概要
(1) これからのわが国の観光、観光地づくりに必要なことは何か
●地域とつきあうスタンス
私は、常に何か頼まれたら受けるというスタンスであり、こっちから口を出すことはほとんどしないんです。
地域に通うのも、相手から頼まれることが始まりであり、また、向こうから言ってきたら原則断わりません。
以前、中谷さんから富山空港から利賀村までヘリのデモフライトを行うので「乗らないか」と誘われて行きました。次の日飛行機で東京に帰る予定でしたが、その日の宴会の時県の担当者からそのヘリが調布飛行場まで帰るけどのりませんか、という話が。当然、うちが近くなので乗せてもらいまして(笑)。いろんなつながりがあると、さらにその繋がりからいろんな体験ができるんだなと改めて思いました。快晴の空を、立山、諏訪湖、甲州街道上空を一直線。二度とないであろう(現に今までない)すばらしい体験でした。
日観協の調査関係では、私みたいな外が大事みないなスタンスの人はいました。調査関係は全体の組織の中ではどうしても特別になることが多いとおもいます。出張が多いということも、他の組織とは仕事のやり方が大きく異なっていると思います。また、理科系が多かったのも特徴だとおもいます。辞めた人もいます。やりたいことをやろうとすると、組織の中で限界が来ちゃうから。私も最後の頃はだんだんと動きにくい状況になってきました。さらに今の人たちは、外で活躍したいなどというやり方がしにくくなっていると思いますね。観光地域づくりという中での、そういう場や機会も少なくなってきたようです。
私が動くのは、やはり人ありきですね。個人的に合わないと続かない。商売と割り切れば誰でもいいんですが、私はあまり商売感覚がないから。いわばボランティア活動ですよ。しかしボランティアもプロがやると面白いと思うんです。今後は、そういう専門家集団のボランティアもあっていいと思いますよ。
●観光計画は誰のため?
昭和50年代に観光行政が一時なくなったんですよね。兵庫県、埼玉県、千葉市などから観光という言葉が消えました。観光課などもなくなりましたし。その代わりに出て来た言葉が「余暇」です。余暇における住民のレクリエーションの場ということで観光施設や資源を考える。すべて行政にやることは、その行政区の住民のためという考え方です。
結果的に、再び観光という言葉が復活しさらに位置づけが高まっていきましたが、行政は基本的に住民の福祉のために仕事をするのが主目的で、最終目的は住民のためなんですよね。地方自治法にも最初に書いてあります。「行政は住民の福祉を目的とする」と。
そう考えると、行政における観光というのは、あくまでも手段としての位置づけでなくてはいけない。最終的には観光振興施策は、住民の福祉、住民の住み良い場所作りに観光も寄与する方向に持っていかないといけない、というのが私の結論です。
やっぱり一番は住民ですよね。住民は観光地も観光資源も関係ないから。観光客は住民じゃないわけですよ。だから観光計画は誰のためにあるのかと聞かれたら、「観光客のため」と言えばわかりやすいんですけれども、私の答えは「住民のため」です。観光事業者も受入側と言うことから考えると、自身は住民であるという認識で商売をしなくてはいけないと思います。そうすることにより「住民のため」ということが地域一体の効果として位置づけられます(図8)。
●良い観光地を作るために
そのように、観光事業者もまず住民であるべきだと思います。自分たちの宿が儲かればいいというのではなく、自分たちがまず観光資源を守る義務があることをもっと観光事業者が意識しないといけないと。それをするからこそ、初めてそれでお金を稼ぐという権利が生まれるのです。
観光客は観光資源を見に来るわけです。その観光資源は住民やボランティアが守っていて、それに乗っかってただ儲けているだけでは、その人は観光事業者ではなく単なる「事業者」です。観光資源を守ってくれている人たちに、自身もその活動に参加するのは当然として、何かの形で感謝の意を示すとか、何かしら還元する必要もあると思います。
観光事業者が観光資源に目を向け始めたのはごく最近だと思います。最近ではそういうことを考えざるを得ないところまで追い込まれて、観光資源に目を向ける観光事業者も増えてきたとは思いますが、そうは言ってもまだまだ単なる「事業者」は多いですよ。
●プランナーに必要なこと
私は2009(平成21)年、日観協を早期退職して、それからは松蔭大学で教えています。学生が地域に行くと、喜んで、ほぼ遊び半分でまちづくりや地域おこしをやるわけですね。観光計画を作る人にとってもそういう感覚は大事だと思います。結局、自分がやっていることを楽しめるかどうかですよね。義務としてやるのか、もっとつっこんでいけるのか。そういう意味で、当然地域の問題解決といったスタンスは必須ですが、楽しんでやるという感覚はプランナーに一番必要かもしれないですね。
2014年7月24日
会場:松蔭大学厚木ステーションキャンパス
取材者:公益財団法人日本交通社 観光政策研究部
梅川智也、堀木美告、後藤健太郎
2015年3月7日文章校正・追加終了
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発注者 | 公益財団法人日本交通公社 |
実施年度 | 2015年度 |