観光地域づくりオーラルヒストリー<第9回>阿比留 勝利氏
5.これからの「観光」・「観光地域づくり」・「観光計画」への提言

概要

観光地域づくりオーラルヒストリー<第9回>阿比留 勝利氏<br />5.これからの「観光」・「観光地域づくり」・「観光計画」への提言

 (1)これからのわが国の観光・観光地域づくりに必要なことは何か

仰々しい表現になりますが、まずは観光概念の国民的・国家的共有が必要ではないでしょうか。それが曖昧になっている。そのためには幼少期から観光を郷里(生活地域)のまちづくりに必須なものとして教えることでしょう。言い換えれば、究極は地域の魅力を自覚し、自ら参画し、他人にも伝え、他の地域理解も可能な能力を育むことだと思います。

喫緊としては、異論を恐れずにいえば、【わが国の観光の何が問題か】でもお話しした「異日常性を介した生活者交流」というコンセプトの共有と展開を期待したい。関連して、観光の戦略性を理解した対応を再考することではないでしょうか。

私は観光は「縦×横×外の戦略分野」と言ってきました。観光は地域の縦割りを横につなぎ、同時に外につなぐ。観光は外との交流なので中を全体化する力が働く。それが「縦×横」を助長する。そこに組み替えの力が生まれる。近年6次産業化、農商工等連携が論議されますが観光は自然、産業、生活、文化を複合する戦略分野として6次産業化の戦略分野です。このことから既存産業の高度化と観光の連携を徹底してゆくことが必要でしょう。

私は観光地域(まち)づくりは「まちづくりからの観光振興」と「観光からのまちづくり」との立体的な合わせ技だと言ってきました。言葉遣いや概念に異論もあるでしょう。「観光からのまちづくり」というのは「主に観光産業分野から他産業に経済波及を進める方法」です。今も基本で、団体画一観光の時代とは異なりますが、観光ニーズの変化に即して参加・体験などを組み込んだ改良がされています。しかしやはり根底には「まちづくりからの観光」、すなわちコミュニティ(集落・地区)の生活文化の開発から地域の固有性や個性を創出して発信力を高め、生活者交流を喚起し、それを「観光からのまちづくり」に繋ぐことがポイントだと思います。先に述べた鳥取県智頭町の「ゼロイチ運動」や小浜市の食のまちづくり条例に基づいて展開されてきた「いきいきまちづくり事業」はその精神を体現している一端だと思います。

観光とまちづくりを接合するには、新たな観光の価値創造機能、いわばイノベーター、カタライザ-機能の社会化がポイントだと思います。今DMOの育成が進められています。これは重要です。しかし、観光を狭く産業領域や地域の上澄みだけで捉えた展開なら、今よりはよくなっても限界があるとうに感じます。

観光地域の活性の持続という意味では、地域人口の世代的バランスの維持、専門人材育成の育成、ポリシーの確立、環境・資源の保全といった長期戦略を布石しつつ短期的なニーズ変動、立地変動などに手を打っていく必要があります。目先の戦術と成果主義だけでは観光の持続的振興は危ぶまれますね。

 (2)よい観光地域とは・どうすれば「よい観光地域」が出来るか

よい観光地域というのはどういうものか厳密にはわかりませんが、観光者(ゲスト)にとってということでいえば、多彩な演出や魅力要因は人それぞれであるとしても、基本は観光者と異なる日常生活の魅力(異日常性、「ヒト」)にふれられること、その地域の知恵で創られた独特のそこらしい「モノ」「コト」の魅力に触れられる地域がよい地域だと思いますね。繰り返しで恐縮ですが、そのためにはいわゆる観光分野だけではなく、観光以外の産業や人々の日常生活の固有性や地域の環境文化をしっかり引き出して発信することをベースとした地域づくりがないと駄目ですね。その上でそれらの立体的複合化を進めることで地域の光が析出されると考えます。

そのためには、観光地域づくりは詰まるところふるさとづくりであるという意味での観光教育が必要になる。展開すれば、「開かれたふるさとづくり」と「住んでよく訪れてよいまちづくり」の理念を幼児から成人までを含めた生涯教育として展開することだと思います。近年、義務教育レベルを含めて教育と観光の連携が国を挙げて進められています。「地域の光を観(しめ)し、それを観る」という意味での観光の理解を生活レベルからの上向法を踏まえて共有していくことが基本でしょう。よい観光地域づくりの根本はそこにあると思います。

2016(平成28)年2月8日
公益財団法人日本交通公社会ライブラリーにて
取材者:公益財団法人日本交通公社観光政策研究部
梅川智也、堀木美告(現・淑徳大学)