概要
「観光」という言葉を(他の分野の)学者の先生達は「俗っぽい」と言って使いたがらないけれど、重要なことなんです。僕は人間の本性に根ざしたものだろうと思っているわけです。
それをいかに産業の支えにもっていくかということですね。要するに経済の中の分配論ですから。儲けたお金をどう使うか。そこで楽しみを提供して、楽しみがお金になるということですよね。
苦あれば楽ありという人間の生活を波形のグラフに描いてみて、カーブの上が「楽」とすれば、そこに入るものは何なのかと考えると、重要な要素の一つに「観光」があると思います。それを支えて来たのが交通手段であり、情報であると。
一方、カーブの下の「苦」が労働とすれば、オートメーション化などで労働の内容も変わってきているでしょう。その変化によって生まれた時間が波の上の方をどんどん押し上げているはずで、観光に関わる研究者などは、その「上の部分」をどうするか考えることが大事だと思いますね。
自分が別の場所を訪れるだけでなく、自分の地域によその人を招くことも「楽」の一つになってくると言えます。特に老舗旅館の女将さんなんかは、古いお客さんが来ると金銭以外の喜びみたいなものがあるんじゃないかな。僕のわずかな体験では、岳温泉のひなびた温泉宿に行って、普通のお客さんじゃないような待遇をしてくれたことがありますが、人間の喜びとして「会う」ということ、いわゆる交流というのは非常に大事だと僕は思います。
同窓会なんていうのも、その典型じゃないでしょうか。そういう意味では故郷に帰る帰省旅行なども重要で、そういうものも含めて一言で観光と言えるかもしれない。さまざまな交流の機会をどう演出していくかが、観光の大事な役割ではないでしょうか。
2016年3月15日
東京都世田谷区にて
取材者:公益財団法人日本交通公社観光政策研究部
堀木美告(現・淑徳大学)、後藤健太郎、西川亮
2016年8月26日文章校正・追加終了
*鈴木忠義氏の観光まちづくりに関するお考えは当財団機関誌「観光文化」215号に
「人間の『喜び』と『生きがい』を生む観光地づくり」として掲載されています。ぜひ併せてご一読ください。
https://www.jtb.or.jp/wp-content/uploads/2021/09/bunka215_P2-7.pdf
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