観光資源の評価に関する研究~“特別地域観光資源”の魅力と評価について(『観光文化』234号より)

概要

観光資源の評価に関する研究~“特別地域観光資源”の魅力と評価について(『観光文化』234号より)

当財団では、1968年(昭和43年)から観光資源の評価に関する研究に取り組んでいる。観光資源の魅力の基準を整理するとともに、その基準に沿って全国の観光資源を選定し「全国観光資源台帳」として取りまとめ、その台帳を適宜更新してきた。

近年では、2011年度(平成23年度)から2014年度(平成26年度)にかけて、観光活動の多様化、海外旅行経験率の上昇、外国人旅行者数の増加といった観光を取り巻く社会環境の変化を踏まえて、特A級資源=世界に強く誇れる資源(55件)(注1)、A級資源=日本を代表する資源(396件)(注2)を再評価した。特A級資源・A級資源の多くは、全ての人が素晴らしいと感じ、その資源と対峙した時に大きな感動を覚えるものである。この時の成果の一部は、写真集『美しき日本―旅の風光』として発刊している。なお、ここまでの詳細な研究の経緯は、『観光文化』222号(2014年7月発行)にまとめた通りである。

特A級資源・A級資源の選定のデータベースとした「全国観光資源台帳」には、特A級・A級には及ばないものの、高い魅力を持った観光資源が数多くリストアップされており、それらの再評価が課題となっていた。

そこで、2015年度(平成27年度)から2016年度(平成28年度)にかけて、「全国観光資源台帳」に取り上げられていた約5500件に、各種文献などから抽出した資源を合わせた約1万件の観光資源を対象として、A級資源に準じるB級資源の定義や評価基準の再整理とB級資源の選定を行い、「全国観光資源台帳」を整理・更新した。

B級観光資源評価とは

B級資源の枠組み

 個々の資源の評価を行う過程では、その資源の価値や魅力をつくりあげている要素を丁寧に議論し、従来の「定義」と「各種別の評価の視点」に加えて、新たに「評価の前提」「この種別に特徴的な評価のポイント」「この種別に属する種類ごとのおおよその評価基準」を種別ごとに設定することとした(48~51ページ、参考資料)。

 「評価の前提」とは、「定義」をより詳しく整理したもの、「この種別に特徴的な評価のポイント」「この種別に属する種類ごとのおおよその評価基準」は、「評価の視点」をより具体的に整理したものである。

B級資源の魅力

B級資源の評価にあたっては、特に「地域とのつながり」に着目した。

B級資源とは、「その地方を代表する資源であり、その土地のアイデンティティを示すもの。その土地を訪れた際にはぜひ立ち寄りたいもの。また、その地方に住んでいる方であれば一度は訪れたいもの」であると言える。先に選定した特A級資源・A級資源もその地方を代表する観光資源であるが、地方の枠にとどまらず、日本を代表し、日本全体のイメージの基調となっている。

また、B級資源の中には、際立った個性を持ち、特定の興味を持った人を深く感動させるものも多く存在する。B級資源の際立った個性が、特A級資源やA級資源以上に強く人を引き付けることもあるだろう。

本研究ではこれまで「B級資源」という表記を用いてきたが、B級資源のこうした魅力を踏まえるならば、「特別な地域観光資源(以下、「特別地域観光資源」とする)」という表現がふさわしいだろう。

特別地域観光資源の選定

今回選定された特別地域観光資源は、全2329件となった(表1)。その内訳は、自然資源が659件、人文資源が1670件である。

今回選定された特別地域観光資源のうち、特に選定件数が多い種別は、自然資源では「山岳」「海岸・岬」「植物」、人文資源では「神社・寺院・教会」「年中行事(祭り・伝統行事)」という結果になった。次項からは、これら5種別に、今回評価対象の拡充を行った「食」を加えた6種別を例にとって、「評価の前提」「この種別に特徴的な評価のポイント」「この種別に属する種類ごとのおおよその評価基準」を、具体的な事例を交えて紹介することとしたい。

なお、特別地域観光資源を含む最新の「全国観光資源台帳」については、当財団ホームページをご参照いただきたい。

234-hyou-1●山岳

「山岳」種別の評価にあたっては、まず、「山岳(三山、連峰)のまとまりとして一般的に認識されている、親しまれているものについては、個々の山岳ではなくまとまりの山岳名称を用いることもある」という「評価の前提」を追加した。

例えば、新潟県の「八海山」「越後駒ヶ岳」「中ノ岳」は、三山として地元に認識され愛されているという理由により、「越後三山」として評価している。

また、「山岳」の評価の視点のうち、特に「容姿」と「地域とのつながり」について、「この種別に特徴的な評価のポイント」としてより具体的に整理を行った。

「容姿」のうち「美しいもの」の具体的なあり方として、「雪をかぶった姿が印象的」、および「シンメトリー」「美しい稜線」「コントラスト」を挙げた。同様に、「雄大なもの」の具体的なあり方として、「独立峰で遠方からも目立つこと」を挙げた。

「地域とのつながり」については、「信仰の対象」「シンボル性(地域に親しまれている山、地方で名山とされている山)」を挙げた。

例えば、神奈川県の「大山」は、東京方面からでもはっきり認識できる穏やかな三角形の山容とともに、雨乞いの山として多くの人々の信仰を集めている点を評価している。香川県の「飯野山」は、別名「讃岐富士」と称されるほどのシンメトリーの美しさと、地域のシンボルとして親しまれている点を評価している。

「山岳」の特別地域観光資源数は132件となった。山岳は地域にとって主要なランドマークであり、観光資源としての評価も高まったためと考えられる。

地方別に見ると、中部地方が最も多く59件、次いで関東地方27件、北海道18件となっている。飛騨山脈、木曽山脈、赤石山脈を有する中部地方が最も多い結果となった(表2)。

●海岸・岬

七里御浜と獅子岩(三重県熊野市、紀宝町)
七里御浜と獅子岩(三重県熊野市、紀宝町)

「海岸・岬」種別の評価の視点についても、特に「容姿」と「地域とのつながり」について、「この種別に特徴的な評価のポイント」としてより具体的に整理を行った。

「容姿」のうち「美しいもの」の具体的なあり方として「砂質」「水質(海水の透明度、海水の色)」を、「雄大なもの」の具体的なあり方として「海浜の大きさ(長さ、幅)」を、「大きく迫力のあるもの」の具体的なあり方として「切り立った崖の迫力」を挙げている。また、「珍しさ(鳴き砂)」「特徴的な形状の岩」も、「海岸・岬」の評価のポイントとして位置づけた。

例えば、三重県の「七里御浜」は、23㎞に渡って続く非常に長い礫浜海岸であり、その長さを評価するとともに、幅があること、波に洗われた小石の美しさ、人工物が景観を損なっていない点も評価している。また、海岸沿いには「獅子岩」という獅子の形をした特徴的な岩も見られる。

「地域とのつながり」については、「歴史性」と「最果てに立地し、郷愁を感じるもの」 という表現で整理した。

例えば、山口県と福岡県を結ぶ「関門海峡」は、その潮流の速さが特徴的であり、潮の流れの速さに逆らって、多くの船が行き交う姿に迫力があると評価した。また、鎌倉時代に壇ノ浦の戦いの舞台となった場所でもあり、顕著な歴史性を有している点も評価した。

「海岸・岬」の特別地域観光資源数は100件となった。

地方別に見ると、多くの美しいビーチを有する沖縄が最も多い17件となった。次いで、中部地方、中国・四国地方がともに15件、九州地方14件となっている。「海岸・岬」種別の特徴は、地方ごとの件数の差が比較的小さいことである。海に囲まれた我が国にとって、「海岸・岬」が地方を問わず主要な観光資源であることを表す結果と言えよう。

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●植物

「植物」種別の評価にあたっては、複数の植物が見られる場合は、より評価の高い方で代表させる」「寺社や城、園地などにある植物は、原則としてそれらの種別に含めて評価するが、寺社や城などとの関わりがあっても、そのもの以上に植物が特徴的な場合には、この種別で評価する」という前提を追加した。例えば、この考え方に基づき、青森県の「弘前城のサクラ」なども「植物」として扱っている。

また、「植物が織りなす景観のうち、産業として栽培されている場合は、「植物」種別ではなく、「郷土景観」種別で評価する」こととした。産業として栽培されている場合、開花直前に刈り取られるなど、「植物」種別の魅力とはまたあり方が異なるためである。

「植物」の評価では、その集積度(主に草花の場合)や大きさ(主に巨木の場合)が主要な評価の視点となるが、その規模感は植物種により異なる。今回、特別地域観光資源の評価に際して、植物種ごとの評価基準を細かく整理した。

例えば、「シバザクラは5万㎡かつ100万株以上」を選定の基準とした。これは、シバザクラが人為的に作り出しやすいため、他の植物よりも基準を厳しくする必要があると考えられるためである。また、この基準に満たない場合でもプラスアルファの魅力がある場合は評価することとした。例えば、山梨県の「富士本栖湖リゾートの芝桜」は、富士山を背景に控えた周囲の景観も合わせて評価している。

富士本栖湖リゾートの芝桜(山梨県富士河口湖町)
富士本栖湖リゾートの芝桜
(山梨県富士河口湖町)

「容姿」と「地域とのつながり」についても、より具体的に整理を行った。

「容姿」のうち「美しさ」「雄大なもの」の具体的なあり方として「生育の環境および周囲の景観」を、「大きく迫力のあるもの」の具体的なあり方として「斜面に広がるもの」という点を挙げている。

「地域とのつながり」については、「信仰の対象」「歴史性」「シンボル性」を挙げた。例えば、愛知県の「香嵐渓の紅葉」「祖父江のイチョウ」は、市民によって育まれてきたというその地域にとってのシンボル性を評価している。

「植物」の特別地域観光資源数は165件となった。日本を代表する花である「サクラ」(53件)をはじめ、多様な植物種が選定されている。これは、季節の移ろいが明瞭で、多種多様な気候風土を持つ我が国の特徴を反映していると言えるだろう。また、自然の中で見られる植物だけでなく、都市部で見られる並木の類についても、「植物」種別で評価を行っている。

地方別に見ると、関東地方が最も多く38件、次いで中部地方33件、九州地方31件となった。

●神社・寺院・教会

「神社・寺院・教会」種別の評価にあたっては、「付帯する塔頭、庭園や植物を含めて評価する」という評価の前提を改めて確認した。

「神社・寺院・教会」の種類ごとのおおよその評価基準として、仏像に対する考え方を整理した。仏像は、国宝の仏像を有するだけでは、基本的に観光資源としての魅力は高まらないとした。ただし、京都府「広隆寺」の「木造弥勒菩薩半跏像」のように、非常に有名な仏像は、寺社の観光資源としての魅力を高めるものと整理した。

また、大きな仏像は、地元の人に親しまれている、風景に溶け込んでいる、その場にある必然性があるものを評価の基準とした。例えば、群馬県の「慈眼院(高崎観音)」は、単にその大きさだけを評価しているのではなく、地元の人に親しまれ、周囲の風景に違和感なく溶け込んでいる点を評価している。

「神社・寺院・教会」の特別地域観光資源数は529件となり、人文資源でも突出して多い件数となった。「神社・寺院・教会」は、全国各地に存在しており、その地域住民の生活のよりどころとして、地域性をよく表現しているため、観光資源としての評価も高まったためと考えられる。  なお、沖縄では御嶽が信仰の中心となっているが、御嶽の多くが観光資源としての位置づけをされていないため、評価の対象とはしていない。

地方別に見ると、近畿地方が最も多く225件、次いで関東地方89件、中国・四国地方85件となった。古都京都・奈良を有する近畿地方が他を圧倒する結果となった。

●年中行事(祭り・伝統行事)

「年中行事(祭り・伝統行事)」種別の評価にあたっては、「芸能・興行・イベント」種別との違いを改めて整理した。「『祭り』とは、宗教性のある行事から始まったもの。『イベント』とは、人を呼ぶために新たにつくったもの」とまとめている。

その上で、「年中行事(祭り・伝統行事)」種別では、「祭り、および、地域固有のものであり地域に根付いたイベントを一部含む」という評価の前提を追加した。例えば、この考え方に基づき、北海道の「YOSAKOIソーラン祭り」なども「年中行事」として扱っている。

「年中行事」の評価に際しては、「珍しい」「迫力がある」「美しい」「歴史性」の4点が主要なポイントであると改めて整理した。このうち「迫力がある」「美しい」は評価の視点の「容姿」に、「珍しい」「歴史性」は「日本らしさ、地域とのつながり」に関連している。

吉田の火祭り(山梨県富士吉田市) (写真協力:一般財団法人ふじよしだ観光振興サービス)
吉田の火祭り(山梨県富士吉田市)
(写真協力:一般財団法人
ふじよしだ観光振興サービス)

「迫力がある」の具体的なあり方として、「スピード感、迫力」「人出が多く賑わいがある」「火を用いるもの、水の中に入り込むもの」を挙げた。「珍しい」「歴史性」の具体的なあり方としては、「地域由来の伝統技術を用いた山車、規模と美しさの他歴史性があるもの」「囃子、音楽、歌に特徴がある」「踊りに特徴がある」と整理した。例えば、山梨県の「吉田の火祭り」は、富士山の山じまいのお祭りであり、燃え盛る松明の炎が美しく迫力がある。

「年中行事」の特別地域観光資源数は219件となった。賑やかなものから静かなものまで、多様な年中行事が選定されている。

地方別に見ると、中部地方が最も多く55件、次いで近畿地方53件、東北地方42件となった。

●食

2011年度~2014年度(平成23年度~平成26年度)の研究では、菓子類・おやつ類はお土産としての利用が主であるとして観光資源評価の対象外としていた。今回、菓子類・おやつ類であっても、「現地に赴かないとなかなか食べられないもの」や「現地で食べることに意味があるもの」については、観光資源評価の対象とした。

かんざらし(長崎県島原市)
かんざらし(長崎県島原市)

おわりに

今回の研究により、特別地域観光資源の定義や評価基準を再整理するとともに、それに基づく特別地域観光資源の選定を行うことができた。これらの作業を通して、改めて我が国の観光資源の豊富さ、多様さ、奥深さに触れることができた。

我が国は魅力的な観光資源にあふれている。今回は、全国の特別地域観光資源を網羅的に選定するために、2年間をかけて多くの情報を収集し、何度も議論を重ねてきたが、我々が見落としている資源があるかもしれない。

それに、昨今の旅行者の意識や行動の多様化、とりわけ、日本の文化や生活(感)といった日本らしさを感じさせる観光資源を重視する意識の高まりは、地域における観光対象の幅をさらに広げていくに違いない。

さらに充実した「全国観光資源台帳」にするために、ぜひ多くの皆様からご意見をいただきたい。

今後は、観光資源の保全と活用の望ましいあり方についても、さらに研究を深めていきたい。

[謝辞]

特別地域観光資源候補の選定は、溝尾良隆氏(立教大学名誉教授)、林清氏(元当財団常務理事)の協力を得て開催した「作業部会」にて、また、評価は、前回の観光資源評価委員会と同じ有識者7人からなる「アドバイザー会議」での議論によって行った。この場を借りて心より御礼申し上げる。

(注1) 特A級資源とは、わが国を代表する資源であり、世界に誇示しうるもの。日本人の誇り、日本のアイデンティティを強く示すもの。人生のうちで一度は訪れたいもの。

(注2) A級資源とは、特A級に準じ、わが国を代表する資源であり、日本人の誇り、日本のアイデンティティを強く示すもの。人生のうちで一度は訪れたいもの。

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