「日韓国際観光カンファレンス2023」を開催
1.概要
2023年11月29日(水)、日韓国際観光カンファレンスを開催しました。このカンファレンスは、研究協力に関する覚書(Memorandum of Understanding on Research Cooperation、MOU)を結んでいる韓国文化観光研究院(以下、KCTI)と毎年共催しているものです。
今回は4年ぶりの韓国・ソウルでの開催となりました。
当日は、両機関の代表挨拶後、研究協力に関する覚書の締結(更新)を行い、その後、第1部として「観光動向」、第2部として「観光人材の課題」をテーマに、両機関の研究員3名に加え、日本政府観光局(以下、JNTO)から1名の計4名による研究発表等と質疑応答を行いました。
第1部の「観光動向」については、KCTIのリュ・グァンフン先任研究委員から「韓国における国際観光の動向」と題して訪韓外来観光客の動向や韓国における国際観光の展望について発表がありました。続いて日本側を代表しJNTOソウル事務所の清水雄一所長より「日本における国際観光の動向」と題して日本のインバウンド観光の今後の方向性や日韓交流の本格回復に向けての具体策について発表いただきました。
第2部の「観光人材の課題」については、KCTIのキム・ヒョンジュ先任研究委員より「観光人材に関する主な問題と政策の動向」と題して韓国の観光人材の現状や観光人材育成政策の推進の現状と今後の方向性について発表がありました。続いて当財団の江﨑貴昭副主任研究員より「日本の観光人材の課題と政策動向」と題し、観光産業人材、観光地経営人材のそれぞれの課題とその解決に向けた方策について発表をしました。
本稿では各研究発表の要旨をご紹介します。
2.各研究発表要旨
【第1部】観光動向
韓国における国際観光の動向
韓国文化観光研究院
リュ・グァンフン 先任研究委員
訪韓観光客の動向
2023年9月時点で2019年の75・2%の水準にまで回復。2023年は政府目標の訪韓客数1000万人は達成する見込みである。ヨーロッパ、アメリカ、オセアニアなどは、2019年を超える訪韓客数にまで回復。一方で、中国は3割と回復が遅れている状況。
訪韓の目的は、ビジネスの割合が上昇し、観光の割合はやや下落。訪韓理由については、韓流コンテンツなど、韓国文化に対する関心が高い傾向が見られる。個人旅行の割合が高くなり、1人当たりの消費額も3割増加。
韓国人の海外旅行の動向
アウトバウンドは1月〜9月までの統計で1418万人。9月単月では2019年比98・4%の202万人が海外に旅行。そのうち、海外旅行全体に占める訪日旅行の割合は30・5%であり、2019年19・4%から大きく伸びた。
韓国における国際観光の展望
現在政府が進める第6次観光振興基本計画では、2027年までに3000万人の訪韓客数を目標に掲げている。
2027年の予想値として、訪韓客数は2520万人。韓国人の海外旅行者数は3280万人になる見通し。
現在のソウル、釜山、済州に集中している観光客を地方へ分散させることが、大きな課題。特に、尹錫悦政権の発足後、観光産業とK│カルチャーの輸出を結び付けていることが特徴として挙げられる。
また、コロナ禍を経て見られる大きな変化としては、海外旅行の費用が大幅に上がっていること。来年以降も料金が上がると予想されている。円安に代表される為替レートの変動は、国際観光・交流に影響を与えるものとして考慮すべき要因だ。
2019年時点で、人口に対する海外旅行者の比率は、日本は16%に満たない状況。韓国は55・5%で、日本の3・5倍と高い割合だが、これまでの成長の勢いが少しずつ鈍化し始めた兆しがある。今後は日本同様に横ばいになっていくのではないかと懸念している。
日本における国際観光の動向
JNTOソウル事務所
清水雄一所長
訪日観光の概況
2023年1月から10月までの訪日客数の累計は、1989万人。年末まで2カ月を残した時点で、2015年の年間の数字を超えているという状況。韓国からの訪日客数に関しては、10月が63万人で単月における過去最高水準という大きな記録が残った。1月から10月の累計が550万人。
2019年1月から10月が513万人を越えた。
訪日観光に係る課題
韓国からの訪日客数については過去最高水準、2019年超えになっているが、地方分散の面では、いまだ、課題がある。外国人延べ宿泊者数の62・0%が、上位5都道府県である東京都、大阪府、京都府、北海道、沖縄県に宿泊しており、偏った状況である。韓国人延べ宿泊者数に絞ると、大阪府と福岡県での宿泊の割合が高くなる。また消費額の大部分がこれら大都市となる。この大都市集中の解消が我々の役割である。
訪日マーケティング戦略
観光立国推進基本計画を踏まえ、持続可能な観光・消費額拡大・地方誘客促進の実現に向けて、きめ細かにプロモーションを展開するための戦略を策定。この戦略を観光庁、JNTO、地方運輸局、DMO・地方自治体等間で共有し、各主体が政府目標達成のための効果的かつ効率的な施策展開を目指している。戦略は、市場別・市場横断(高付加価値・アドベンチャートラベル・万博)・MICEの3部構成となっている。
訪日韓国市場の概況
消費額(7万6138円/1人当たり=2019年)と地方への宿泊数(526万泊)を増やしていくのかということが、当事務所の役割。日韓間の航空便の路線数に当事務所は非常に注目している。直近の11月の数字では、22空港、1週間で1100便ほどまで回復。地方路線を復活させ、いかに需要をつくるかという点を踏まえ、情報発信に取り組んでいる。具体的にはInstagramで心をつかみ、韓国最大のブログサービスNAVERで育てていく取り組みを進めている。
【第2部】観光人材の課題
観光人材に関する主な問題と政策の動向
韓国文化観光研究院
キム・ヒョンジュ 先任研究委員
観光労働市場の環境変化と主な問題
韓国の観光分野の学会および業界の専門家が重要と認識している環境変化は、①人口構造の変化に伴う学齢人口の減少(2023年で725万人が2030年には593万人に減少)、②MZ世代(韓国で1981〜2010年生まれの世代)の職業観の変化(仕事に対する重要度が低下)、③DXの推進(旅行事務員の54・4%、宿泊施設従業員の51・9%に代替可能性がある)、④コロナ禍による、観光分野における雇用の減少(コロナなど危機的状況では、観光産業の雇用は非常に弱い構造)の4点である。
次にこの環境変化が観光人材政策に与える課題は、①観光労働市場の量的規模の縮小、②観光人材育成に向けた統合的なアプローチの不足、③観光人材の競争力強化に対するニーズの増加という3点である。
観光人材の現況
観光を専門に学ぶ観光人材予備軍は年間約26000人が輩出(卒業)されている。そのうち特定科高校が14281人で最も割合が高い。地域別では首都圏の割合が高い。コロナ禍により観光関連学科への進学が避けられ入学生数が約2割減少。観光人材予備軍の減少に伴う人材不足は地方が深刻な状況。人材確保の代案として観光分野の大学、或いは語学等、他の専攻分野と連携する方策が始まっている。
観光人材育成政策の推進の現状と今後の方向性
文化体育観光部(日本の文化庁、観光庁、スポーツ庁にあたる)が進める人材政策のポイントは4点ある。①「観光従事員」という観光人材に対する資格制度、②観光分野の予備人材育成のため、起業家、創業家への支援、就業教育、③「観光従事員」の力量強化に向けた教育トレーニング、④観光分野への就職基盤を造成するための雇用博覧会、雇用センターの運営だ。文化体育観光部が人材育成政策をまとめ、観光協会、業種別協会、韓国観光公社がこれらを実施する構造である。
観光人材育成政策の方向性と課題を4点紹介する。①観光人材の需給バランスの向上。短期では集中的な人材マッチングが必要。長期では観光人材の需給実態に関する分析を定量化する必要がある。②職業構造の変化への対応。未来型人材を育成するには標準的な教育課程の開発、現場で必要とされる人材を育成する基盤づくりが必要、③観光人材の競争力を強化。「観光従事員」の資格制度の改善が必要。観光人材に対する教育トレーニング体系の再編、見直しが必要。④観光人材育成政策推進者の協力ネットワークを構築。日本ではコロナ禍で観光人材育成政策を推進するため産学官の協議体が構成されガイドラインを策定した。非常に良い模範になると考える。
日本の観光人材の課題と政策動向
公益財団法人日本交通公社
江﨑貴昭 副主任研究員
日本の観光人材の現状
コロナ前、2019年までは日本人の消費額が少しずつ伸び、訪日外国人数が一気に伸びた時期。これまでの数十年間で特に恵まれた時期であった。
一方で、観光人材、観光産業の部門では、大きく成長していなかった。宿泊業、飲食サービス業は、元々他の産業より給料が低い上、この時期、給料が伸びるどころか、やや減少している。訪日客数の増加が日本の観光人材の賃金上昇に結び付いていなかった。パート、アルバイトという非正規雇用の割合が高いことも大きな要因だと思われる。
人材不足も深刻である。現在、日本のどの観光地でも人手不足が課題である。政府の調査によると宿泊業全体の8割近くが人手不足と感じており、観光地全体をマネジメントする人材も不足。日本の観光地域づくり法人向けに行ったアンケートでは全体の63%の観光地域づくり法人が、人材確保や育成に課題を感じている。
日本政府の観光人材に係る政策
観光立国推進基本計画の主な政策においても「人材」という言葉を用いており、観光庁では、特に人材を喫緊の課題としている。そういった課題感から、観光庁に「観光人材政策」という名前の専門セクションを設立。今春、観光人材育成のためのガイドラインを策定し、観光人材を、観光地の個々の事業経営を行う「観光産業人材」と、観光地全体の経営を担う「観光地経営人材」に分類した。
「観光産業人材」については、経営人材、中核人材、実務人材、観光教育(次世代を担う若者)の四つの構造に分け育成を実施。例えば経営人材の育成では、ホテルや旅行会社、観光地域づくり法人、鉄道会社、航空会社などの各関連企業の社員を対象に国立大学と連携してプログラムを作成・実施している。
「観光地経営人材」については、観光地域づくり法人内の人材育成として、先ほど紹介した大学のプログラムを受講することに加え、大きく2つの取り組みがある。1つは他の観光地域づくり法人との交流や先進的な地域を視察することへの支援、もう1つは外部の専門家の派遣として、今後、伸ばしたい分野、足りない分野等に対し専門家を派遣する取り組みを実施している。
当財団でも観光地域づくり法人への人材派遣を実施、また、今後の観光人材育成を目的に大学生を対象に講義を実施しており、引き続きこのような人材育成事業に取り組んでいきたい。
3.おわりに
コロナの影響からしばらく訪韓ができませんでしたが、4年ぶりに韓国・ソウルにて開催することができました。韓国では「初雪が降ると待っていた人が来る」という諺があるようです。
まさにカンファレンス当日、ソウルでは初雪が観測されKCTIの皆さまから「待っていた皆さまが来ました」と温かい言葉を頂くことができました。
その言葉通り、日韓双方の研究者、関係者がそれぞれの研究成果・課題を発表し、質疑・議論を熱心に交わす素晴らしいカンファレンスになりました。
また、2005年から始まり、第6期目となる研究協力に関する覚書(MOU)を締結(更新)しました。引き続き研究協力体制を強めていきたいと思います。
今後も日本と韓国の観光に係る類似点、差異をお互いに理解し、信頼関係を構築することで、両国の観光文化の発展に努めてまいります。
(文:JTBF・後藤伸一)