観光地づくりオーラルヒストリー<第10回>鈴木 忠義氏
◎まちづくりも「背景」が大事

概要

観光地づくりオーラルヒストリー<第10回>鈴木 忠義氏<br />◎まちづくりも「背景」が大事

女性がなぜ化粧するかというと、人に見られるからですよね。景観学的にも「見る」「見られる」という関係、視点と対象の関係が非常に大事だと言えます。見られることに対して人間がどう感じるか、見る方がどう感じるか。さらに視野を広げて建物を考えた場合、さらに地域全体として見た場合はどうなのかということです。

ようやくこの頃、地域で景観というものが重視されてきましたが、ポイントとして一つ、「揃う」ことがあると思いますね。人間は自分だけ目立ちたいという思いがありますが、神戸の山手などは、建物の色をこの範囲で選ぶなど、自分たちで規制してますね。

倉敷なども、岡山の大原財閥の大原総一郎さんが洋行から帰ってきて、俺のところがちゃんとやらなければということで、いろんなまちづくりの規制ができてきたんですよね。その意思を大原さんの後継者もちゃんと継いでいます。そういうことを意識して、まちづくりをする地域も出て来ています。

そもそも昔は原材料が制約されていましたからね。レンガならレンガしか使えなかったから、どの建物も自然とレンガ造りで揃ったレンガ街みたいなのができたわけです。その後の時代は、耐久力の問題もあります。外国は材料工法がある程度決まっていて、建物に耐久力がありますが、日本はすぐ建て替えるでしょう。

木材を使うから壊れやすく、回転が早い。材料工法もいろいろ出てくるので、新しいことをやりたがるんですよ。それで20年も経つとがらっと景観が変わってしまう。素封家の家は門構えや塀、母屋まで統一感があるけど、まわりの町並みは新建材を使った家が並んでいたりして、非常に難しいですね。

建物の回転が速いのは日本の一つの特色ですし、建築家などはそれでメシを食っているから、一概によくないとは言えませんが、自分の作ったものだけ、あるいは自分の家だけを目立たせようとするのではなく、やはり周囲との調和を考えてほしいと思います。僕が学生や助手をやっていた時に洋画家の中村琢二先生が教えに来ていて、学生と一緒にデッサンを教わった時に「絵は背景が大事。背景で描くんだよ」と教わりました。その考えは、景観づくりにも共通しますね。

地域の中の、部分的な整備でもいいんです。最近あまり言われなくなったけど、風致地区という都市計画の規制があるので、そういうものも使って魅力あるようなまちづくりをやっていくといいのではないかと思います。

ちょっと視点を変えると、ディズニーランドやUSJなどは世界観が統一されていますが、その代わり、自分のところにお客さんを入れたらある意味、一歩も外に出さないという点で徹底していますよね。雇用機会の創出はあるだろうけど、ああいう大企業の観光開発が、地域にどういう経済効果をもたらしているのかも気になるところです。