スペインにみるインバウンド推進体制と地方分散化施策 1.スペイン政府観光局

概要

1.スペイン政府観光局

<組織>
スペイン政府観光局は、産業エネルギー観光省の観光庁傘下の組織であり、その目的を「スペインへの外国人旅行者誘致を目的とした国外向けのプロモーション」に特化させている。総裁は観光庁の長官が兼任しており、総裁と政府観光局の局長は政府与党の政治家が務める。その他の役職員については政府観光局のプロパー人材であり、他の省庁や民間からの出向者はいない。また他の政府機関との間のローテーション人事制度も存在しない。

職員は新卒採用だけでなく中途採用も積極的に行っており、観光関連産業出身者や大使館等の在外公館勤務経験者、民間のマーケティング会社の元リサーチャーなど、多様な人材が集まっている。他国同様、民間との給与水準の違いから生じる人材確保の難しさはあるが、スペインでは主要産業である観光の位置づけが高いこともあり、政府観光局など当該分野の公的機関には比較的優秀な人材が集まりやすい。

なお、在外事務者は33カ所であり、およそ470名の職員のうち200名が在外事務所勤務である。

 <財源>
経済危機以降、予算は減少傾向にあったが、2013年の予算は前年を上回った。予算の大半は産業エネルギー観光省より拠出され、残りの25%前後をEUからの補助金、国営宿泊施設「パラドール」からの拠出、旅行博や各種キャンペーン開催時の出展手数料や参加者負担等が占めている。

 <事業内容>
「マーケティング戦略計画 2014-2015」(“Plan Estratégico de Marketing de Turespaña 2014-2015”)を策定し、ターゲットとなるセグメント、当該セグメントに訴求力のある商品について各自治州と協議を行う。この協議の結果にスペイン政府観光局の在外事務所の意見を踏まえた上で、毎年、「実施計画」(“ Plan de Acción”)を策定し、各種のプロモーション活動を展開する。また、政府観光局として行うプロモーション活動のベースとして各種の調査も政府観光局が行っている。

事業の中心はあくまで国外向けのプロモーション活動であり、受入環境整備、人材育成等の活動も特に行っていない。後述するように、あくまでスペインにおける観光政策の主体は自治州・都市であり、インフラの整備等は結果的に特定の自治州・都市を対象とせざるを得ないため、実施することは難しい。

なお、唯一の例外として、各自治州間で異なる観光関連法令を調整するための取り組みを政府観光局が主導して行っている。現状では複数の自治体にまたがって観光関連事業を行う場合、それぞれの自治州政府が定めた異なる内容の法令を個別に把握・遵守する必要があり、新規参入や事業の拡大を検討する民間事業者にとってはその点が障壁になっている。観光インフラの整備やサービスの充実化は外国人旅行者の誘致拡大に間接的に貢献するため、あくまで法令の改正・是正の最終決定は自治州政府が行うが、自治州間の差を是正すべく、スペイン政府観光局としてコーディネートのサポートを行っている。

<自治体・民間との連携>
スペインにはそれぞれ自治権限の異なる自治州、自治都市が計19存在しており、各自治州・都市の中に県と基礎自治体がある。国家レベルでは産業エネルギー観光省の観光庁が観光分野を管轄しているが、その主たる機能は各自治州の観光関連組織や民間事業者、国際機関との連携・協働を目的としたコーディネートや観光分野の国際協力、政府観光局による「スペイン・ブランド」を使用したプロモーション活動や統計調査に限定されており、その他の活動は全て自治州が主体となっている。また、スペインでは各自治州の自治権が非常に重視されるため、プロモーションにおいてもスペイン政府観光局が自治州に先んじて活動を行うことはない。自治州と共同で事業を行う際は当然、各自治州も応分の財政負担を行う。なお、殆どのプロモーション活動では各自治州がイニシアチブを有する。

自治州との連携については、年に2回行われる各自治州の観光分野を所管する大臣の会議を通じて市場動向やプロモーション活動に関する情報交換を行っているほか、数ヶ月に一度の頻度で、各自治州の観光局長が出席する会議を別途行い、実務面に関する具体的な協議を行っている。

また、民間事業者とは、各自治州政府の観光関連の公的機関を中心に連携を図っているが、国レベルでは、観光庁長官直下に設けられている「スペイン政府観光局諮問会議」(“Consejo Asesor de Turespaña”)を通じて意見交換等を行っている。同諮問会議では11ある枠のうち6つを航空会社、旅行会社等の民間委員に充てており、毎月開催される定期会合を通じて緊密な連携を図っている。

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