特集③-❻ 一般社団法人西芳会 参拝者とお寺をつなぐ架け橋として

参拝者とお寺をつなぐ架け橋としての西芳会

―まず、一般社団法人西芳会がどのような組織か教えてください

 西芳会は、西芳寺の後援団体として2019(令和元)年に設立されました。
 西芳寺は約1300年前にできたお寺で、今では「苔寺」として有名ですが、実は苔むした姿になったのは江戸末期以降のことです。江戸時代に近くの川が氾濫して肥沃な土が流れ込んだことで苔が生え始めたようで、現在は35000㎡の庭園一面に120種余りの苔が自生しています。1955年頃に巻き起こった庭園ブームを契機として、世界各国から多くの方がいらっしゃるようになり、当時の参拝者数は京都で4番目の多さだったと聞いています。しかし、参拝される方が増えるにつれ、交通渋滞などの公害問題が生じるようになりました。西芳寺としては観光ブームに乗じてやみくもに参拝者を増やすのではなく、寺院本来の宗教的雰囲気を保ちながら心静かにお参りいただきたいとして、1977年より往復はがきでの事前申込による少数参拝制の実施に踏み切りました。
 西芳会は参拝者とお寺をつなぐ「架け橋」として、お寺に来ていただくきっかけづくりや広報活動をサポートしており、宗教法人であるお寺が本来の宗教活動に専念できるよう立ち上がった後援団体です。現代を生きる人々が自分自身と向き合うことのできる場を提供するという、お寺のあるべき姿を実現するために、西芳寺が考えていることを一つ一つ形にしていくのが私達の仕事で、ポータルサイトでの参拝申込受付や、情報発信を通じて参拝者とお寺をつなぐための活動を行っています。西芳寺の後援団体として発足した西芳会ですが、西芳寺の魅力発信にとどまらず、西山エリアの振興や日本の文化を世界に向けて発信する活動も行っています。
 現在の専従スタッフは私を含め3名。ほかにはデザイナーやコピーライターなど専門スキルを備える方や、お寺や日本文化に関心を寄せてくださる方に協力してもらっています。

心のよりどころとなる行きつけのお寺に

―2023年9月には新しく会員制度「Saihokai」を立ち上げ、オウンドメディアのウェブサイト「into Saihoji」も充実されていますね

 檀家を持たない西芳寺では、参拝される方が納める冥加料だけでは設備の更新や文化財の保護にまで手が回らず、このままでは文化を未来へ継承し、価値ある場を後世へ受け継いでいくことができないという財源の課題が以前からありました。そして、もう一つ課題とされたのが参拝者との関係性でした。往復はがきによる事前申込制というハードルは良い面もあったのですが、一方で「一生に一度行きたい苔寺」というイメージもついてしまっていたのです。西芳寺という場で自分自身と向き合い、繰り返し訪れることで心が調う時間を持っていただきたい―そのためには、参拝者とお寺の持続的な関係性を築かなければなりません。
 そこで、あらゆる方の心のよりどころとなる「行きつけのお寺」というコンセプトが生まれ、その実現に向けた一つとして会員制度「Saihokai」が生まれました。会員向けの参拝枠を設定し、禅の世界に深く触れていただくための会員向け参拝プログラムやWEBコンテンツを提供しています。「Saihokai」は西芳寺に想いを寄せる方々から成るファンコミュニティで、西芳寺が好きでさらに応援したいという方と広くつながるための仕組みです。お寺に想いを寄せる人とお寺が互いに支え、支えられる―そういった双方向の関係性が生まれることを期待しています。会員は国内外を問わず広く募集しており、まだ始まったばかりですが、海外から登録される方が想定以上に多くなっています。
 往復はがきによる事前申込制は、参拝日を心待ちにすることを含め良いお参りのきっかけづくりとして西芳寺が長年大切にしてきたことですが、郵便のやりとりにはどうしても時間がかかります。2021年にオンライン申込の受付を導入したのは、往復はがきの受付終了(参拝日の2週間前)後も前日まで申し込みができるようにというのが一番の理由でした。2023年11月からはオンライン申込の受付開始を2ヶ月前に拡大しました。申し込みのハードルが低くなることで申込枠がすぐに埋まり、繰り返し訪れたい方が申し込めなくなってしまう可能性も考えられたので、会員制度を創設して会員枠をご用意した上で、オンライン申込の受付期間を拡大しようと考えてきました。
 オウンドメディア「into Saihoji」では、お寺をより深く知っていただくためのコンテンツとして「西芳寺を知る」という基礎知識のほか、僧侶が禅語を説くエッセイや、西芳寺を大切に継ぐ人々の物語、西芳寺の境内の音に出会う音声コンテンツなど、様々な記事を発信しています。お参りに来られる方とお寺をつなぎ、西芳寺を身近に感じていただけるよう心がけています。

自分自身と向き合う特別な体験を

―西芳寺では自分自身と向き合うことを含めて様々な豊かな体験ができそうですね。人々がお寺を訪れる価値について、どう捉えられていますか

 西芳寺にお参りに来られた方には、心を鎮めるため、まず本堂で参拝と写経をしていただきます。境内に入られる時は少し興奮気味だった方も、写経後はすっと落ち着いたお顔になり、お庭を静かに拝観される方が多いと感じます。お庭を拝観された後は、心の霧が晴れたようなすっきりとした表情でお帰りになる方も多くいらっしゃいます。そういった、人の心に作用する力が、この場にはあるように思います。
 自分自身と向き合う体験ができればお寺を訪れる価値になると思います。
また、そこでの体験が特別なものであれば、繰り返し訪れていただくことにつながり、参拝者とお寺の関係を育むことができると思いました。

―今後の展望をお聞かせください

 お寺の価値や魅力を世界中へ発信し、参拝者とお寺の関係性を築きながら、世界中に西芳寺のファンを増やしていきたいです。さらに、西山エリアの振興や日本の文化伝統の発展に貢献する活動に益々力を入れていきたいと考えています。

○聞き手:門脇茉海(JTBF)・福永香織(京都市観光協会)


事業責任者
平井佳亜樹(ひらい・よしあき)