Vol.1 中国市場に頼らない!ヨーロッパ人を魅了する町"高山"(岐阜県高山市)

2010.12.28

<スペイン人であふれかえる夏の高山>

JR高山駅前の飛彈高山観光案内所 ▲JR高山駅前の飛彈高山観光案内所。
名古屋からの列車が到着すると欧米からの
旅行者で溢れかえる。
 中国人団体客でごった返す家電量販店や富士山周辺の観光地。中国人旅行者を中心に、今年は日本を訪れる外国人旅行者にスポットをあてた特集などをテレビで目にする機会も多くなりました。しかし、日本有数の観光地、飛騨高山の様子は他の地域とは少し異なります。8月某日、JR高山駅を下りると、そこは欧米人旅行者の人だかり。実は彼らの多くがヨーロッパからの旅行者なのです。
 2009年の高山市の外国人宿泊客数はおよそ14万8,000人。その30%以上、実に年間4万5,000人がヨーロッパからの旅行者です。日本を訪れた外国人旅行者に占めるヨーロッパからの旅行者の割合がわずか11%程度であることを考えると、この数字は驚異的なものと言えます。そして、特に8月はヨーロッパの中でもスペインからの旅行者の割合が飛躍的に高くなります。

<外国人旅行者にとって"バリアフリー"なまちづくり>

街角のカフェでくつろぐスペイン人旅行者 ▲街角のカフェでくつろぐスペイン人旅行者。
バルセロナから来たという2人によれば、「旅行
会社に日本への旅行を相談したら、『高山には
必ず行った方が良い』と言われた」とのこと。
 高山が多くのヨーロッパ人旅行者を惹きつけるのには、いくつかの理由があります。
 高山市内を歩いていてまず目にとまるのは、特に困ることもなく、まち歩きを楽しむ外国人旅行者の姿。訪日外国人旅行者の増加に伴って、ガイドブックや案内板を見て困惑している外国人旅行者の姿を街角で見かける機会も増えましたが、高山ではそういった場面に殆ど出会いません。飛彈牛に舌鼓を打つスペイン人、旅館の居間で読書にふけるイタリア人など、皆思い思いの時間を特に不便を感じる様子もなく過ごしています。旅館や飲食店の従業員も、片言の英語と身振り手振りで、接客には慣れた様子。外国人担当のスタッフがいるわけでもなく、日本人のお客様と同様に、"いつもどおり"のおもてなしをしています。
 高山市では、国がインバウンドに本格的に取組み始めるずっと前から、外国人旅行者の受入環境整備に取組んできました。モニターツアーを実施して外国人旅行者から改善点などを直接聞く取組を始めたのは1996年。高山市では「住みよいまちは、行きよいまち」を合言葉にバリアフリーなまちづくりを進めていますが、その中で、高齢者や障がい者同様、外国人にとっても過ごしやすいまちづくりが指向されてきました。その結果、高山はガイド付のツアーに参加しない個人旅行者の多い欧米人でも、特に不便を感じることなく町歩きを楽しめる場所になっています。
 インバウンド振興が日本全国で叫ばれ、現在、多くの地域が"外国人旅行者のため"の受入環境整備を急いでいますが、高山では"全ての旅行者のための受入環境整備"の一環として、外国人旅行者への対応にいち早く取組んできました。早くから外国人旅行者対応を意識してきた先見性は勿論、外国人旅行者に特化することなく、あらゆる旅行者の受入環境そのものを底上げすることで結果的にインバウンドへの対応を進めるという考え方が、多くのヨーロッパ人旅行者を惹きつける今日の高山の姿に結びついているのかもしれません。

<旅先としての"TAKAYAMA"の立ち位置を見極める視点>

「Lonely Planet」の「富山・高山版」 ▲『Lonely Planet』の「富山・高山版」。
表紙(左)の上部には"THE HEART OF JAPAN"の一言。
美しい写真を織り交ぜながら、飛越地方が紹介されている。
 高山は、三町に代表される古い町並や奥飛騨温泉郷のほか、世界遺産の白川郷にも近く、観光資源が非常に豊富です。これらの存在が、外国人旅行者にとって大きな魅力になっていることも事実です。しかし、高山では観光資源そのもの以上に、「"高山"という場所の何が旅行者に"響く"のか」、言い換えれば「旅行者は旅先としての高山に何を求めているのか」を意識し、プロモーションに取組んでいます。
 その一例が、「松本・高山・金沢・白川郷誘客協議会」によるプロモーション事業の展開です。高山市では、松本市、金沢市とともに「松本・高山・金沢国際観光ルート整備推進協議会」を1989年に設立し、東京から京都、大阪を巡る「ゴールデンルート」に代わる、「日本の歴史的、文化的な魅力に特化したもう一つの観光ルート」の開発に取組んできました(2009年に白川郷が参加)。その結果、神社仏閣や古い町並み、祭りなど、日本の伝統文化に関心の高い欧米の旅行者を中心に、松本から高山に入るルートや、名古屋から高山を経て金沢に抜けるルートが新たに認知されるようになり、ヨーロッパの一部の旅行会社では「サムライ・ルート」と名付けられ、ゴールデンルートと並ぶ2大ルートに位置づけられています。
 また、同協議会以外にも、高山市では広域連携によるプロモーションを積極的に展開しています。2009年には、富山県と連携して欧米の個人旅行者が多用するガイドブック『Lonely Planet』の「富山・高山版」を発行。「東京の喧騒と古き良き京都の間に宿る"THE HEART OF JAPAN"(=日本の魂)」(同書の後書きより抜粋)として飛越地域を紹介し、欧米旅行者を中心に好評を得ています。
 このように高山では、地域の魅力を活かすために、ともすればライバルになりかねない同じような魅力を有した地域と連携し、単体の観光資源や旅行の目的地としてではなく、日本を訪れる"一つの形"としての魅力を売り出しています。町中で話を聞いた外国人旅行者の多くが、「東京や大阪は、近代的な反面、都市ならでは喧騒もありストレスフル。その点、高山は日本の"原形"を感じられ、大阪から東京へ旅する間に『ほっと一息つく』のに最高の場所」と話していました。外国人旅行者の旅先としての"TAKAYAMA"の立ち位置を見極めた上で、旅行者の隠れたニーズにすっと手が届くような魅力の売り出し方をする。これも、高山が多くのヨーロッパ人旅行者に支持される秘訣かもしれません。

<中国人団体旅行の"規模"よりも大切なもの>

 このように、ヨーロッパからの旅行者の割合が他の地域に比べて突出して高い高山ですが、外国人旅行者の中で最も高い割合を占めるのはアジアからの旅行者で、その割合は2009年でおよそ48%に及びます。また、ヨーロッパからの旅行者の増加率よりは低いものの、アジアからの旅行者も近年着実に増加しており、宿泊施設の中には、台湾人をはじめとしたアジアからの旅行者を積極的に受け入れているところもあります。
 しかしその一方で、全国的に脚光を浴びている中国人旅行者についての見方は冷静です。市内では「1万人規模の中国人団体ツアーの受入の打診があったが断った」という話も耳にしました。「高山だからこれだけのお客様が国内外からわざわざ来てくださる。行政も宿泊事業者も土産店もそれを絶対に忘れません。仮に中国からのお客様を1万人受入れたら、高山ではなくなってしまうんです」。お話を伺ったある老舗旅館のご主人はそう話していました。
 勿論、中国からの旅行者が高山にとって大切なお客様であることは間違いありません。行政もここ数年は中国からの誘客に力を入れています。しかしだからといって、スケールメリットのみを重視して、団体旅行を次から次へと受入れるようなことはしていません。高山にとっては、1万人の中国人団体客が地域に与える経済的なインパクト以上に、それが他のお客様に与える様々なインパクトの方が重要なのです。
 高山では行政、民間事業者、市民、誰もが「高山の何が旅行者を魅了するのか」を常に意識し、高山ならではの魅力をより深く味わっていただけるお客様を大切にしています。「住みよいまちは行きよい町」。地域の魅力は何か、そして、どうすればそれがお客様に伝わるのかを常に意識する高山の姿勢は、インバウンド推進に取組む他の地域にも大いに参考になるかもしれません。

(守屋邦彦、石黒侑介 2011.1.14 UP)

 

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