❹埼玉県 飯能市

大都市近郊に広がる里地里山型エコツーリズムの先進地
村中 翔(飯能市産業環境部観光・エコツーリズム推進課主任)

我々がエコツーリズムに取り組み始めたきっかけ

 埼玉県飯能市は自然環境に恵まれていたことから、昔から多くの方がハイキングなどで訪れていましたが、それらの大半は地域と関わりを持たずに帰っていく状況でした。また、山間地域では高齢化や過疎化、かつて賑わいを見せていた中心市街地も商店街の空洞化などの課題がありました。
 このような課題があるなかで、将来に向け、自然・生活環境を守りながら、活力あるまちをつくりあげていくために、様々な検討をしました。
その結果、当市が持っている「身近で豊かな自然資源や歴史・文化資源、地域の方が培ってきた生活・習慣、食文化など」を宝物としてとらえ、それらを活かしながら、地域の活力や経済の振興につなげていくための手段の一つとして、エコツーリズムの導入が有効と考えました。
 環境省の施策展開のタイミングも一致し、2004年に環境省のエコツーリズム推進モデル事業「里地里山の身近な自然、地場の産業や生活文化を活用した取組み」への応募・指定を受け、取組みを開始しました。
 開始後は、エコツーリズムを推進する部署(現:観光・エコツーリズム推進課)を設け、エコツーリズムの普及・定着、エコツアーの支援・PR、エコツアー実施団体への補助金などの財政支援を始めました。
 飯能では「人のふれあい」と「体験」を重視し、「地域の人が地域の言葉で、地域を案内するエコツアー」が行われています。

環境省エコツーリズムモデル地区としての成果
 2004年からの環境省エコツーリズムモデル地区としての成果について主に3点挙げることができます。
 まず、1点目はまちのPRです。「エコツーリズムのまち・飯能」として、市外・海外から大勢の方がエコツアーに訪れるきっかけとなり、視察に来ていただけるようになりました。自治体や大学の研究者やゼミなどによる視察は年に10回以上あり、イベントでの出展や講演、新聞やラジオなどのメディアを通じて、まちのPRにつながりました。
 2点目は飯能ファンの増加です。エコツアーをきっかけに、飯能が好きになった、ファンになったという方がいらっしゃいます。1年に何度も訪れてくださる方もいらっしゃいます。このようにエコツーリズムは飯能の観光事業の中で大きな柱に育っています。
 3点目としてエコツーリズムに関する取り組み方針などを話し合う「エコツーリズム推進協議会」を設置し、市と協議会が両輪となって、飯能市エコツーリズムの基本方針などを定めたほか、その方針を実現するため、エコツアーの質を担保する仕組みなどを構築することができました。以上、3点が大きな成果と考えています。

エコツーリズム推進法の認定を受けて
 飯能市は、東京都心から約1時間、埼玉県の南西部にある人口約8万人のまちです。市の面積の75%が森林を占め、また、一級河川である入間川や高麗川が流れているなど、緑と清流のまちです。これらの身近な自然や自然に根付いた地域の生活文化を活かしながら次の世代に残していくことに主眼を置いた全体構想を策定し、エコツーリズム推進法の認定を受け、次の3点をポイントに取り組んでいます。
①地域の魅力の再発見
 エコツアーの企画のために地域の人材や資源の発掘が行われ、住民が地域の良さを再発見することにつながっています。その結果、地域への誇りや愛着が生まれ、地域が元気になっています。
②里山の保全、環境教育の推進
 エコツアーに参加していただく中で、森の間伐材の活用やビオトープづくり、竹の伐採などの里山の保全活動を楽しみ、環境保全意識の向上にも結びついています。遠足で訪れる小学生をエコツアーガイドが案内するなど、環境教育にも力を入れています。
③地域経済への貢献
 エコツアーの中で地元の食材を活用したり、市内のお店を利用したりして、地域経済へ貢献できるよう工夫しています。また、エコツアーの参加者の皆様には公共交通機関を利用していただくようにお願いをしており、公共交通機関の利用機会の増加に寄与しています。

里地里山型エコツーリズムの先進地であり続けている理由
 当市がこれまでエコツーリズムを継続できた要因は、地域のガイドにあると考えています。飯能エコツアーのガイドは単なる商品としてツアーをつくっていないように感じています。企画から実施までの過程を近くで拝見させていただくなかで、「地元が好き」「飯能の良い所を知ってもらいたい、好きになってもらいたい」という郷土愛が原動力となり実施されているツアーが多く、それは参加したお客様にも伝わり、リピーターを生むことにもつながっていると感じています。数値では測れないガイドのおもてなしの心が、これまで飯能が長くエコツーリズムを続けられた要因になっているのではないでしょうか。
 また、ガイドがツアーを企画するハードルが低かったことも要因になったと考えています。当市では自然保護や伝統芸能継承といった地域活動が元々盛んに行われており、そうした素地にエコツーリズムのエッセンスを加えることでエコツアー化してきました。飯能エコツアーは、地域の身近な資源を利用しているためツアー造成のハードルが低いことで、全体構想が認定されてから今日まで途切れることなく、ツアーを実施することができたと考えています。
 ツアー参加者の視点で考えると、都心からのアクセスの良さも要因と感じています。池袋から電車で約1時間という立地は、自然を求める都市部の客層にとって日帰りできることや、エコツアー以外の観光と合わせた近場の旅行に最適だったのではないかと考えています。手軽に出かけられる場所で自然を味わう体験コンテンツを提供できるのは当市の強みです。
 地域の「財産」「宝物」を次世代につないでいくことができることがエコツーリズムに取り組む意義だと考えています。近年SDGs などの言葉が
注目されているように、様々なモノ・コトを未来にどのように残していくか、つないでいくかが重要視されていると感じています。エコツーリズムは環境保全を観光と組み合わせることによって、地域に昔から住んでいた人でなくても気軽に自然や文化に触れることができるようになり、その素晴らしさに触れることで、次世代の担い手を探す手段としても有効であると考えています。

村中 翔(むらなか・かける)
2015年飯能市役所入庁。産業環境部産業振興課、市民生活部地域活動支援課飯能中央地区行政センター、上下水道部水道業務課を経て2022年度から現職。飯能市エコツーリズム推進協議会事務局の業務を中心に、エコツーリズムの推進に従事。