「みんな前向きに頑張ってるよー」

 松川浦は南北に長い潟湖(せきこ)のひとつで、震災前は、春から夏にかけては潮干狩りや、冬はズワイガニを食べに来るお客様で賑わった。それが震災後は、原発事故の風評被害もあって一変してしまった。あたり前のものを全て失った時、これはもうダメかもしれないと思った。しかし、やっぱり松川浦の名物は、安くておいしい旬の魚と美しい海辺。仲間たちと、どうしたら松川浦の観光を取り戻せるのか、手探りで頑張ってきた。
 最近の5年間で、2017年4月には「松川浦大橋」が通行可能になり、翌年の2018年4月には、その先の海岸線を走る「大洲松川線」が開通した。7月には8年ぶりに「原釜尾浜海水浴場」が再開。「そうま浜まつり」の盛況ぶりは、観光復活への自信、希望の光になった。
 2020年10月には、子どもたちが遊び、人が集い交流できる憩いの場「尾浜こども公園」が開園した。そして、同じ月の25日には、この復興市民市場「浜の駅松川浦」が、松川浦と原釜尾浜海水浴場の中間地点にオープンした。相馬で水揚げされた新鮮な
魚介類をはじめ、地元農産物や加工品、お土産などを販売して
いる。
 かつて、松川浦には相馬双葉漁協直営の「水産物直売センター」があったが、津波で流されてしまい、ずっと代替施設の整備が期待されていた。それが現実となった。私は、運営を担う第三セクター「相馬市民市場株式会社」にも出資するとともに、売り場の隣にある食堂「くぁせっと」の店長を務めている。
 店名は相馬地方の方言で「食べてもらう」の意味、旬の地魚でもてなしたい、美味しさをしってほしい。スタッフは、旅館や漁師、そして、浜の母ちゃんたち。新鮮な魚を極上の調理方法で美味しくいただく、そのノウハウを持っている仲間たちと、メニューの開発には特にこだわっている。
 「くぁせっと」の営業は11時から15時(ラストオーダー14時30分)で、席も50席なので、1日のお客様は100人程度と見込んでいたら、ありがたいことに多い時には約350人がいらっしゃる。
 震災で甚大な被害を受けたが、いつまでも被災地ではいられない。観光のインフラの整備は進んだ。子供たちの喜ぶことがしたい。松川浦観光の復興、相馬の復興に向けて、これらの交流拠点をうまく活用していきたい。お客様目線で取り組んでいけば大丈夫。これだけの人間が揃ってんだから!。
 舞台は整った。松川浦には仲間も多い。俺の役割は、「そうだ、そうだ、俺たちも一緒にやるんだ。俺たちが、この地を盛り上げるんだ!」と、言い続けていくことかな(笑)。

 

ホテルみなとや 取締役
浜の駅 松川浦「浜の台所 くぁせっと」店長
管野貴拓

 自分が生まれ、自分の人格を形成してきた町、俺にとっての地元は「浜」だ。
 大学卒業後、自宅近くの津神社例大祭夜祭を見に行くと、「観音畑の舞」が奉納されていた。でも、自分のアイデンティティの一部ともなっている祭に、子供たちが誰も来ていない。これじゃ「浜」の文化が廃れてしまうと危機感を持った。俺らの上の世代の生き様がよかったのかな。この浜で生きてきたら、この地を盛り上げたいという想いは誰にでもある。
 仲間に声をかけて敬神部に入り、翌年の例大祭に向けて練習を積んだ。舞をアレンジすることは許されなかったが、「子供たちが見に行きたくなるような、面白い舞にしたい」と、本番で悪だくみを決行した。会場は盛り上がったが、敬神部の先輩たちにはこっぴどく叱られた。伝統を受け継ぐことも大切。でも、多少を変えても時代にあった形で、俺たちが伝承していかなくちゃなんねぇ。今では理解者も増えて、敬神部も若返り、例大祭も賑わいを取りどしつつある。昔から、一度気になったら頭から離れない性分、感性の基に体が動く感じだな(笑)。
 震災後、「相馬の基幹産業は漁業。相馬にとって魚は血液、魚が回らないと地域経済が成り立たない」との想いを一層強くした。試験操業が続く中で、浜の食文化を守りたいと「どんこ肝つみれ」などの水産加工品も作った。相馬は魚種が豊富なので素材はたくさんある。
 仲間の発した「どこよりも『そうま』がやるべきじゃないか」との一言に端を発し、2015年10月から5年間にわたり「そうま食べる通信」を20号発行してきた(食べる通信の詳細は、61頁参照)。生産者の生き方や食に対する想いと食材を読者に届けてきた。読者イベントも開催し、親戚付き合いのできる唯一無二のコミュニティを確立することもできた。「どこよりも そうまがやり切りました!」と、20号をもって休刊となるが、引き続き、生産者や読者の皆さんと親しくお付き合いしていきたい。
 そうま食べる通信と歩んだこの5年間は、「面白そうで始めたら、やっぱり面白かった」というのが率直な思いだ。どんなことでもやっている本人たちが楽しくなければ続かない。自分が関わることは全部面白くしてやるつもりでいる。
 相馬で水揚げされる水産物は全て放射線検査をクリア、4月には操業の拡大も予定されている。浜の駅の食堂「くぁせっと」では板前も務めている。
 これからもやりたいことを、やっていく。面白くする自信、ありすぎるから。来たら絶対面白くて帰りたくなくなるから(笑)。
 みなさん、浜でお会いしましょう!

 

沖合底曳網漁船 清昭丸 船主
一般社団法人そうま食べる通信共同編集長
菊地基文