❻岐阜県 白川村
白川村
エコツーリズムの取り組み状況について
加藤忠利(白川郷まるごと体験協議会事務局長)
「白川村エコツーリズム推進全体構想」作成の目的・意義
白川村は、岐阜県北西部に位置し、日本でも有数の豪雪地帯で、自然豊かな飛騨の中でも、白山をはじめとする多くの山々と清流庄川が急峻な地形をなし、人の手が比較的入っていない自然の姿を残しています。その中には白山国立公園や天生(あもう)県立自然公園など生物多様性に富んだ豊かな自然が存在する地域で、村全域が白山ユネスコエコパークの登録エリアになっています。また、1995年に白川郷合掌造り集落が世界遺産(文化遺産)に登録されるなど、合掌造りや「結」の精神、どぶろく祭を始めとする伝統行事、有形及び無形の文化財など、今では国際的にも注目される様々な歴史や伝統文化を守り育んできた背景があります。
近年、コロナ禍前は、海外からの観光客も増加している中、年間175万人の観光客が訪れる地域でありながら、交通の利便性の向上や「体験・滞在型 観光」のコンテンツ不足等により、「立ち寄り型観光地」になっており、十分な観光消費を促し、稼ぐ仕組みが構築出来ていない状況でした。このため、地域固有の自然・文化資源を生かしたツアーのラインナップを増やし、より地域の魅力を伝えられる着地型観光へ移行することが求められていました。そのような背景の中、地域の活性化を図りつつも、エコツーリズムの考えに基づく環境への配慮を促す観光推進のシステムを構築し、持続可能性のある観光立村を目指すため全体構想の作成に着手しました。全体構想作成に当たっては、白川郷まるごと体験協議会が中心となり、2017年4月に「白川村エコツーリズム推進全体構想」に着手し、2020年9月に各省庁の事前協議を経て2021年7月に認定を受けることが出来ました。全国で19カ所目の認定で、エコツーリズムを推進する地域は、白川村全域で主な観光資源は、自然環境に係るものと伝統的な生活文化に係るもので非常に多岐に亘っています。
エコツーリズム推進体制の拡充とエコツアー開催状況
2021年7月の認定後は、全体構想を推進するための運営体制の整備拡充を図りました。まるごと体験協議会の下に全体構想の周知やルールの運用を担当する「エコツーリズム推進部会」を、また主に自然環境のモニタリングを担当する「自然環境部会」の二つの運営部会を設置しました。
エコツーリズム推進部会は、2021年9月に白川村観光事業 者及びアクティビティ事業者を対象に全体構想の内容及び各種ルール等の説明会を実施する等、継続的な周知活動を実施しています。
自然環境部会は、2021年度の活動として、自然環境のモニタリングを実施するための基礎調査として「NPO法人森のなりわい研究所」へモニタリング地域及びモニタリング項目の選定についての調査を業務委託しました。また、その調査結果を基に2022年度は、白川村観光事業者及びアクティビティ事業者を対象にエコツアーの体験研修会を開催し、モニタリングを含むエコツアーのルールの周知徹底とエコツアーの活用促進を図りました。
2021〜2022年度のエコツアー開催状況は、トヨタ白川郷自然學校、アクティビティセンターを中心に10種類のツアーを催行し、2年間で1092人参加の実績を得ることが出来ました。全体構想作成の目的である地域の魅力を伝えられる着地型観光への移行と地域活性化の一助になったと考えています。
エコツアーのメリットと持続可能な運営を図るための課題
全体構想の認定を受けると、規制緩和の一環として、「エコツアー等の事業者がそのツアー参加者を対象に行う送迎のための輸送」が、「道路運送法に基づく旅客自動車運送事業の許可を要しない」ものとなります。これにより公共バス交通網が乏しく、タクシー交通も十分とは言えない山間地の白川村において、エコツアー等の事業者が「自らの保有する自家用自動車」を用いて、多種多様な体験ツアーを催行することが可能となります。宿泊事業者とアクティビティ事業者が連携し、多くの人を大自然の中に招くことが出来る商品が投入され易い状況となります。これが大きなメリットと考えます。 例えば、夏は大白川の白水湖を活用したツアーや、秋の紅葉シーズンは、日本三百名山の一つ三方岩岳のトレッキングツアーの開催等、ツアーの企画運営が柔軟に対応できる状況となっています。
エコツーリズムを地域全体で継続的に推進するためには推進組織(白川郷まるごと体験協議会)の運営費となる財源を確保する必要があります。また、モニタリングの実施、評価を行うための経費についても確保する必要があります。
まるごと体験協議会では、2021〜2022年度については白川村への交付金、環境省の生物多様性保全推進交付金等を得ることが出来ましたが、持続可能な運営を図るためには、安定的な自主財源を確保する必要があると考えています。そのためには、例えば安定的な自主財源には、広く受益者(ツアー参加者、アクティビティ事業者等)から支援を得る方法も検討していく必要があり、その仕組み作りや合意形成が大きな課題と考えています。
加藤忠利(かとう・ただとし)
岐阜県大野郡白川村在住。東海地方の製造業で環境、リサイクルの渉外業務に従事。退職後NPO法人白川郷自然共生フォーラムに入職し、白川郷まるごと体験協議会で事務局長を兼務し、エコツーリズムの全体構想認可と運用を担当。休日は奥飛騨での渓流釣りや登山を楽しむ。