特集③-❸ ヒューリックホテルマネジメント株式会社 地域とつながり、この土地ならではのサービスを

不動産業を活かし優良物件に最高のサービスを付加

ーヒューリックさんは不動産業を中心に、ホテル・旅館業もなさっていますが、観光事業はどのような位置づけでしょうか

髙橋 ヒューリックは、東証一部プライム市場に上場する不動産ディベロッパーです。東京都心のオフィスビルを中心に不動産を保有していますが、駅から徒歩3分以内の物件が多いという立地の良さもあって、都心の空室率が通常5〜7%のところ、当社は1%以下を保っています。しかし、今後の人口動態を見て、ホテル、高級旅館、高齢者施設、商業施設の比率も高めています。
 ヒューリックでは、「ホテルをつくるならこの場所だ」と立地に拘り物件を取得、その地で提供する最適なホテルサービスまで一気にイメージしていきます。現在は、ヒューリックの観光部門をヒューリックホテルマネジメント株式会社に集約・一元化し、意思決定の迅速化を図っています。当社直営のホテル・旅館は、ザ・ゲートホテル、旅館のふふ、ビューホテル、東京ベイ舞浜ホテルの4ブランドがあり、現在開発中のものも合わせて約30施設になります。

ー京都の観光マーケットについてはどのように見ていますか。また、京都に開業した宿泊施設はどのような状況ですか

髙橋 京都に限らず、日本は世界中から注目されている魅力ある観光地です。今後インバウンドが回復・増加することは確かで、観光需要は底堅いと考えています。ただ京都は取得・開発できる物件が少なく、また規模も大きくありません。権利関係も複雑なケースが見られますので、開発は難しい地域と考えています。宿泊施設全体では、今後開業するものも含めて供給過剰と言われており、ヒューリックでは顧客セグメントを明確に定め、特徴あるホテル・旅館にするよう、土地の取得段階から開発、運営まで一貫した戦略の下で進めています。ザ・ゲートホテルや旅館のふふは、大人のラグジュアリー層をターゲットにしているので、客室数も抑えて満足のいくサービスを提供しています。
 ザ・ゲートホテル京都高瀬川 by HULICは、明治2年(1869)に開校した京都市立立誠小学校跡地を活用した立誠ガーデンヒューリック京都の中にあり、昭和3年(1928)に建設されたロマネスク様式コンクリート造3階建ての校舎の面影も残しているところに特徴があります。ホテルの傍らには高瀬川が流れています。ザ・ゲートホテルは「大人」に対して「本物の価値」を提供するホテルで、この厳しい京都のマーケットの中においても、70〜80%の稼働率をキープしています。
当ホテルでは、ここでしか経験できない、特徴ある〝文化体験〞を提供しています。小学校の時代に修身や作法の授業を行っていた自彊室という60畳敷きの広間で、瞑想やヨガ、写経が体験できるほか、京都の花街のひとつである嶋原の太夫による舞や、観世流の能楽師による謡と仕舞といった本物の文化体験を宿泊者限定で提供しています。
外国人はもちろん、日本人でもなかなか触れる機会のないものです。
 ふふは「最高級のこだわり」と「最高級のサービス」を提供する、日本でもトップレベルの顧客満足度の高い旅館です。ふふ京都は、南禅寺にほど近く、名園として名高い無鄰菴に隣接し、京都らしい立地の中で、全室に天然温泉の浴室を設え、特に料理に力を入れています。国内外のラグジュアリー層の需要は安定していて、90%程度の稼働で、リピーターも多いです。
宿泊者の滞在時間が長いのが特徴で、ふふへの滞在そのものを目的としている方が多いです。

ー今後、どのようなホテル・旅館にしていくという構想はありますか

髙橋  京都で行っているような文化の発信や体験、また食事のレベルの高さといったことを、どのように発信し、広めていくかが課題です。特にSNSでの発信の仕方を模索しています。ふふでは、新型コロナ前から行っているのですが、中国本土内で視聴可能な、微博や小紅書での情報発信に力を入れたところ、成果が上がってきています。
今年の国慶節には、SNSで見た富士山の風景をイメージして、ふふ河口湖に来られた中国のお客様が、「まさにこの部屋に泊まりたかったんだ!」と喜んでいらっしゃいました。ふふ河口湖では、近時、外国人比率が40%程度まで上がってきています。
 宿泊施設としては、観光需要がコロナ前と大きく変化していること、人手不足が更に進むことなどを踏まえ、自分たちの訴求したい顧客のセグメントをはっきりと定め、その顧客ニーズを的確につかんで、それに応えていかなければならないと考えています。そのためにDXを活用して、少ないスタッフでも付加価値の高いサービスを提供していくことが重要です。ふふでは、陣屋コネクトというシステム(※注)を当社用にカスタマイズして導入していますが、従前のインカムでの「言った、言わない」がなくなり、お客様からのリクエストに迅速に応え、お客様の嗜好や習慣などの情報を分析・活用し、他の施設をリピートされた際でもお客様の期待を超えるサービスを提供できるようにしています。「自分のことをわかってくれている」ということが大きな差別化につながり、何よりもお客様に嬉しく感じていただけ、安心感にもつながると思います。

京都という地域とつながることで貴重な旅の体験を 

ー京都の観光に対する期待などはありますか

髙橋 京都はオーバーツーリズムが課題ですが、中でも交通手段が最も大きな問題になっていると感じています。
住民と観光客の棲み分けの検討といったことも始まっていますが、もっとシステマティックに情報発信や誘導ができないか、工夫の余地があると思います。また、SDGsは世界的に極めて重要なテーマになっているので、グリーンキーのような国際認証の取得を進めたり、認知させたりすることが必要です。京都の土地柄は、一般的に、閉鎖的と思われていますが、一方で、外国人は地域との触れ合いを求めていることが多いです。ホテルが、地元と触れ合う機会を提供できたら良いと思っています。
 ザ・ゲートホテル京都高瀬川のキーワードの一つは「まちとつながっている」です。京都の文化を宿泊者が体験するにも地元の理解や協力が必要です。ヒューリックと地元自治会が一体となって、敷地内にあるホテル、イベントホール、ひろばを使ったイベントも企画しています。スタッフも毎週、高瀬川の清掃に参加して交流を深めています。内外を問わず旅行者は、その土地に古くから続く暮らしに触れたいという傾向が強くなっています。地域とつながることによって、お客様にもここでしかできない体験をして満足していただけるものと思います。

○聞き手:後藤健太郎(JTBF)


代表取締役社長
髙橋則孝(たかはし・のりたか)