東日本大震災の当時の様子が、テレビや新聞で再現され改めて息をのむ恐怖と絶望感が甦ってきた。自然と人々の暮らしが調和して幾星霜、営々と築きあげてきた風土-個性的な港町や美しい農村が一瞬で壊滅した。それでも被災地の人々の冷静沈着、秩序ある態度は世界の賞賛を浴びた。これもまた東北が生んだ風土である。
 爾来十年。インフラ整備、街づくり、産業の復旧復興へのご労苦に心から敬意を表したい。観光復興も急を要し、また継続的に取り組むべき最重要課題であった。行政と業界の連携のもと風評被害打破の様々なシンポジウム・キャンペーンや応援ツアーから始まり、将来につながる創造的復興へ向けて大きく前進した。特に特筆すべきは以下の三点である。
 その第一は「東北観光推進機構」や各県、各観光地がDMO機能を高めたことである。それぞれの固有の資源や産業を活かして様々な体験プログラムの開発、語り部ツアーなど付加価値のある旅行が創造された。副次的にはボランティアの参画もあり多くの東北ファンを生み出した。第二は相互の「絆」が深まり「みちのく潮風トレール」はじめ、桜街道、酒蔵、震災遺構伝承館、祭りなどネットワーク化が進み広域・ルート観光が形になったことである。第三に各県の官民の意欲的なプロモーションやチャーター・クルーズ誘致などによりインバウンドが飛躍的に伸び、過去最高を更新し続けていることである。
 残念ながら昨年来の新型コロナ禍により一時頓挫しているが方向性は変らない。むしろこれを奇貨とし二地域居住、ワーケーションなどニューノーマルは今までの国内旅行の在り方を根本から変える格好の機会を与えてくれた。その解は、密を避け、ゆったり、個別に、多様に過ごす旅行への切り替えである。観光資源を更に磨きデジタルマーケティングを駆使して世界標準の滞在型観光地をめざす新たなステージに入った。
 2014年東北観光推進機構はロゴマークを制定し内外に「TOHOKU」を発信した。復興を象徴する不死鳥の絵をあしらい、キャッチフレーズはTreasure-land TOHOKU Japanである。かつてEライシャワー元米国駐日大使は山形県を〝山の向こうのもう一つの日本〞と表現したが、これは東北全体の多彩な原風景的風土を意味する。期せずして、世界的人気の旅行雑誌「ロンリープラネット」と地理学雑誌「ナショナルジオグラフィック」が2020年の世界推奨旅行先に東北を上位に紹介した。その評価項目は豊かな自然、歴史伝統、おもてなし、祭りや食など文化遺産、アクセスの便などに加え震災後の観光復興の目覚ましい姿である。
 4月から東北6県が初めて一体となったディスティネーションキャンペーンが始まる。「TOHOKU」ブランドを発信する時が到来した。東北各地の祭りのように一気の爆発を期待する。


舩山龍二(ふなやま・りゅうじ)
昭和15年、山形市生まれ。東京教育大学(現筑波大学)理学部卒。昭和37年財団法人日本交通公社(現株式会社JTB)入社。経営企画室長、取締役九州営業本部長、常務取締役人事部長などを経て平成8年代表取締役社長、平成14年代表取締役会長、平成20年から令和2年まで相談役。国土交通省交通政策審議会委員、観光立国推進有識者懇談会委員、日本ツーリズム産業団体連合会(現日本観光振興協会)会長、山形観光アカデミー学長など多数の公職を務める。立教大学特任教授のほか主要大学でも出講。現在、公益財団法人日本交通公社評議員。