先読み!マーケット 第十二話

概要

第十二話  20代後半の”山女子”が急増中! ~2009年の登山ブームを読み解く

最近、富士山や高尾山などで若い女性の登山客が増えています。アウトドア用品店で若い女性向けの品揃えが充実、書店のアウトドアコーナーでは女性モデルを表紙に飾った専門誌が平積みされています。

“巣ごもり”傾向が強いといわれる若者市場で、にわかに活気を帯びてきた”山女子マーケット”。今回の「先読み!マーケットトレンド」では、全国生活者を対象に実施した「登山・トレッキングに関するアンケート」注1の結果をもとに、2009年に起こった女子登山ブームの背景に迫ります。

■若い女性登山者の4割がビギナー

2009年注2に登山やトレッキング(以下、登山)を実施した人は回答者全体の11.7%。10人に1人が登山に出かけていました。年代別にみると、実施率が高いのは依然として中高年です。男性50代後半や女性60代前半では5人に1人が登山に出かけています。【図1】

しかし、特筆すべきは若い女性でのビギナー率の高さです。2009年にはじめて登山に出かけた人の割合が、女性20代後半では5.2%と圧倒的に高く、女性30代前半でも比較的高い比率を示しました。25~34歳の女性登山者では、実に4割がビギナーだったことになります。

このように、2009年は若い女性の”登山デビュー”が目立って増えた1年となりました。

 
図1 2009年に登山を実施した人の割合

図1 2009年に登山を実施した人の割合

■登山に目覚めたきっかけはメディア

若い女性が登山に目覚めたきっかけは、いったい何だったのでしょうか。

2009年に登山に出かけた女性25~34歳では、登山をはじめたきっかけとして「雑誌やテレビ等を見て」「健康づくり・体力強化のため」をあげる回答が最も多く、中でもビギナーの大半が「雑誌やテレビ等を見て」を選択していました。【図2】

2009年には女性向けアウトドア専門誌「ランドネ」(枻出版社)が創刊。インターネット上では鈴木ともこ氏のコミックエッセイ「山登りはじめました」(メディアファクトリー)が発信され、その後書籍としても出版されました。こうしたメディアが、初登山者向けに登山の基礎知識を提供するとともに、山に登る楽しさを若い女性に伝えることに成功したのでしょう。

 
図2 登山をはじめたきっかけ(複数回答)

図2 登山をはじめたきっかけ(複数回答)

■音楽イベントが若い女性を野外へ導いた

昨今のアウトドア専門誌では、登山やトレッキングとともに野外フェスの特集が目立ちます。野外フェスとは、ロックを中心とする野外音楽イベントのこと。毎年多くの若者が集まることで知られています。会場付近のキャンプサイトでテントを張って過ごすスタイルも定着しており、野外フェスの経験を通して登山に関心を向けた若者が多いのではないかと考えられます。
図3 野外フェスと登山のどちらを先に経験したか

図3 野外フェスと登山のどちらを先に経験したか

野外フェスへの参加経験があり、かつ2009年に登山に出かけた女性を対象に、野外フェスと登山のどちらを先に経験したのかを尋ねてみました。その結果、女性全体でみると半々ですが、女性25~34歳では75%が「野外フェスを先に経験」しており、その半数が2009年にはじめて登山に出かけていたことがわかりました。【図3】

2009年に起きた若い女性の登山ブームの背景には、登山とは一見関係のなさそうな、若者に人気の音楽イベントの存在があったのです。

■身の丈ファッションが彼女たちを動かした?

さて、昨今の登山ブームを語る上ではファッションが欠かせない要素となっています。”山スカート”に代表されるオシャレな登山スタイルが話題になっていることは、ご存じの方も多いのではないでしょか。

しかし、登山の”きっかけ”や”楽しみ・効用”としてアウトドアファッションを捉えている人は、若い女性でも意外に少ないのです。これまでにない登山スタイルということでクローズアップされがちですが、彼女たちは普段着の延長として自然体で着こなしているようです。むしろ、この身の丈にあった登山スタイルの浸透が、新たな参入を促した要因のひとつなのかもしれません。

若い女性が登山の楽しみ・効用としてあげたのは、登山道の自然、山頂からの絶景、そして登り終えた後の達成感でした。彼女たちも純粋に、登山そのものの醍醐味に魅せられているのです。【図4】

図4 登山の楽しみ・効用(複数回答)

図4 登山の楽しみ・効用(複数回答)

■登山ブームはまだまだ続きそう

最後に、若い女性を中心とする登山ブームの行方を見通しましょう。

登山に対する女性20代の潜在需要は未だ拡大を続けています。今後「登山や山歩きを楽しむ旅行」に行きたい人の割合(希望率)は2007年から上昇傾向となりましたが、2009年はさらに大きく比率を伸ばし、女性20代の16.8%が「登山や山登りを楽しむ旅行」に出かけたいと回答しました。他の年代と比較しても、20代の伸びが際だっています。【図5】

リピート希望はさらに高いです。2009年に登山に出かけた人の同旅行の希望率は、女性20代でなんと45.0%。半数近くの人が”また行きたい”と考えているのです。【図6】

以上のデータを見る限り、若い女性の登山ブームは今しばらく続きそうです。これまで中高年が中心だった「登山・トレッキング」。この動きを市場拡大のチャンスと捉えて、着地側でも新たな客層のニーズに対応していくことが、将来の登山愛好家を育むことにつながるのではないでしょうか。

図5 「登山や山登りを楽しむ旅行」希望率の推移

図5 「登山や山登りを楽しむ旅行」希望率の推移

図6 2009年に登山を実施した女性の      「登山や山登りを楽しむ旅行」希望率

図6 2009年に登山を実施した女性の
     「登山や山登りを楽しむ旅行」希望率

旅行に消極的だからと見過ごされがちな現代の若者市場。しかし、2009年の登山ブームは、若者の旅行市場拡大の可能性を示唆しています。今一度、現代の若者の価値観やライフスタイルに向き合うことで、”巣ごもり”好きな彼らを外へと駆り立てる糸口が見えてくるかもしれません。
注1 「登山・トレッキングに関するアンケート」
財団法人日本交通公社が毎年10月に実施している全国生活者対象のアンケート「旅行者動向調査2009」の一環として実施。対象者は調査会社の「郵送調査パネル」から抽出。郵送による調査票の配布と回収。配布数は毎年4,000人、回収数は2,300人前後。
注2 2009年10月実施の調査のため、2009年冬期(おおむね11月以降)に実施された登山は含まれていない。

私どもでは皆様が日頃感じている旅行市場への疑問や関心のあるテーマなどについてお便りを募集しておりますので宜しくお願いします。

< 川口 >

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