③ 人がつながっていくことで、活力が生み出されていった

 女川町は震災復興のトップランナー、と言われることには違和感を覚えるが、復興のスピードは早かったといってよい。町の規模が比較的小さく、町長のリーダーシップのもとで団結力が強かったため、必然的、偶然的にも先に進むようになった。広く知られることになったが、震災直後の民間事業者らの会合で「還暦以上は口を出すなと」という名言があった。若い人たちに任せ、自分らは見守る側に回るということだ。この区分では町長も若い年代になる。重鎮たちがバックに回り、新しいことに取り組むときに、障壁や反対があれば支えてくれた。
 観光振興という視点では、訪問客数は震災前のピークには戻っていないものの、この10年間の取り組みは極めてうまくいった。成功の要因は、JR女川駅前に、コンパクトに商業施設や集客施設を配置し、ここを観光の核、ランドマークにできたことだ。週末はもちろん、平日も賑わっている。
 震災直後、私たち行政は被災者の捜索や、生活基盤となる物資調達に追われていた。この間に民間の人たちが未来にむけた話し合いを続け、自分たちはこうしたいと町に提言してきた。その時の絵が、コンパクトシティーであり、集約型だった。他では町を囲むような防潮堤の議論が多かったと聞いたが、私たちは、かさ上げによって減災のできる町を計画した。防潮堤は造らないのではなく、以前の高さまでは戻す。中には防潮堤で町を守ってほしいという意見もあったが、説明を重ねた。海をなりわいとして生きてきた町なので、海を守ろうという話も入っていた。こうした防災や、土地の基盤を造ることは、行政の役割になる。一方で、そこに立つ建築物や、施設の運用は、実際に使う人たちが自分たちで使いやすいようにルールを決めたほうがいい。シーパルピアを運営する第三セクター「女川みらい創造株式会社」への町の出資率は24%に抑えられている。まちづくりで一番重要なのはスピードだ。民間主導でまちづくりをしよう、との思いが込められた出資比率だ。
 女川の復興は民間主導による公民連携だといわれる。震災前はいわゆる行政主導がほとんどだった。震災で町のほぼ全てを失ったので、今までの慣例的なルールも失った。なくなったと思っている。震災後に就いた町長が公民連携を打ち出し、これからは民間が主体になってやらなければ前進できないと言った。私たち行政職員も、率直に聞き入れた。全てがなくなったので、これまでのやり方にこだわることはない。町が活力を持っていくには、民間の人たちが元気でないと、という思いはあった。様々な場で民間主導のまちづくりと紹介されることは、誇らしいと思う。もちろん民間主導といっても行政が全く関わらないということではない。何回も丁寧な協議を重ね、お互い同じ立場で歩み寄るように話し合っている。
 女川は水産業を基幹産業にしてきた町だが、観光業も基幹産業の一つだと位置づけてきた。新しくまちをつくり直す話し合いでは、コンパクトシティーという枠の中で、水産業はこのエリア、観光の中心は町のへそに持ってきましょうとなった。商店街はテナント方式にし、新しい血の循環を促すようなやり方にした。人口減少が加速する中で、何もしなければ町は消滅に向かう。外貨を得て、交流人口を増やすことが町の命題だった。立地的に不利な場所で、いかにして誘客するかが重要だ。人口減少の食い止めにはとどいていないが、震災を契機にUターンで戻りクラフトビール店を始めた若者や、女川に移住して石鹸を作って売る若者、ギターの製作・販売を始めた人もいる。こうしたことも観光の効果だ。「スタート女川」というキャッチフレーズのもとで、何を始めるにも女川がいい、女川をぜひ使ってください、と伝えている。
 この10年間の取り組みを通して、もう少し考慮すべきことがあったとすると、町域全体の均衡かもしれない。いろんな新しいものを狭いエリアに集中させたが、行政的には他の場所に対する配慮があってもよかった。
 震災復興を通して、ボランティアや、観光というツールを使って、いろんな人が町にはいり、多様性という考え方を持ち込んでもらった。この狭い町は、保守的な考え方ばかりだったが、こうもできるんじゃない、こういうことにチャレンジしたらどうだ、ということが受け入れられるようになった。こうして、人がつながっていくことによって、活力が生み出されていった。復興は町の力だけでは駄目だった。全国、世界からの手助けがあって復興が進んできた。
 町自慢が多くなったが、女川の人たちのいいところは、単純というか、誰にでもウエルカムなところだ。初めて会ったのに久しぶりという感じだ。これはいいと思う。なので、新しく事業をやるなら女川がいいという人がいる。震災を契機に女川は人の気質も大きく変わったと感じる。(談)

聞き手・文:寺崎竜雄

 


新田 太氏(にった・ふとし)
女川町産業振興課 課長補佐兼 観光係長兼 地方卸売市場管理事務所副所長