C O L U M N 2

❷ 不確実な時代に求められる観光研究の役割 「シマからの視点」

公益財団法人日本交通公社
観光研究部上席主任研究員/おきなわサステナラボ長
中島 泰

 2022年、公益財団法人日本交通公社では、現在、東京・青山に構える本部事務所以外としては初めての地域事業所となる沖縄事務所(愛称:おきなわサステナラボ)を設置しました。一昨年度の設置以降、サステナラボでは、サステナブルツーリズムをキーワードに、「沖縄観光の復興と持続可能な発展の支援」、「サステナブルツーリズムの推進現場での研究・調査の実践」、そして「サステナブルツーリズムを実践する人と知見のプラットフォームづくり」を目的に活動を行っています。
 中でも、客観的な知見の蓄積に基づいた理論を元に、多くの実践の場を作り上げていくことは、サステナラボの大きな目標の一つであり、実践的活動の種を探すべく、沖縄県内に留まらず、鹿児島県内の島々を含めた琉球弧の様々な島を訪ねて、実践者たちとの対話を重ねてきました。

 一般的に島には、買い物の不便さ、救急・医療体制、子育て環境、あるいは商圏の狭さなど、生活する上での様々な不便さ、あるいはビジネスを行う上での障壁が存在します。それはもはや現代では当たり前のディスアドバンテージになりつつあり、若者たちは仕事のない島から離れ、国や地方自治体からの補助や公共工事無しには存続できない島が数多く存在しています。
 私がお会いしてきた実践者の皆さんは、そうした過酷な条件下において、古民家再生あるいは特産品開発・販売などを通じて自らの生計を立てながら、交流人口を創出し、そして島の経済を回し、(観光ではなく)島自体のサステナビリティに貢献をしていました。それは、人によってはかつての故郷の原風景を取り戻す取り組みであり、一方で別の人にとってみれば、子どもたちのために新たな故郷の姿を創出する取り組みかもしれません。一つひとつのプロセスは、ストーリーにしてしまえばそれぞれ美しい話で終わってしまうのですが、実際にはいずれのケースでも明確なビジョン(目標)に向けて直線的なアプローチが取れているケースはほとんどなく、小さな失敗、大きな失敗、そして新しいことに取り組んでいるが故の島内での孤立など、「確実性」の欠片もない世界で展開されています。ただ、何かに辿り着いた人には、強力な柔軟性・レジリエンスがあり、かつ不確実な世界の中で「確かで」「具体的な」未来を強く見据えているといった共通点があると感じています。一方、自身は研究者として何ができるのか、日々、自問自答します。人々の意識を変え、未来の景色を変えていくためには、まず動ける人が動き、未来の可能性を現実の場で具体化する。そして結果を検証し、改善して繰り返していく。そうやって、仲間・理解者を増やしていくことが今とは違う未来に対する社会的な合意に繋がっていくのだとしたら。実現させること、具体化させることの積み重ねによって、未来は少しずつ作られていくのだとしたら。
 島での課題は、島だからこそ現在、分かりやすく表出していますが、構造的には日本全体の地方部が将来抱える課題にもなるでしょう。島での課題に向き合う中で、日本の観光全体が今後対峙していかなくてはならない現象に対して、何かしらの道筋を見出していきたい。そうした中で、私は研究者としては、地域に根差す人に寄り添う町医者になりたいと思います。研究者としてやるべきことは、国内外の多岐にわたる知見を獲得・収集し、それらを科学的な方法で検証し、一般化された理論に結び付けることかもしれません。ただし、一般化に留めず、その目的を地域における実践、一般化からの固有解への適用に置きたいと思うのです。研究者としても、実践者とともに不確実性の世界の中で同じくリスクを受け入れながら、地域課題に向き合っていくこと、それがサステナラボで試みたいこと、そして当財団が事務所を東京以外に置いている意味の一つでもあります。不確実な時代だからこそ、実践する研究者として面白い未来・地域をつくっていきたいと思います。