観光地における持続可能性指標に関する研究

概要

観光地における持続可能性指標に関する研究

海外等を中心とした既存導入事例や整理フレームを押さえつつ、それらに捉われない、自然資源を基調とした国内観光地におけるボトムアップ型観光地づくりに寄与する指標活用事例の創出、汎用化を目的に各種研究や取り組みを進めています。

持続可能性指標とは~観光地の健康診断ツール~

指標の定義

ひと言で表現するならば、
指標とは「観光地における健康診断の診断項目」です。

多くの人は、健康に長生きをするために、定期的な健康診断を通して血液検査やレントゲン撮影、血圧測定などを実施し、身体に不具合が出ていないかのチェックを行います。これが人ではなくクルマなら車検になりますし、船舶であればドック、そして建物においても定期的な検査は行われます。

こうした検査・チェックを観光地単位でも行うべきだとする考え方が近年広まっており、その際の診断項目が持続可能性指標となります。主に項目は「利用面」「居住面」「経済面」「環境面」の4つに分類され、「観光客に愛され続ける観光地になっているか」「地域住民にとって観光がウェルカムなものになっているか」「地域へ適正な経済効果が生まれているか」「観光地の自然・文化資源が高い質のまま守られているか」といったことを評価(測定)するための複数の診断項目が設定されます。

なお、より専門的に表現するならば、
指標とは「ある対象地域における、設定目標に対する現在の状況を測定する項目(観点)であり、観光地を管理・運営する際の意思決定を支援する効果的なツール」であると言えます。

指標導入の目的

観光地において指標を導入する目的は、主に以下の3つに分類されます。
ア)成果測定:計画目標に向けた達成状況を指し示し、改善の方向性を示唆するもの
イ)比較検証:観光地の現況を指し示し、時系列変化や他地域との比較検証に使うもの
ウ)早期警告:観光資源や地域住民の悪影響が生じた際のアラートとして使う者

これらのいずれか1つに目的が限定されるのではなく、観光地の状況に応じて組合せやそれぞれの目的としての強度が変わってきます。

なお、これらの目的を人間の検査・チェックで例えてみると、
ア)なりたい自分になれるように体重や体脂肪率を測定して、トレーニングに活かすようなもの
イ)自分の成長の度合いを他者と比較して確認するために運動能力・体力診断テスト(スポーツテスト)を受けるようなもの
ウ)重大な病気になる前の段階で病気を発見するために人間ドックを受けるようなもの
と表現できます。

指標導入による付加的効果

指標を導入することで前述の目的を達成することが出来るとともに、以下のような付加的な効果が地域に生まれることも期待されます。

 エ)関係者間の合意形成の促進
  例)観光計画の検討における関係者の議論促進
    指標がないケース
    :関係者がそれぞれ主張したい論点から離れられず、議論が平行線になる。
    指標があるケース
    :自らの立場を指標項目と数値で表すことで、異なる立場の関係者の主張が客観的に見やすくなるほか、
    それぞれの取組の優先順位が異なる場合でも、お互いに許容できるレベルを具体的な数値を使って折衝
    するなど、議論におけるよい触媒となる。

 オ)観光の「見える化」による理解促進
  例)地域における観光の貢献度合いに対する地域住民の理解促進
    指標がないケース
    :観光振興の意義や効果を実感できず、観光を推進することを自分ごととして感じられない。
    指標があるケース
    :観光を振興することによって生まれる様々な効果が、地域住民にも実感しやすい項目によって指標化され、
    定期的に広報されることで、観光を進めることが実際に自分たちの生活に好影響を与えていることを認識で
    きるようになる。

指標の具体例(オーストラリア・カンガルー島での導入ケースを通して)

 地域にとって大事な健康診断について-オーストラリアの実例を踏まえて-【PDF】

研究の進め方

研究の背景・目的

持続可能性指標は、これまで海外を中心に研究および観光地における実践が重ねられてきましたが、国内においてはその研究および実践事例はまだまだ少ないのが現状です。しかし、観光地の競合環境のグローバル化が進展する中で、より効果的・効率的な観光施策の実施の必要性が高まっており、持続可能性指標を活用した科学的アプローチによる観光政策および観光地の状況の客観評価の重要性はさらに高まると想定されます。

そこで、本研究では、海外等を中心とした既存導入事例や整理フレームを押さえつつ、それらに捉われない、自然資源を基調とした国内観光地におけるボトムアップ型観光地づくりに寄与する指標活用事例の創出、汎用化を目的に各種取組を進めることとします。

研究の全体像

報告

シンポジウム

第24回旅行動向シンポジウム

当財団主催シンポジウムのテーマ別討議において、持続可能性指標をテーマに設定し、ケーススタディとして沖縄県座間味村、栃木県日光市の関係者、加えて学識経験者および環境省から登壇者を招き、国内における持続可能性指標導入に向けた各種報告および意見交換を実施しました。

講演・学会・会議参加

成果物

執筆

機関誌「観光文化」

研究員コラム

参考サイト

この研究・事業の分類

関連する研究・事業
発注者 公益財団法人日本交通公社
実施年度 2010年度~