

山下 今後も、地元の農家の方や生産者の方、京都の伝統産業などと連携を深め、これまで約4年かけて熟成させたサステナブルなコンテンツやストーリーをさらに磨き上げなければいけません。
またコロナ禍で苦労した経験も糧に、将来的には「GOOD NATURE STATION」や「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」を他のエリアに出店して共感の輪を広げていきたいですね。
 インバウンドのお客様にもよりよいサービスを提供しなければいけません。
京都は深掘りすればするほど魅力あふれるコンテンツが充実しています。しかし、外国人観光客が好んで訪れるのは、清水寺や伏見稲荷大社などメジャーなスポットに集中しています。インバウンド向けに認定通訳ガイド付きのオリジナル日帰りツアー「KYOTO EXPERIENCE」を企画していますが、圧倒的に人気が集中するのが祇園ツアー。改めて「祇園ブランド」の強さを実感しました。オーバーツーリズムの解消を目指すためには、私たちを含めた行政や観光協会、事業者のみなさんが他にもたくさん魅力的な観光体験ができるスポットがあることを情報発信し続ける必要があると思います。
 また最近は、大阪にホテルを予約して、京都は日帰りで訪れる方が多いと伺います。京都には夜に出かけるスポットが少ないことが一因だと思いますが、より京都の滞在時間を増やすためにも、「夜の京都」の魅力を増やして発信しなければいけませんね。

○聞き手:福永香織(京都市観光協会):後藤健太郎(JTBF)


株式会社ビオスタイル常務取締役 GOOD NATURE STATION館長
山下剛史(やました・つよし)