特集③-❷ エムケイ株式会社 システムと教育の見直しで

コロナ禍を越えて観光客は昨秋から増加

―コロナ禍での取り組み、そこから現在に至る観光客増加で現れた問題について教えていただけますか。

 MKグループは、札幌から福岡まで8都市でタクシー・ハイヤー事業を展開しているグループです。コロナ禍ではやはり大きなダメージを受けましたが、タクシーがほぼ稼働できない状態が続いておりましたので、医療従事者が公共交通機関を利用しづらいといった報道もあり、医療従事者の方々の無料送迎を申し出ました。京都市と話し合いを行い、コロナ患者の受け入れを行う病院にジャンボタクシーを貸し出し、自由に利用してもらう取り組みを行いました。
田中 飲食店の方々も大変苦労されていたので、1回100円で料理の配送をする「MKタク配」のサービスも行いました。飲食店とタクシーは一心同体のようなものですし、コロナで困っておられる飲食店のお役に立ちたいという思いがありました。
木村 ワクチンの輸送や医療関係者の方の無償送迎などは、京都だけでなく、滋賀、大阪、奈良でもさせていただきました。もちろん、年齢的な問題や基礎疾患を持つドライバーもいるので、相談しながら希望するドライバーを募って行いました。
田中 コロナ禍が明け、昨年10月に外国人の入国が解禁されたタイミングから、タクシーの利用が増え始めました。
特に今春は一気に回復し、修学旅行の利用については2022年の数字が2019年を上回りました。コロナの影響で、行先を海外から国内に変更されたり、近隣の学校が京都に来られたりしたことが要因ではないかと考えています。さらに、これでまで観光バスで移動されていた学校が、少人数で移動できるタクシーを選ばれたこともあるでしょう。個人旅行では、いろいろな補助金や割引が利用できたこともあって、これまでよりも利用が増加したのではないかと思います。
木村 今年は秋以降の予約も順調に入っています。春は、国際会議やイベントで車を使用したことや、コロナ禍の2〜3年前に受注した修学旅行がすべて実施になったことなどが重なり、観光客の方や地元の方の予約をお断りするケースが多くありました。それを警戒されてか、秋はホテルなどが早めに予約を押さえてくださっているのかもしれません。ただ、春は例外的なケースが続いたことが大きいので、秋は受注数を調整しながら進めれば、皆さんのお役に立てるようにできると考えています。
田中 ただ、観光客が一気に回復したことによりさまざまな問題も出てきています。ドライバー不足が話題になっていますが、弊社も登録台数860台に対して、常時稼働しているのは700〜800台ぐらいです。コロナ禍の間、遅くまで飲食店を利用される方が減ったことで、夜勤のタクシーも減少したので、流しのタクシーがつかまらないといった状況が増えるなど、課題はたくさんあります。
 道路運送法の規制上、タクシーの台数は自由に増減することができません。一度減車すると台数を戻すことができないので、会社としては以前のような稼働に戻すため、費用的な問題はあっても、車の台数は動かさずに置いている、という状況があります。増減車が自由であれば、稼働に合わせて台数を増減するのですが、そこは頭を悩ませている部分ではありますね。

社員不足解消に向けた意識を高める教育

―ドライバー不足の状況と対応策について教えていただけますか。

 コロナ禍前の2019年と比べると、全国的におよそ20%のドライバーが減少しているといわれており、我が社もそこまで大きく減少していませんがコロナ禍前より少ない状況です。新入社員の募集にあたっていろいろ仕掛けてはいますが、なかなか思うような反応ではないですね。新しい社員が入社しても、高齢の社員が退職することで、徐々に減少しているという問題があります。
田中 ドライバー不足はお金だけの問題ではないと感じています。今は、私生活を充実させながら仕事ができたり、逆に稼ぎたい人はそちらに比重を置けたり、働く人が自由に選択できる形にしていかなければ、なかなか人が集まらないのではと思っています。
木村 具体的な取り組みとしては、給与は落とさず、出勤日数を少なくして負担を減らせるようにしています。さらに車の性能も高くなっていますので、以前よりも乗り心地がよく、運転しやすくなっていると思います。また、所得についてはコロナ禍前に戻っていますので、その点での満足度は高いのではないかと考えています。
 このほか社員教育の一環で、各営業所で英語研修も行っています。レベル別の英会話サロンを営業所で月2回行い、会社全体で年2回レベル試験を実施しています。級が上がると英会話が必要な仕事を担当することができ、それが英会話手数料としてドライバーに支払われる、という流れになっているので、モチベーションも上がるのではないでしょうか。コロナ禍で停止していましたが、海外留学制度も夏に再開し、5名の社員がイギリスに留学しました。
木村 観光ガイドの知識についても社内資格としてランク分けしています。
観光の知識があり、英語もできて、接遇も良いとなると、当然、配車のランキング(仕事が渡る順番)は高くなります。英語や観光の知識のレベルを体系化することで、個人個人が「これを頑張ろう」という明確な意識を持ってくれていると感じます。

配車アプリやZEV化など変化を見据えた対応

―今後に向けて、新たな取り組みや課題などがあれば教えてください。

 タクシー配車アプリが増えてきていますが、京都MKがUber と提携したのは2019年です。2020年には名古屋MK、2021年には札幌MKがそれぞれ提携を行っています。
現在、たくさんの配車アプリがありますが、最も使われているのはGO、Uber、DiDi の3つ。あるアンケートではその4位にMKのスマホ配車アプリが入っておりましたので、単独の会社で行っている配車アプリとしては多くの利用者が見込めていると考えています。
 また、EV化については早く進めたいと考えていましたが、航続距離が長い車でないとタクシーとしては導入できないので、具体的に採用できるものがありませんでした。2022年あたりから航続距離が長い車種が登場したので、EV化を進めていこうとなりました。5年ほど前から日産リーフなどは導入していましたが、全車ZEV化という方針を出して具体的に動き出したのは昨年からです。
 そしてもう1点、注目度が高いライドシェアについても、これからの動向を見据えて、対応していける仕組みを作っていかねばならないと感じています。タクシーの供給量が減少しているなかで、国民の足を守る何らかの施策は必要だと思いますので、タクシーとライドシェアが共用できるような形を目指したいと考えています。
田中 人手不足が問題になっている今、人を増やさないと稼働できないのは、タクシー業界だけでなく、宿泊業や飲食業なども同じだと思います。
ただどの業種も、なんでもかんでも受けるのではなく、良い仕事を効率よく受けられるようにされていると思いますし、私たちもそのようにしていければと考えています。

木村 今、求められていることが本当に多様化しています。国の方針やルールも変わるかもしれません。また、お客様からの要望や悩み、課題は、「現場」の私たちがこれまでも伺い、前向きに向き合ってきました。中にはそういう発想があるんだ、という面白さもありました。新しい課題や変化に向き合いながら、これからもできる限り対応していければと思います。

○聞き手:福永香織(京都市観光協会)
:後藤伸一(JTBF)


外商部 部長
木村伸介(きむら・しんすけ)


外販セールス部 部長
田中祥一(たなか・しょういち)


経営企画部 次長
東 真一(あずま・しんいち)