概要
(1)実現した観光計画と実現した要因
観光計画といっても「観光地域計画(全体)」「観光施設計画」「観光ソフト計画」(組織・仕組みづくり、イベント等)」によって実現の捉え方が異なる感じですし、実現の認識にも曖昧な点があります。
観光地域計画全体の実現は難しいが、その一部が実現するものを含めばまあ実現したと思われるものもあります。
私が係わった主要なもののいくつかは先にお話しした通りです。かいつまみますと、観光地域計画では那須町の観光振興基本計画は比較的実現したものです。施設計画では、熊本市の西山地区や下津井の施設計画などが挙げられます。
財政資金が潤沢だった高度経済成長期やまだ少しは余力があったバブル期の前までは、観光施設の不足に対して官の主導性や支援で実現性が担保できる面がありました。しかしバブル期は民活によるあだ花の時代でしたし、崩壊後は財政支援が難しくなるとともに、ニーズの成熟化、国際化、民間や地域関係者の問題意識の高まりなどもあって、地域関係者の参画と理解がないと実現性を担保するのが容易でなくなった感じです。
私が関わった低成長期末以降の那須などの実現要因は、民間活力をひきだす行政のプロデュース能力やリーダーシップが大きかったと思います。自賛になりますが、コンサルとして観光計画の真意を汲み、計画検討段階で業界等のニーズに即してプロジェクト化をはかるとともに、それに関して民の参画をひきだす検討方式をとったことも実現につながった遠因かとは思います。
(2)(一般的に)「観光計画」はなぜ実現しないか
観光計画が一般的に実現しないという認識は私には必ずしもないのですが、観光地域計画の全体についての実現は容易ではないと感じます。
その理由は、ざっくりいえば、観光の理解の問題を背景に、計画立案プロセスを含めて関係者に計画の意義と成果が共有されていない、さらに推進方式の研究が十分ではないなどが挙げられると思います。実現する気がない計画は論外です。
繰り返しになりますが、計画の本質は「観光振興目的にそった多様な主体の合意形成」だと思います。観光計画が実現しない場合の要因はいろいろあると思います。実現に係わるものとして計画立案・推進上では、①地域全体に必要性の認識が弱い、②将来の事業推進主体となる関係者の導入が弱い、③計画立案方式が参画型になっていない、④行政にトータルプロデューサーとしての自覚と先導性が弱い、⑤官民合わせた観光地経営の体制が脆弱、⑥必要な専門人材配備や育成が手薄、といった要因などがあるのではないでしょうか。
敷衍すれば、うまくいったケースは計画が合意されるに足るものであることを前提に、関係者にやる気があり、関連する各主体をうまく束ねるリーダーシップを持つ人や組織がある。今様にいえばDMOでしょうか。また別の視点からは、例えば市町村レベルの計画でいえば、推進主体になりそうな民間関係者を導入し、加えてインフラ整備や公的支援等をスムーズ化するための上位計画等の関係者(県、国等)を最初から連携させておくような計画立案組織づくりの工夫なども大切でしょう。そのほか、世代を繋いで推進の核になる担い手、予備軍を地域でどう探し育成するかも非常に大事だと思います。
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発注者 | 公益財団法人日本交通公社 |
実施年度 | 2016年度 |