座談会❸
エコツーリズムがもたらすこと
〜地域づくりへの貢献経済そしてコミュニケーション〜
エコツーリズムの市場規模は。地域にどのくらいの消費効果・経済効果を生み出すのか。
地域づくりにどのように貢献するのか。具体的な数字と事例とともに検証を試みた。
そして、これからエコツーリズムが向き合っていくべきこと、今後の方向性を考察した。
日本人の約4割が「エコツアー」を認知
寺崎 少し前のこと、細野さんから「エコツーリズムの経済効果を具体的な数値で示したい」という提案がありました。エコツーリズムというと資源管理に話題が集まりがちですが、今日はエコツーリズムの市場規模や経済効果、さらに数値ではあらわしにくい地域づくりへの波及効果についても議論が広がることを期待しています。
五木田 最初にお示しするデータは、日本国民のエコツアーの認知度、参加率です。こちらは、国民の人口構成に近いパネルを確保して定期的に実施している当財団の独自調査「JTBF旅行意識調査」からになります。まず、エコツアーの認知度については、2000年以降40%を超えていて(01年41・9%、06年57・6%、16年43・9%、22年40・3%)、一定の認知を得ていると感じます。06年は57・6%と高い数値ですが、エコツーリズム大賞が05年から始まり、エコツーリズム推進法の成立が07年ですので、この時期はメディアへの露出が多かったものと思われます。次に「今までに参加したことがありますか?」と尋ねた参加経験率は、コロナ禍前の16年で6・3%でした。認知度を考えると、こちらはもう少し伸びる余地がありそうです。
寺崎 大体、国民の4割は知っているということですね。そういうスタイルの旅行があるよね、というくらいには浸透しているということでしょうか。
細野さんは旅行会社にお勤めでしたが、旅行会社の社員のエコツアーの認知度はどうでしたか。
細野 名称は知っていても、中身まで理解している人は少なかったと思います。マスツーリズム型の旅行会社だと、「エコ」という言葉を、経済的、節約型など一面的にしか捉えていなくて、「エコロジー」や「エコシステム」まで至っていなかったですね。
寺崎 岡野さんはどのように受け止めますか。
岡野 意外と多いな、という印象です。僕らは日々エコツーリズムを広める活動をしていて、エコツアーが何たるかを知っていますけど、ガイドさんによっては「エコツアー」と言う人もいれば言わない人もいるし、国立公園のツアーに「エコツアー」と書いてあるかと言えば、そうとは限らない。旅行者にとっては多分、「エコツアー」ではなく、「生き物観察ツアー」、「カヌーツアー」、あるいは「アドベンチャーツアー」みたいな見え方なんじゃないでしょうか。
寺崎 なるほど。確かに提供側と受け手側のギャップはありそうですね。
参加者の85%が「また参加したい」と回答
五木田 ぜひ見ていただきたいのが、エコツアーの参加経験×参加意向です。
コロナ禍前の2016年のデータで分析したものになりますが、エコツアーに参加したことがある人は「ぜひ参加したい」、「参加したい」という回答の合計が85・1%。対して参加経験のない人は54・6%です。一度エコツアーに参加すれば、また参加したいという思いが高まるという結果になりました。
寺崎 知床のガイドさんから聞いた話ですが、お客さんが旅行商品を選ぶときは、ガイド付きかどうかではなく、他の条件で選んでいるけど、ガイドツアーに参加してみると、「次も必ずガイド付きを選びます」とおっしゃるそうです。エコツアーは参加して初めておもしろさが認識されるということが、よくわかる話です。
細野 日本エコツーリズム協会で取っている消費者ニーズ調査の結果も全く同じです。一度参加した人は「次はもっとガイダンスの深いツアーに参加したい」という意向が出ています。参加費の限度額について問うた結果では、エコツアー経験者は10106円、未経験者は6025円と、約4000円の差がありました。これはエコツアーの満足度が高いことを示していると思います。
1年間で国民の1〜5%がエコツアーに参加
五木田 過去1年間のエコツアー参加経験率は、2016年で0・9%でした。日本の人口1億2000万人のほぼ1%ですから、1年間で約120万人がエコツアーに参加したことになります。そして、当財団のもうひとつの独自調査、観光旅行を実施した人を対象に行っている「JTBF旅行実態調査」では、「現地ツアーやオプショナルツアー、体験プログラム(以下、現地ツアー等)」という聞き方で参加率を把握しています。つまりエコツアー以外のまち歩きや、陶芸体験などのいわゆる体験プログラムなども含めたものですね。2016年のエコツアーの参加率はほぼ1%とお伝えしましたが、現地ツアー等となると参加率は5・3%になります。先ほど岡野さんがおっしゃった「エコツアーと認識せずに参加している人もいるんじゃないか」ということは、私もずっと思ってきたことです。エコツアーの市場は、1%よりは高く5%よりは低い、その間にあるんじゃないかと思っています。
細野 確かにエコツアーと認識していない人は結構います。日本におけるエコツーリズムは歴史や文化、風土も含めて自然観光資源という捉え方をしているので、ツアーの範囲が広くなる。
だから、このくらいの幅が出るんでしょうね。
五木田 次にお示しするのが、エコツアーの市場規模の概算です。まず、1年間のエコツアー消費額を、人口×エコツアー参加率×ガイドツアー消費単価として、コロナ禍前の参加率データを用いて試算したところ、約63億円でした。そして、もう少し広く捉えた、現地ツアー等消費額を同様に算出したところ、約360億円の規模になりました。
寺崎 ガイドツアーの市場規模が60億円から360億円ということですね。
五木田 続いて、現地ツアー等に参加した人が宿泊したり、お土産を買ったりした消費、つまり現地ツアー等が誘発したであろう消費額を試算しました。2・87兆円は、日本人の国内旅行消費額である21・9兆円をベースに試算したものですが、帰省や出張なども含めた値をベースにしたので、ちょっとのせすぎ感があります。観光レクリエーションを目的とした宿泊を伴う旅行に絞り、日本人国内宿泊観光旅行消費額10・5兆円をベースに試算すると、現地ツアー等が誘発した消費額は1・38兆円となります。
細野 市場規模は2・87兆円と言いたいけど、1・38兆円の方が妥当なような気がします。
岡野 宿泊観光旅行の市場規模が10・5兆円で、そのうちの1・38兆ということですね。観光旅行をした人の13%がいろいろなアクティビティを体験していて、それは広い意味ではエコツアーと呼べる、ということですね。
寺崎 厳密にいうと、この数値に日帰りで参加したエコツアーの消費額が加わります。
エコツアーによる消費効果
五木田 次は、現地ツアー等に参加した人と、参加していない人とで、旅行にかかった総額がどれぐらい違うかを見たものです。参加した人の旅行総額の最頻値は5万円以上7万円未満、平均単価7・7万円に対し、現地ツアー等に参加していない人の最頻値は2万円以上3万円未満、平均単価は5万円でした。
現地ツアー等の参加の有無で泊数の違いを見ると、参加した人は平均2・44泊。参加していない人は1・77泊です。
現地ツアー等に参加した人は単価が高く、泊数も長くなっています。
寺崎 エコツーリズムがもたらす経済面でのインパクトとして、旅行単価には2・7万円の差があるということですよね。この2・7万円の中身にはどういうものが想定できますか。
細野 ガイドツアーへの参加者単価は5679円と言いましたよね。2・7万円のうち、ツアー代が約5000円としたら、残り2・2万円。結構大きな額です。
岡野 消費として大きいのは食か土産でしょうね。現地ガイドと仲良くなって、飲んじゃったとか(笑)。ダイビングに行くと、地元のガイドと飲んだりしますよ。
細野 平均泊数は0・7泊しか違わないのに、旅行単価は2・7万円伸びているということは、宿泊費以外でも使っているということかな。
五木田 泊数を揃えて比較したところ、どの泊数でも、現地ツアー等に参加した人の方が単価が高いという結果でした(図1現地ツアー等参加有無×泊数別旅行単価)。例えば、4泊した人は現地ツアー等に参加した人と参加していない人で、1泊当たり8000円弱の差が出ています。
細野 ガイドに勧められて地元のお土産を買ったり、おすすめの飲食店に寄ったりして、お金を落とすケースも多いと思います。地域のことをよく知ると、少々高くても特産品が欲しくなり、質の良さが理解できれば、お金を使いたくなるんですよね。ガイドさんが地産地消を意識して伝えることで、地元の一次産業や二次産業が潤う例はたくさんあると思います。
岡野 確かに交流や対話の時間は長くなるでしょうね。ガイドさんと旅行者が一緒に歩いていたら、地域の商店の人も話しかけやすいし。
寺崎 ガイドとのつながり、そこから生まれる地元の人とのコミュニケーションによって、地域で提供している商品やサービスへの信頼感が増すということですね。
エコツーリズムが地域にもたらすこと
寺崎 経済面以外の効果に期待してエコツーリズムに取り組む地域もあるようですね。
細野 下呂市では、地元市民を巻き込めるのが、エコツーリズムの良さだとおっしゃっていました。DMOとエコツーリズムを融合させた取り組みを下呂市では2016年から推進しており、DMOはマーケティングやマネジメントに強みを持ち、エコツーリズムは資源の保全と住民参画に強みを持つ、それぞれの良いところを活かした取り組みです。これにより観光が観光事業者だけのものではなく、市民にとっても自分ごととして捉えられ地元愛も深まり、ガイドツアーを核とした経済的な効果も高まる。それで、市民がちゃんとついてきてくれる好循環になっているようです。
五木田 飯能でもそういった話を聞いたことがあります。飯能市のエコツーリズム推進のカギは、地域に住む人。飯能エコツアーの第1号は地域の獅子舞を素材にしたもので、伝統芸能継承の活動にエコツーリズムのエッセンスを加えたそうです。取り組みがいろいろな場所で紹介されたことで露出が高まり、また、エコツアー参加者に喜んでもらえることで、地元の方々の間で「うちの町はいい町なんだ」というシビックプライドが醸成されたということでした。
寺崎 飯能ではエコツアーのリピーターが増えただけでなく、移住、定住にもつながったと聞きました。まさにエコツーリズムがもたらした地域振興、まちづくりの効果だといえると思います。屋久島のように島外の人が移住してガイドとなり、子供たちをそこで育て、子供たちにとって屋久島がふるさとになったという例もあります。
岡野 僕が見てきた奄美の例だと、地域の方々が、自分たちが大事に守ってきたことを役立てようという考え方のもとに動いていましたが、昔からファンの人が多く通う島でもあったので、そういう人たちから地域の良さを教えてもらうことも多かったそうです。島唄に代表されるように、自分たちの身近なもの、しかもそんなに価値があるとは思っていなかったものが、外の人からすごく賞賛されて、自信を取り戻したという話はよく聞きます。
寺崎 地元の人たちも旅行者との交流でいろいろな気づきを得られるわけですね。その意味ではエコツーリズムがもたらす波及効果の源泉は人のつながりかもしれません。
細野 僕が、エコツーリズムがいいと思う理由の一つに協議会の存在があります。ある地域の協議会に参加させてもらったんですけど、第1回は利害関係者が全員集まっていて、全体的に緊張感がありました。でも回を重ねていくうちに、地域を保全しながら利用していくことに対して、みんなが真剣になっていくんです。それと同時に、案外みんな地元のことを知らないということが分かってくる。地元の有識者の方に、協議会の参加者向けに、その地域の世界に誇るべき自然環境について講義してもらったところ、皆さん改めて地元の良さに気づいていました。地元の方たちがエコツーリズムをきっかけに地元の魅力や希少性に気づいて、前向きに取り組むように変わっていったのが、目に見えて分かりました。
岡野 環境省でも、「みちのく潮風トレイル」を整備する際に、地域ごとに地元の皆さんとワークショップをしました。地図を広げて「歩くのにいい場所はありますか」と質問すると、こういう場所があるよとか、昔の思い出話が始まって盛り上がったそうです。それで地域を見直し、地元の誇りのようなものが醸成されていきました。「自分たちが考えた道を誰かが歩きに来てくれたら嬉しいよね」という雰囲気になるし、「東京から来たの。わざわざ来てくれたの」みたいに、話しかけて上質なコミュニケーションにつながるんじゃないかな。細野さんのお話を聞いていて、各地のエコツーリズム全体構想を作る過程でも同じようなことが起きているんだろうなと思いました。地域の中でちゃんとコミュニケーションがとられ、旅行者を迎え入れる準備と覚悟ができることで来訪者が訪れた場所に親しみを感じたり、満足度が高まることにつながると思います。
高付加価値化、上質なツーリズムの本質
細野 実は協議会を作って認定地域に認定されても、それがゴールになってしまって、活動が活性化していない地域も少なからずあるんです。もったいない話ですけど。
五木田 うまくいく地域とそうではない地域の違いはどういうところですか。
細野 違いを整理してみたら、7つのポイントがありました。①明確な司令塔の存在(民主導のリーダーシップ)、②活性化した協議会(行政・各種団体・事業者・住民の参加と連携)、③ルールとモニタリング(保全と利用の定期チェック)、④外部専門家によるアドバイス(外部からの「眼」重視)、⑤マーケティング志向(データ重視・地域CRM、ビジネスマインド)、⑥人材の養成(継続したガイド講習)、⑦持続可能な自主財源の確保(補助金だけに依存しない仕組み)といったところです。やっぱり、リーダーシップをとる人がいて、ちゃんと利害関係者を巻き込んでいるところは成果が出ていると感じます。
それから規制と経済持続性のバランスを考えたり、人数や単価のデータをとることも重要ですよね。
岡野 地域の人が地元の魅力をあまり知らないなら、地域の人が知らないうちに、引き継ぐべき自然や文化がなくなってしまう可能性もあるわけですよね。そういったものがちゃんと地域の人に価値あるものと認識されて、きちんと残し、かつ人に伝えていくために話し合いが行われる。その部分がすごく大事だと思います。そういう意味で協議会は、その地域において大切に引き継いでいくものは何かを確認する場所であり、それを共有し伝えていくステップなんだと思いました。
寺崎 そうしたことが、岡野さんがおっしゃる「上質なツーリズム」につながっていきますか。
岡野 完全につながります。それがベースにないと、観光庁がいう「高付加価値化」も実現しないんじゃないかな。
寺崎 高付加価値、イコール「上質なツーリズム」であるなら、その勘どころはどこでしょう。
岡野 来訪者の満足度が高まること、そして地域の価値が向上すること。それと同時に、そのベースになる自然環境なり文化資源なりが持続可能な形で保全されるという3つです。環境省でも国立公園内の宿泊施設に関する検討会で、国立公園ならではの高付加価値化について議論したのですが、施設がラグジュアリーであることよりも、そこにある資源がもたらす感動や学び、その人の人生を変えてしまうような体験を提供することが高付加価値であるという話になりました。ですから、その場所にどんな資源があり、どんなメッセージを伝えたいのかをまず考えて、それらを伝えるためにはどんな施設が必要で、どんなアクティビティが望ましいかを考えていくのが基本ではないか、という結論になりました。そうした体験、そこで得られた感動や学びが、本当に旅行者の人生を変えることができれば、「この自然を残したい」という守る力も生み出せると思うので、そこを目指したいですね。
寺崎 この先、重要なことは高付加価値ですね。
岡野 そうなると思います。それが結果として単価を上げ経済性を持つようになるのだと思います。僕が現場を回った経験で感じたのは、どこかボランティアっぽいというか、「そんなに儲からなくてもいい」という考えの人が多いということでした。でも、経済も見ていかないと、エコツーリズム、エコツアー自体が持続可能ではなくなってしまいます。
アウトドアブームを追い風に
寺崎 最近、九州で参加したある会議でアパレルのアウトドアブランドの方とお話しする機会がありました。人気ブランドがきっかけでエコツーリズムのことを知るというパターンも、僕はありだと思うんです。観光産業だけじゃなく、二次産業も関わったようなマーケティング、エコツーリズムのブランド化みたいなことも含めて、エコツーリズム市場を考えていく必要があると思います。
岡野 同感です。今、続々と国立公園の中にアウトドアショップが出店していて、結構売れているそうですよ。国立公園オフィシャルパートナーという形で企業の方々とも一緒にやらせていただいているのですが、アウトドアのファッションから入るにしろ、旅先で自然を楽しむために道具を買うにしろ、自然を体験する層を作っていくことが大事だと思います。
細野 アウトドアショップに行くと、アクティブシニアのご夫婦が道具を揃えているのをよく見ます。グランピングやキャンプも流行っているし、世の中がアウトドア志向になっているのは、エコツアーにとっては追い風だと感じます。
岡野 コロナ禍でキャンプが見直されて、キャンプ場も混んでいますよね。
でも一方で、テントがたくさんリサイクルショップに流れているんですよ。
キャンプだけが目的だと、バーベキューを2、3回したら、することがなくなってしまうんでしょうね。でもそこでガイドの導きによって、もう一歩自然の中に入って、自然の楽しみ方を覚えることができれば、可能性が広がると思うので、そのためのチャンネルを作らなくてはと思っています。
寺崎 ガイドツアーは何となくおもしろそうだけど、どうすれば参加できるか分からない、という人たちには、どのように働きかけていけばいいんでしょうか。
細野 着地側も主導権を持ってしっかり自分たちでマーケティングして、プロモーションやチャネル・コンテンツ戦略等をきっちり作りあげる必要があると思います。旅行先での過ごし方という意味では、地元の観光協会、旅館やホテルが、かなり大きなメディアになっています。ホテルや旅館がおすすめする現地ツアーは人が集まりますし、観光協会には、現地ツアーのおすすめリストもあります。ただ、登録認定制度があるかとか、安全・安心のチェックをしているかとか、そういうことが見えにくいところも多いので、品質管理はもっと整備しなくてはいけないと思います。
寺崎 市場拡大のためには、やはり地域サイドから情報発信できるように整えていかなくてはいけないということですね。環境省としては、着地側にどのような働きかけをされていますか。
岡野 環境省ではエコツーリズムに関わる人材育成を進めているほか、エコツーリズム全体構想を策定する取り組みに交付金で支援を行っています。また国立公園の体験コンテンツをまとめて、ホームページで検索できるようにもしています。コンテンツに関しては、ガイドラインに沿って、地域のストーリーなどコンテンツを深める部分、地域への配慮、環境への影響、安全性などに関するセルフチェックをしていただき、ある程度クリアしたものを載せています。そういったチャンネルを増やして、エコツーリズムの間口を広げていければいいですね。
エコツーリズムを推進する原動力
寺崎 日本にエコツアーが紹介されて30年。環境省の重点政策となってから20年が経ちます。この間、各地の皆さんをエコツーリズム推進に動かしてきた原動力は何でしょうか。
細野 やはりエコツーリズムには普遍的な価値があるのだと思います。日本が観光立国を叫んだ時代に、エコツーリズム推進法は同時に世に出てきたわ
けですが、日本って国土が海に囲まれていて森林が7割近くを占めていて、河川がいっぱいありますから、地域おこし、まちづくりを観光でやっていくなら、エコツーリズムの理念・コンセプトがぴったり合うんですよね。もちろん、それだけではお客さんは来ませんが、コンセプトとしては最適ですから、これからも続いていくと思います。
岡野 初期の頃は、観光地ではない地域が新しい形の観光としてエコツーリズムに注目することが多かったけれど、今では、従来型の観光地だったところもエコツーリズムを取り入れています。そういう地域ではおそらく、地域が主体となって観光に向き合っていくことが大事だと感じておられるのだと思います。産業主体になると、どうしても地域は「消費される場所」になってしまいますから、そうさせないためにエコツーリズム推進法に基づくエコツーリズム全体構想のプロセスに注目されているのではないでしょうか。
寺崎 エコツーリズムを作り上げていくプロセスこそが重要なんですね。
岡野 はい。そして、そのプロセスに加えたいのがインタープリテーションです。地域のいろいろなコンテンツをつなぎ合わせてメッセージとして伝えていく方法だとか、来訪者の分析、来訪者に合わせた伝え方などを考えていく、コミュニケーション戦略としてのインタープリテーションが重要だと思います。その部分が加われば、エコツアーの適正な価格にもつながっていくんじゃないでしょうか。環境省としても、過去の政策を進化させ、また積み上げていきながら、そうした事例を国立公園の中で、周辺の地域の皆さんと作っていきたいと考えています。
寺崎 エコツーリズム協会では、次のフェーズに向けてどんなことをしていきますか。
細野 ガイドの社会的な価値、これを明確化したいと思っています。産業分類の中にどう位置付けるかとか、業界としてどう作るかとか、いろいろ課題はあるんですけども、地域の付加価値を高める役割は絶対にガイドが担っていると思いますし、ガイドはその地域のブランドアンバサダーであり、地域のメッセージを伝えるメディアでもある。経済的な波及効果や、社会的な効果を生み出しているのはガイドですから、しっかりと社会的な価値を位置づけることが重要だと思っています。一方で、安全・安心のところとか賠償能力も見ておかないと、社会的な地位は明確にならないですよね。そういうところを行政の皆さんに働きかけていきたいです。
寺崎 五木田さんは、エコツーリズムが続いている理由を、どう考えますか。
五木田 やはり「守りながら」という部分が、他のツーリズムと大きく違うからではないでしょうか。来訪者のことだけでなく、そこに住んでいる人のことも考えながらという視点は、エコツーリズム以前にはあまり知られていなかったと思います。そういうところが地域の方々に共感されたから、これだけ長く続いているのだと思います。
市場調査をする立場としては、今後、供給側から見たエコツアーの市場を明らかにすることが求められると思っています。今日のお話にもあったように、エコツアーの捉え方は供給側と需要側で違います。エコツアーをエコツアーとしてより多くの人に認識してもらうには、これだけの価値がある、市場規模があるということを、産業としてしっかり示す必要があると思います。
細野 今日は、概算ではありますが、エコツアーの地域における経済効果も明らかになりましたね。今後もっと調査してみたいし、地域の産業連関図まで作れたらおもしろそうです。
岡野 具体的な数値を出したことで、こういう見方もあるとか、こういう波及効果もあるなどの意見が出てきて、次の議論につながりそうですね。
寺崎 こうした宿題を整理した上で、エコツーリズムの普及と定着、そして本質をふまえた新たな展開に向けて、取り組んでいきましょう。本日はありがとうございました。
岡野隆宏(おかの・たかひろ)
環境省 自然環境局 国立公園課
国立公園利用推進室 室長
1997年環境庁入庁。主に国立公園、世界自然遺産の保全管理を担当。阿蘇くじゅう国立公園、西表国立公園のレンジャー、鹿児島大学特任准教授を経て2017年より現職
細野顕宏(ほその・あきひろ)
一般社団法人 日本エコツーリズム協会
理事 事務局長
1982年(株)日本交通公社入社。JTB取締役旅行事業本部長、JTBコミュニケーションデザイン代表取締役社長など歴任。
東京観光財団常務理事を経て2022年より現職
五木田玲子(ごきた・れいこ)
公益財団法人日本交通公社
観光研究部 市場調査領域 上席主任研究員
進行:寺崎竜雄(JTBF)
座談会撮影○村岡栄治
構成・文○吉田千春