アクセシブルな観光都市東京を目指して~先進事例と国内外の取組から~

概要

研究実施の経緯と目的

2021年にISOがアクセシブル・ツーリズムに関する国際基準「ISO21902」を発表し、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)がガイドラインを作成する等、近年世界でアクセシブル・ツーリズムの取組機運が一層高まっています。国内においては、2013年の「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」開催決定以降、バリアフリー化整備が進み、現在にも続く大きなレガシーとなっています。2024年、訪日外客数は3600万人を超え、訪都外国人旅行者も一層の増加が見込まれます。今年11月には「東京2025デフリンピック」が開催、選手や大会関係者だけで約6,000人の訪都が想定されています。
このような状況から、東京においても、アクセシブル・ツーリズムの取組をさらにバージョンアップさせていきながら、多様な旅行者を受け入れるための取組や意識の向上が、改めて必要となっています。そこで、本研究では、地域や観光関連事業者がアクセシブル・ツーリズムを推進するために必要な視点や具体的な取組を整理し、最新の国内外の取組例とともに考察しました。

研究内容・構成

本研究は、以下の6つの視点で構成し必要な意識や取組を整理しました。

  1. アクセシブル・ツーリズムとは?言葉の定義
  2. 世界のアクセシブル・ツーリズムの取組推移-マーケット規模やその対象
  3. 日本ではなぜユニバーサルツーリズムという用語が使われているのか―国内政策の変遷と最新状況
  4. 世界の観光局による業界へのアプローチ方法やその内容とは
  5. 旅行者とのタッチポイント別に都内の取組事例を整理-現場取材で分かったこととは
  6. インバウンド対応のポイント

アクセシブル・ツーリズムの国際的な定義及びマーケット規模

業界において大きな契機となったのが、2006年に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」です。条文には、障害を持つ方の「文化的な生活や余暇レクリエーションへの参加」等が掲げられており、観光とも密接です。各国が取組を進めていく中、国連世界観光機関も業界に対して積極的な働きかけをしてきました。ISO21902(邦訳未発表)及び国連の定義を踏まえると、アクセシブル・ツーリズムは「様々な障害を持つ人が観光にアクセスできる環境を提供すること」と言うことが出来ます。国内では「ユニバーサルツーリズム」という用語が多く使われていますが、世界では「アクセシブル・ツーリズム」が使われていることを認識する必要があります。これは、インバウンド対応における情報発信においても重要なポイントです。
では、その対象はどう捉えられているのでしょうか。ISO21902や国連の条約等を踏まえると、アクセシブル・ツーリズムの対象は「身体的、精神的、知的または感覚的な障害」と言うことが出来ます。これは、障害の種類は非常に多様であることを意味しており、必ずしも車椅子マークで代表される移動に関する障害だけを指すのではない、ということを示唆しています。

表1

日本で”ユニバーサルツーリズム”が使われている背景-国内政策の変遷と最新状況

国内においては、観光庁がユニバーサルツーリズムという用語を使い、「高齢や障害等の有無にかかわらず、すべての人が安心して楽しめる旅行」の実現を目指す政策を進めてきました。国際的には世界の人口の16%をそのマーケット規模とし、「障害者」にスポットを当てている傾向にありますが、日本のユニバーサルツーリズムは、障害者だけではなく、65歳以上の高齢者も含めて、その市場の大きさに注目しています。下の円グラフの通り、国内においては、高齢者全体も含めて全人口の30%を超える大きな市場がありながら、国内の宿泊旅行市場では20%以下にとどまっていることから、そこに伸びしろがある可能性が示されています。

表2

ユニバーサルツーリズムという用語は、観光庁の発足後、2012年から使用されています。これは、観光分野の政策以前に「ユニバーサルデザイン」という考え方が導入されたことが背景にあります。
ユニバーサルデザインは、始めから出来るだけ多くの人が利用可能なデザインを目指しており、障害者等の特定の方のためにバリアをなくすバリアフリーとは明確な違いがあることも、改めて認識するべき内容と言えます。
国際的なアクセシブル・ツーリズムの定義やその対象と比較すると、日本国内の捉え方には若干特徴的な面がありますが、ユニバーサルツーリズムも、アクセシブルな観光も、その方向性に大きな違いはないと言えます。この他、研究報告書では、障害者差別解消法と旅館業法の改正を受けた厚生労働省による最新の観光事業者向け研修ツール等、観光庁と合わせた最新の関連政策等も詳しく紹介しています。

図3

旅行者のタッチポイント別で見る都内の取組事例と取材から見えてきたこと-4つの取組ポイント

旅行は計画→手配→交通機関での移動を経て、旅行先では宿泊、飲食、観光・娯楽活動、買物といった行動を伴い、途中では移動やトイレ、休憩を必要とします。困難を抱える旅行者が快適に旅行を楽しむためには、それぞれのタッチポイントごとにサポートが必要となります。
そこで本研究では、タッチポイント別に都内を中心とした国内の13事例を取り上げました。現場への取材の結果、明らかになった取組のポイントは下記の通りで、その多くがソフトに関わる内容であると言えます。

4つの取組ポイント

  • 当事者目線を知り専門家の意見・助言を聞く
  • さまざまな困難やバリアへの想像力を持つ・培う
  • 同じ障害でさえ、困り事は一人ひとり異なることを意識する
  • 歓迎の気持ちを目に見える形で表すことが重要

“TOURISM FOR ALL”のために今出来ることから着実に

報告書では、国内外の最新動向を踏まえながら、アクセシブル・ツーリズムに取り組むにあたって必要な意識や具体的な取組へのヒントとなる事例を多数紹介しています。まずは、地域や観光に関わる事業者が、自分たちと旅行者とのタッチポイントを認識したうえで、当事者目線を取り入れ、何が出来るかを考え、着実に進めていくことが重要です。また、取材によって明らかになった都内の豊富な事例を、面として発信することも強化していく必要があります。
本研究の成果が観光に携わる多くの皆様の取組推進の一助となれば幸いです。

この研究・事業の分類

分野 観光と社会の潮流
発注者 公益財団法人日本交通公社
実施年度 2024年度