みんな前向きに生きているよ!

 東日本大震災当時は、いわき湯本温泉旅館組合の理事長を務めていましたが、この10年は、地域づくり、激減した観光客への対応など、本当に怒濤の10年でしたね。
 それに原子力災害の風評被害は今でもあります。廃炉までには時間がかかるし、汚染水、汚染土をはじめ様々な問題が出てくるでしょう。地元からは、震災から10年で注目が集まり、風評が高まることのないよう、関係機関に申し入れをしています。
 でも、明るい兆しもあって、一時は空き家や空き地だらけだった湯本の街に、この1、2年で、新しいお店が出来てきましたね。余所から来た若い方が、湯本は雪もあまり降らないし、駅の近くに何でも揃っているし、病院も近いし、住みやすいからと選ばれているようです。
 またここ数年、湯本は「フラのまち」として注目を集めています。観光客が激減する中、「湯の華女将会」の女将たちが、「この
ままでは、いわき湯本温泉がなくなってしまう、なんとかしなくちゃ」との想いを強くし2014年の終わり頃から、まずはできることから始めようと、着物で踊るフラダンスなど、コツコツと取り組んでいました。そうすると、段々と街の人にも理解されるようになって、今では「フラのまち いわき湯本温泉」として盛り上がりを見せています。行政も、女将たちを応援しようと、「フラシティブラザーズ」という男性職員による応援団を立ち上げて、フラを踊っています。民間と行政と一体になってまちを盛り上げようとしていますね(笑)。
 ただ、今年度(2020年)は、コロナ禍で、大変厳しい経営状況が続いています。「GoToトラベルキャンペーン」があって、11月は前年比を初めて上回った感じです。しかし、危惧されるのはGoToや県民割など、お客様が割引に慣れ過ぎて、割引がなくなった時に来なくなるんじゃないかということ。
 だから、単なる安売りではなく、割引制度を使って独自の体験プログラムを組み込んだ宿泊プランなどを提供し、湯本の良さを知ってもらうこと、ファンを作ることをやっていかないと。割引がなくても選ばれる宿や地域づくりが大切です。
 また、宿泊プランは、宿だけでなく街中にもお金が落ちるものにしたい。古滝屋の里見さんとは、一緒になって「オンパク」に取り組んできましたが、湯本には下地があります。
 湯本に滞在して健康になってもらいたいですね。健康志向もさらに高っていますし、免疫力強化に温泉療養などを打ち出すよい機会だと思っています。
 取材があると、「みんな前向きに生きてるよー」と言うんです。暗い話題ではなく、明るい話題を、マスコミにも取り上げていただきたいですよね。

 

こいと旅館 代表取締役社長
小井戸英典氏