概要
これまで健康や身体に不安を抱える人が旅行に参加できるための取組として国や自治体はBTやUT事業を推進してきた。しかしこれまでの事業の主な対象は高齢者や身体障害者であり、慢性疾患患者を対象とした事業はほとんど行われていない。 2021年度の自主研究「多様性ツーリズム」で観光庁と沖縄県の事業担当者になぜ慢性疾患患者を対象とした事業が行われていないか質問したところ、身体障害者と比べると慢性疾患患者の旅行実態や課題がわかりにくく、施策の対象としにくいとの回答があった。
慢性疾患を有する人の数は身体障害者と比較しても多く、増加傾向にあることから、慢性疾患患者が旅行する際の困難や課題の解消は社会的な意義があると考えられる。
慢性疾患の種類は多く、疾患によって必要な対応策は異なると考えられることから、まずは研究範囲を絞るために、患者数が多く、高齢者だけでなく勤労世代にも罹患者が多いがん患者に絞ることとしたい。
海外の先行研究では患者を対象としてインタビュー調査や小サンプルの調査が行われており、がん患者は旅行をすることで人生や治療に前向きな気持ちになり、治療やリハビリにもプラスの効果の可能性が示された一方で、体力低下や現地の医療アクセスなどに対する不安などの課題も抱えていることが明らかとなった。一方、国内の先行研究はなかった。そこで今年度の研究で、海外先行研究と同様にがん患者の旅行にポジティブな効果があることの検証と、がん患者の旅行の課題を洗い出すために定量調査を実施する。調査によって洗い出された課題については、来年度に具体的な対応策を検討していくことを予定しており、今年度は関係先へのヒアリングを行って情報収集を行う。