新型コロナウイルスによる外国人旅行者の海外旅行意向に及ぼす影響と今後の展望

2021.06.01

新型コロナウイルスによる外国人旅行者の海外旅行意向に及ぼす影響と今後の展望
-DBJ・JTBFアジア・欧米豪訪日外国人旅行者の意向調査(2020年度 新型コロナ影響度 特別調査)より-

公益財団法人日本交通公社 観光政策研究部 主任研究員
柿島 あかね


 公益財団法人日本交通公社では、2015年より株式会社日本政策投資銀行(DBJ)と共同で、アジア(韓国、中国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア)、欧米豪(アメリカ、オーストラリア、イギリス、フランス)の12地域を対象に、旅行の嗜好の変化や訪日経験の有無によるニーズの違いを把握することを目的に、海外旅行経験者を対象としたインターネット調査「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査」を年1度継続的に実施している。
 2020年度は世界的に感染拡大が見られる新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)が外国人旅行者の海外旅行及び訪日旅行の意向に与えた影響を把握すべく、「2020年度新型コロナ影響度特別調査」(以下、「本調査」)として、第1回調査を2020年6月に、第2回調査を同12月に実施した。
 本稿では本調査の結果をもとに新型コロナが外国人旅行者の海外旅行意向に及ぼす影響と今後の展望について考察する(調査結果の詳細はこちら)。

1.2021年6月までのレジャー全般の実施意向
 ―レジャーの回復順は「近場のレジャー」~「国内旅行」~「海外旅行」
 ―東アジア各国・地域では感染不安の払しょくが海外旅行再開の必須条件

 「2021年6月までのレジャー全般の実施意向」は、「外食」、「買い物」、「屋外での運動」等の日常生活圏内のレジャー、国内旅行、海外旅行の順に選択率が高くなっており、第1回調査と第2回調査で大きな変化はない。この結果から、日常生活圏内から徐々に行動範囲を広げていきたいという意識が見てとれる(図1)。また、第1回調査から第2回調査の間の約6ヶ月の変化では、アジア、欧米豪ともに全てのレジャーの選択率が上昇しており、特にアジアでその傾向が顕著である。

 レジャーの選択肢のうち海外旅行については、航空機を利用した際の搭乗時間別に3パターン(5時間未満、5時間以上9時間未満、9時間以上)に分け、実施意向を尋ねている。調査対象国・地域によって日本までの搭乗時間が異なるため、参照する図が異なる点に留意が必要である。調査対象国・地域のうち、東アジア各国・地域(韓国、中国、台湾、香港)については、日本までの搭乗時間は5時間未満に該当するケースが多いため、図2-aを参照されたい。同様にタイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア等の東南アジア各国からの搭乗時間は5時間以上9時間未満(図2-b)、欧米豪各国は9時間以上(図2-c)となる。全体的な傾向として、搭乗時間に関わらず、感染不安が高いと、海外旅行実施意向は低い傾向である。一方、インドネシア、マレーシア、タイや中国のように、感染不安は高いが海外旅行実施意向も高い国もある。国籍・地域別では、欧米豪では感染不安が低く海外旅行実施意向が高く、東アジアでは感染不安が高く海外旅行実施意向が低い。なお、シンガポールはアジアの国ではあるものの、欧米豪各国に近い傾向を示している点も興味深い。

2.新型コロナ流行収束後の海外旅行
 ―流行収束後の海外観光旅行したい国・地域で日本は1位

 「新型コロナ流行収束後の海外観光旅行の実施意向」(新型コロナ流行収束後に海外観光旅行を実施したいと「思う」、「どちらかといえば思う」人の割合)は第1回調査(アジア:86%/欧米豪74%)と比べ第2回調査(アジア:90%/欧米豪:81%)では上昇している(図3)。特にアジア・欧米豪ともに実施したいと「思う」人の割合が上昇している。6ヶ月以内の海外旅行実施意向(図2-a~c)は感染不安との関係性が見られるのに対し、新型コロナ流行収束後(図4)となると、同様の関係性は見られず、全ての国・地域で海外観光旅行の実施意向が7割以上と高い。特にアジア各国・地域で高い。これらの調査結果から、アジア各国・地域では、感染不安の払しょくが海外観光旅行再開の必須条件とも言えるだろう。

 「海外観光旅行の再開のタイミング」は、アジア・欧米豪ともに「抗ウイルス薬の開発など、新型コロナの脅威が消滅してから」、「渡航希望先の安全宣言後」、「WHOのパンデミック収束宣言後」となっており、上位3項目の順位は第1回調査と変化ない(図5)。
 また、アジア・欧米豪ともに第2回調査では「抗ウイルス薬の開発など、新型コロナの脅威が消滅してから」の割合が上昇している。第2回調査の実施時期は、世界的にワクチン開発が進み、実用化され始めた時期と重なっており、期待の表れとも捉えられるだろう。

 「新型コロナ流行収束後に海外観光旅行したい国・地域」では、第1回調査に引き続き、第2回調査でも、「日本」が回答者全体、アジアで32ヵ国・地域中1位となった(図6)。また、選択率も回答者全体、アジア、欧米豪のいずれにおいても、第1回調査から10ポイント以上上回っていることから、新型コロナの影響が長引く状況においても、日本人気が衰えていないことを確認した。

3.新型コロナ流行収束後の訪日旅行
 ―外国人旅行者はあらゆる場面で感染リスクが低い状況を希望

 新型コロナ流行収束後の訪日旅行はどう変化するのか。適宜、新型コロナ流行以前の2019年に実施した「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(2019年度版)」の結果と比較しながら、考察したい。

【計画段階】

 訪日旅行を計画する際に重要な要素となるのが「予算」(図7)と「情報」(図8)である。「新型コロナ流行収束後の訪日旅行1回あたりの予算」が増加すると回答した人の割合は、アジア、欧米豪ともに半数以上となっている。費目別では、欧米豪では「宿泊施設」、アジアでは「食事」が1位となっている。
 「安心して訪日旅行をするために必要な新型コロナに関する情報」では「観光関連事業者の感染防止対策」が最も高く、アジアでは特にその傾向が顕著である。一方、欧米豪では「特に必要だと感じる情報はない」の選択率が高くなっており、アジアと欧米豪で情報に対する温度差が生じている。

【訪日旅行時】

 新型コロナ流行収束後の訪日旅行で希望する「旅行形態」(図9)と「同行者」(図10)について、第2回調査と2019年度調査を比較すると、希望する旅行形態では、アジア、欧米豪ともに、「フルパッケージツアー」の利用希望割合が低くなっており、「航空券と宿泊施設のみがセットになったパック旅行」が高くなっている。見知らぬ人と行動を共にし、バス移動や大人数での食事等、感染リスクが高い場面が想起される旅行形態は敬遠され、顔見知り同士の少人数旅行に利用しやすい旅行形態が好まれる傾向にある。
 また、希望する同行者は「配偶者・恋人」や「自分の子供」の選択率が高くなっており、旅行手配方法、同行者に共通するのは行動経路を把握できる人との旅行を想定している点である。

 次に「訪日旅行で体験したいこと」(図11)では、アジアで「自然や風景の見物」、「有名な史跡や歴史的な建造物の見物」、「世界遺産の見物」、「アウトドアアクティビティ」の選択率が上昇した。また、欧米豪では、「繁華街の街歩き」の選択率が大幅に(25ポイント)低下しており、新型コロナ流行収束後は、繁華街等の感染リスクが高い場所を避け、「自然や風景の見物」、「アウトドアアクティビティ」等、感染リスクの低い場所で体験できることを希望する傾向が見られる。

【訪日旅行時に事業者等に求める対策】

 「訪日時に利用するサービス事業者の感染対策」については、交通事業者(図12-a)、宿泊事業者(図12-b)ともに「徹底した消毒」となった。いずれの項目も事業者が行う感染対策としては重要なものであり、選択率の大小で感染対策の優先順位を判断することは難しいが、注目すべきは、「特に必要だと思う対策はない」「自社の感染対策に関する多言語での情報発信」を除く項目において、アジアの選択率が欧米豪を上回っており、アジアからの旅行者は日本国内の事業者の感染対策に厳しい目を持っていると考えられる点である。
 今後、我が国では、「東京2020オリンピック・パラリンピック」(2021年)、「ワールドマスターズゲーム」(2022年)、「大阪・関西万博」(2025年)と国際的なイベントが連続して開催を予定しており(※1)、当面は新型コロナとの共存を模索しながら開催することになるだろう。本調査では、これらを見据え、「国際的なイベントに必要な準備」を尋ねており、「国際的な認証を受けている」、「定期的な清掃および消毒」、「非接触顔認証・決済システムの導入」が上位3項目となった。

4.新型コロナ下における自国での日本に関する活動
 ―実施率が高いのは食体験、コンテンツ、製品・食品購入、訪問意向が高くなる活動はオンラインツアー

 これまでの調査結果から、インバウンド市場の再開が見通せない中、いかに高い訪日意向を維持、喚起できるかが重要となる。そこで、本調査では、「2020年に自国で実施した日本に関する活動」(図13-a)に着目し、これらの活動を通じて、訪日意向がどう変化したか(図13-b)を把握した。
 実施率が高い「日本食を体験する」、「日本のテレビ番組、映画、アニメ、音楽、ゲーム書籍等を楽しむ」、「日本企業の製品、日本産の食品等を購入する」を実施したことによる訪日意向は相対的に低いが、実施率が低い「日本国内を案内するオンラインツアー(※2)に参加」したことによる訪日意向は高い。この背景には、日本食、日本のコンテンツ、日本の製品・食品購入は現地(特に東アジア)では日常生活の一部となっており、こうした消費行動と訪日旅行が結びつきにくくなっているものと推察される。一方、新型コロナ下でその名を広く知られるようになったオンラインツアーは、目新しい消費活動であるため、実施率は低いものの、活動そのものが旅行を想起しやすいことが影響しているものと考えられる。以上から、実施率の高い活動をいかに訪日意向の維持・喚起に結びつけるか、また、訪日意向の維持・喚起に有効ではあるものの、実施率の低いオンラインツアーの実施率をどう上げるかが課題となるだろう。例えば、日本国内で販売されている特産品を事前に消費者に送付してツアー中に楽しむことができるオンラインツアーを海外でも販売すること等が考えられる。海外の消費者に事前に特産品を送付することは難しいが、日本食や日本企業の製品、日本産の食品が日常的に販売されている東アジアであれば、小売店やレストランへの流通システムが既に構築されており、都道府県で現地事務所を構えていることもあるため、関係者がうまく連携できれば実現可能性も出てくるのではないだろうか。

5.まとめ

 本調査の第1回調査、第2回調査を通じて、外国人旅行者の海外旅行に対する意向に「変化していない点」と「変化しつつある点」が浮き彫りになった。この点を踏まえながら、インバウンド市場回復にあたって、今取り組むべきことを考察したい。
 まず、「変化していない点」については、流行収束後の海外旅行の実施意向は高く、訪問先としての日本人気は継続して高い一方、特に我が国のインバウンド市場の大半を占めるアジア地域では、感染不安が強く、今後6ヶ月間の海外旅行実施意向が低いこと(図2-a)、事業者に求める感染対策にも関心が高いこと(図12)から、「日本に行きたいけど(感染が不安で)行けない」外国人旅行者が多く存在している状態に大きな変化はなかった。同時に、インバウンド市場が再開するまで、高い訪日意向を維持・喚起するための取り組みは引き続き必要となるだろう。最近では、鳥取県がタイ国際航空と連携し、バンコク市内で、県の特産品であるカニを使った弁当の提供や、同時に観光プロモーションを実施している(※3)。日本国内の自治体と現地事業者等が連携した取り組みは2020年上半期にはあまり見られなかったが、下半期以降、徐々に増加している。
 インバウンド市場の再開に向けては、新型コロナ流行後に「変化しつつある点」を踏まえて、準備(プロモーション、受け入れ環境整備等)を進めていく必要があるだろう。今回の調査で明らかになったことは、新型コロナ流行前に比べ、外国人旅行者は訪日旅行のあらゆる場面で感染リスクを意識し、これを回避しようとする意向が見られたことである。また、新型コロナとの闘いが長期化していることによって、変化しつつある外国人旅行者の意識にも注目したい。「レジャー実施意向」(図1)や「新型コロナ流行収束後の海外旅行実施意向」(図3)は第1回調査と比べ、第2回調査では上昇しており、長期に及ぶロックダウンや自粛等によるストレスを身近なレジャーで癒したいという思いや、いつの日か海外旅行をすることを夢見ながら、困難な日々を乗り切ろうとする思いも垣間見えた。
 一方、新型コロナ流行収束後に海外旅行をしたくない人を対象にその理由を尋ねた結果(図14)では、アジア、欧米豪ともに「心理的に、海外旅行をする気分になれないから」の選択率が、第1回調査と比べ、第2回調査では低下している。また、欧米豪では「感染予防のため自粛したいから」や「旅行先での衛生面での配慮や、清潔・安全に不安があるから」の選択率が低下しており、「コロナ慣れ」とも取れる状況が見られた。欧米豪では「海外旅行への興味が薄れたから」が第1回調査、第2回調査とも選択率が高いことにも注意が必要である。今回紹介した2回の調査結果からは、新型コロナ流行収束後の海外旅行意向は高かったものの、さらに流行収束までの時間が長引くと、海外旅行そのものへの興味・関心が低下してしまう可能性も示唆しており、今後も注視していく必要があるだろう。
 第1回調査と第2回調査との約6ヶ月の間で、海外旅行実施意向や、他の海外の旅行先と比較した際の日本の競争力の高さ等に大きな変化はなかったが、新型コロナの影響により、少しずつ外国人旅行者の嗜好や意識が変化している点が確認できた。本調査の結果が示すように、レジャーは消費者の身近な範囲から徐々に回復することが予想されるため、インバウンド市場の再開には時間を要すると思われるが、再開するその日まで、当財団では、今後も継続的に外国人旅行者の意識を把握し、プロモーションや政策立案に有益なデータを発信していきたい。