観光資源の今日的価値基準の研究2

2017.07.20

【PDF版「観光文化222号」】

 

 調査研究専門機関として50周年を迎えることを契機とし、当財団が長年にわたって継続してきた「全国観光資源台帳(1974年・1999年)」の趣旨を継承しつつ、今日の観光動向および観光活動の変化を勘案した「評価の枠組みの再構築」と「観光資源の再評価」を行った。

“今日的”の意味合い

 「全国観光資源台帳」が作成された当時から現在に至るまでの観光を取り巻く社会環境の変化を概観し、評価の枠組みを再構築するにあたり、次のような点に着目した。

観光を取り巻く社会環境の変化

●観光活動の多様化

 物見遊山の周遊型観光が中心であった時代から、現在は「見る」だけでなく、「体験する」ことにも観光活動の範囲は広がっている。また、直感的に認識できる「感性」的側面だけでなく、その背景にある歴史や生活文化等の「知性」的側面へと興味関心が広がってきた。

 さらに、何げない日常の営みや街並み、独自の風景が織り成す地域の歴史・風土への注目も高まっている。 テレビの高画質化やインターネット技術の進展により、画面を通して観光資源に接する機会が増加したが、その反面、実際にそこに「居ること」によって得られる体験が重視されるようになり、観光資源の「周囲の雰囲気や環境」が重要な要素となっている。

●海外旅行経験率の上昇

 日本人の海外旅行の経験率が上昇し、海外の観光資源に触れた人が増加した。そのため、よりダイナミックな海外の観光資源に触れた旅行者は、国内の観光資源に対する評価もより厳しくなった。それに伴い、日本の文化、生活感といった日本人としてのアイデンティティや日本らしさを感じさせる観光資源を重視する意識が高まっている。

●外国人旅行者数の増加

 2003年(平成十五年)に観光立国を標榜(ひょうぼう)して以降、2013年(平成二十五年)に初めて一千万人を超える等、訪日外国人旅行者数は大きく拡大した。またアジア圏を中心にリピーター率が増加するにつれてニーズも多様化した。こうした訪日外国人旅行者の数やニーズは、2020年(平成三十二年)の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、さらに大きく変化することが予想される。

 そのため、日本の誇るべき文化としてどのような観光資源を紹介するべきかといった、国際的な視野もより重要となっている。

既存研究からの変更点

●評価対象とする観光活動の拡充

 観光活動の多様化を受け、「見ること」に加え、「居ること」「体験すること」も評価対象とした。

 その場に立って、周囲の雰囲気に感じ入ることも代表的な観光行為であり、独自の風景が織りなす地域の歴史・風土を感じることは、今日的な観光を考える上では非常に重要な視点である。

●観光資源種別の拡充・統廃合

 観光活動の多様化に伴い、評価対象とする観光資源種別に「テーマ公園・テーマ施設」「温泉」「食」「芸能・興行・イベント」を加えた。

 「テーマ公園・テーマ施設」については、これまで人の手で作り出せるものであるとして評価対象としてこなかった。しかし、開業から一定程度の年数が経過しているもの、普遍的または特徴的なテーマ性を有し、それらが統一的に表現されているもの、それを深く感じることができるものについては、評価対象とすることとした。

 「温泉」「食」は、これまでは「見る」観光資源ではなかったこともあり、評価対象としてこなかった。しかし、「入浴する」「食べる」などの体験は、その場所でしか果たすことのできない、地域性に触れる観光行為であり、「温泉」「食」は誘引力を発揮する観光資源であることから、評価対象に加えた。

 伝統芸能やスポーツ、イベントなども感動の源泉となりうる観光資源であることから、「芸能・興行・イベント」として取り上げた。ただし、内容だけでなく場所の必然性も重視し、場所と演目とを合わせた資源としてリストアップし、評価対象としている(例:○○(場所)で上演される△△(演目))。

 これまでの「歴史景観」「地域景観」の区分は、歴史的街並みや現代都市などからなる「集落・街」と、地域風土が織りなす人との営みがうかがえる「郷土景観」に整理した。
 「集落・街」は、日本らしさや地域の特色を表している現代都市を中心に評価対象資源を拡充した。
 「郷土景観」については、人が織りなす風景やその土地の産業景観などを中心として、評価対象資源を大幅に拡充している。
 「神社・寺院・教会」は、その範囲を再整理した。既存研究では、社寺の庭園は社寺と切り離して庭園・公園として評価していたが、社寺は、仏像、建物、庭園、植物などの要素の複合物であり、一体的な空間として人が作ったものであることから、社寺に含めて評価することとした。また、同様の考えから、塔頭も本坊に含めて評価することとした。これに伴い、「庭園・公園」の範囲についても再整備している。

 これまでの「高原」「湿原」「原野」、「河川」「渓谷」、「海岸」「岬」については、資源の特徴や評価の視点に共通点が多かったため、「高原・湿原・原野」、「河川・渓谷」、「海岸・岬」として統合した。

 「島」については、観光地としての評価になっていたため種別を廃止し、島内にある個別資源を評価対象とした。

●評価の視点の拡充

 既存研究の観光資源評価の視点は、「美しさ」「大きさ」「静けさ」「古さ」「珍しさ」「地方色」の六つであったが、観光活動の多様化や観光市場のグローバル化に伴い、「日本らしさ」「住民とのつながりの深さ」を加えた八つとした。いずれも、直感的に認識できる「感性的側面」と、知識や丁寧な解説などから認識できる「知性的側面」の両側面を意識している。

観光資源評価の枠組み

 こうした今日的価値基準の着眼点を基に、観光資源の考え方、観光資源ランク、観光資源種別、評価の視点といった観光資源評価の枠組みを再構築した。

●観光資源の考え方

 観光資源、観光活動、魅力ある観光資源の定義については、既存研究を継承しつつ、次のように定義づけを行った。また、評価対象とした観光資源についても明文化した。

【観光資源の定義】

 観光資源とは、人々の観光活動のために利用可能なものであり、観光活動がもたらす感動の源泉となりうるもの、人々を誘引する源泉となりうるもののうち、観光活動の対象として認識されているものである。
 観光活動とは、見ることや、その場に身を置くこと、体験することにより、感性や知性を通して観光資源の「すばらしさ」を感じることで、人生が豊かなものになり、人間的な成長を促される行為である。
 魅力ある観光資源とは、自然や人間が長い時間をかけて創り出したものであり、現在のお金や技術で容易には創り出すことができない「固有性」や「土着性」、「独自性」を持ち、他に「代替」がきかないものである。その資源が本来有している魅力に加え、その整備状況も評価の対象とし、資源の現在のあり様を評価対象とする。ただし、アクセスの容易さのように、資源のあり様と関係の薄い要因によって多くの観光客が訪れることもあり、多くの観光客が訪れているからといって観光資源の魅力が高いということにはならない。

【評価対象とした観光資源】

観光資源の定義を満たすもので、スポーツのように特別な技能を要さない、ごく一般的な利用方法によって認識できる部分を評価対象とする。
・観光地は複数種類の観光資源や観光施設が集積して構成されている。今回の評価対象として取り上げるのは、あくまで個々の観光資源であり、観光地は評価対象とはならない。
・視点場は評価対象とならない。感動の源泉となり人々を誘引する源泉となるのは、視対象であるためである。
・一時期の社会的流行や風潮によらず、資源が本来有している魅力を評価するため、社会的に評価が 定まっていると考えられる資源を評価対象とし、観光対象となってから原則としておおむね20~30年程度が経過したものを中心に評価を行う。

●観光資源ランク

 日本の各地に立地する数多くの観光資源の中から、とりわけ魅力があるものを選定するため、以下の2つのランクを設けた(表1)。

●観光資源種別

 観光資源は、「自然資源」と「人文資源」の二つに大きく区分し、それぞれ十種類、十四種類、計二十四種類に分類した(表2)。

●評価の視点

 「美しさ」「大きさ」「古さ」「珍しさ」「静けさ」「日本らしさ」「地方らしさ」「住民とのつながりの深さ」の八つを評価の視点とした(表3)。

 また、観光資源種別ごとの特徴を踏まえた個別の評価の視点も設定しており、参考として表6に掲載した。

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観光資源の評価

 前述の枠組みを用い、観光資源の再評価を行った。評価方法と評価結果は以下の通りである。

●評価方法

 長年にわたって観光の現場を見続けてきた観光研究者や観光実務の専門家など有識者七名による「観光資源評価委員会」を設置し、評価の枠組みの構築と評価を行った(表4)。

 また、研究の過程では、日本の自然や文化、観光への造詣が深い国内外の有識者を専門委員として迎え、助言を得た。

 観光資源の評価にあたっては、一つ一つの観光資源を委員会で丁寧に議論し、前述した評価の視点を組み合わせた総合的な判断の下、特A級、A級資源を決定した。

●評価結果

 今回改訂した「全国観光資源台帳」は、一九九九年(平成十一年)の資源台帳(特A級、A級、B級の約二千件)に、新規種別の資源(テーマ公園・テーマ施設、温泉、食、芸能・興行・イベント)を中心に評価委員会委員や専門委員からの推薦、各種文献等から抽出した約三千五百件を加え、合計約五千五百件となった。

 この「全国観光資源台帳」から、特A級・A級資源として、四百五十一件を決定した(表7参照)。その内訳は、自然資源では、特A級十五件、A級百四十三件、人文資源では、特A級四十件、A級二百五十三件である。

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