外国人旅行者にとって温泉は次回の訪日旅行で行いたい活動として人気を集めています。同調査で行ってみたい日本の観光地イメージを24の写真を提示して尋ねたところ、温泉は71%でトップでした(図表1)。
次に、温泉への入浴経験および入浴意向を見てみましょう。日本を訪れた経験のある外国人旅行者の温泉・大浴場がある旅館への宿泊経験および入浴経験を見ると(図表2)、全体では入浴経験がある旅行者の割合は約半数でした。地域別には東アジアでやや高く、東南アジアでやや低い傾向が見られます。
入浴意向を見ると(図表3)、中国とインドネシアで5~6割が「ぜひ入浴したい」と高い意向を示している一方で、それ以外の地域では3~4割にとどまっています。ただ、「体を覆うものがあれば入浴したい」を合わせると、いずれの地域でも6割以上が入浴意向を示しています。
これを入浴経験があるかないかに分けて見ると、入浴経験がある人の「ぜひ入浴したい」という意向は77%に上り、「体を覆うものがあれば入浴したい」を合わせると9割以上が入浴意向を示しています(図表4)。一方で、入浴経験がない場合は「ぜひ入浴したい」という割合は35%にとどまり、「体を覆うものがあれば入浴したい」を合わせても以降は7割弱となっており、入浴経験のない人の意向の低さが分かります。
先に示したとおり、「行ってみたい日本の観光地イメージ」で温泉が1位だったにも関わらず、実際の入浴意向がそこまで高くないのはなぜでしょうか?
この違いは外国人にとって温泉とは未知の「文化体験」だからではないかと考えられます。多くの日本人にとって温泉は子どもの頃から馴染み深いものであるのに対し、訪日外国人旅行者のうち多くを占めるアジア圏をはじめとして、そもそも湯船につかる習慣自体がない地域が大半です。
同調査では日本の温泉で関心のある事柄についても尋ねています。その結果、最も多かったのは「眺めの良い風呂」、次いで「雪見風呂」と風呂からの眺望に関する項目が上位を占めました。一方で、「露天風呂」は入浴経験がある場合は選択率が多くなっているのに対し、入浴経験がないと選択率が低くなっています。つまり、温泉旅館の紹介写真でよく見かける露天風呂の写真だけでは、外国人には魅力が十分に伝わらない可能性が考えられます。
また、「客室露天風呂」や「家族風呂」はプライバシーを守りながら入浴できる手段としてもう少し選択率が多いことを想定していましたが、「客室露天風呂」はやはり入浴経験がない場合の選択率が低く、「家族風呂」に至っては入浴経験の有無を問わず選択率は低くなっています(注:調査にあたっては選択肢の意味が分かるように説明文をつけて尋ねています)。
今回の調査結果からは、まだ温泉はイメージが先行していて、未体験の外国人には価値や楽しみ方が十分伝わっていないと推察されます。温泉はプライバシーの面から、外国人が情報源として利用するSNSやブログで伝えにくいこともその一因と考えられます。
温泉は日本が最も誇れる観光資源のひとつであり、リピーターを育てるためにもその価値を伝えていくことが重要です。そのためには、体験しなければ分かりにくい価値をいかに写真や文章で伝えていくかの工夫が求められます。
(2016/2/25 相澤 美穂子)