オランダの2都市から考えるクルーズ船の乗客に対する課税 [コラムvol.543]

なぜクルーズ船の乗客に対する課税の議論があるのか

近年、ヨーロッパをはじめとする世界中の都市で、クルーズ船の受け入れをめぐる議論が活発化している。クルーズ船は一度に多数の観光客を地域に運び、大きな負荷をもたらすため、その受け入れの是非がしばしば議論の対象となる。

もっとも、クルーズ船による負荷への対策は、受け入れるか否かという二者択一にとどまるものではない。寄港隻数や上陸人数の上限設定、到着・出発時刻の調整、港から市内への交通誘導、観光スポットの予約制、港湾インフラの整備など、複数の政策手段を組み合わせることが考えられる。

その中で、クルーズ船の乗客(以下「クルーズ船乗客」という。)に対する課税も、一つの対策として議論に上がることが多い。

この議論を考えるに当たっては、まず宿泊税等の観光税の性格を整理しておく必要がある。観光税の使途には、観光プロモーションやマーケティング、観光コンテンツの造成など、観光振興のための財源としての側面がある。他方で、観光客の来訪によって生じる道路、公共交通、清掃、混雑対策などのインフラや公共サービスへの負担を賄う財源としての側面もある。前者が観光需要を生み出し、地域経済を活性化するための財源であるとすれば、後者は、観光によって地域に生じる追加的な公共負担を、来訪者にも分担してもらうための財源である。

クルーズ船乗客に対する課税は、このうち後者の観点、すなわち観光によって生じる追加的な公共負担を来訪者にも分担してもらうという観点から議論されることが大半である。宿泊税が導入されている地域では、前者の観点に使途が限定されている地域を除いて、ホテル等の宿泊客から徴収された宿泊税が、地域の受入環境や公共インフラを支える財源の一部に充てられている場合が多い。他方で、クルーズ船乗客は船内に宿泊し、寄港地では数時間だけ滞在するため、通常は寄港地の宿泊税を支払わない。それにもかかわらず、上陸した乗客は、都市の道路、港湾施設、公共交通、観光案内、清掃、混雑対策といった公共的なサービスやインフラを現に利用する。このため、宿泊客との間で、観光によって生じる公共負担の分担に不均衡が生じる。実際、宿泊税の導入をめぐる議論の場では、宿泊事業者の側から、宿泊客にのみ負担を求めることの公平性を問う声が上がることもある。

さらに、クルーズ船乗客については、一般の日帰り客とは異なる固有の負荷もある。クルーズ船は、一度に多数の乗客を短時間で送り込むため、来訪の時間帯や場所が集中しやすい。これにより、港湾周辺や主要観光地における混雑、交通渋滞、公共交通への負荷、観光地周辺の滞留、住民生活への影響が生じやすくなる。こうした負荷は、単に日帰り客であることから生じるものではなく、クルーズ船観光の来訪形態そのものに由来する面がある。そして、こうした固有の負荷に対応するための財源として、クルーズ船乗客に対する課税を求める声が上がることになる。

オランダにおけるクルーズ船乗客に対する課税

宿泊税は、税率や使途を除けば各地で比較的共通するのに対し、クルーズ船乗客に対する課税の設計は、国や地域によって大きく異なる。以下では、そのうち、クルーズ船乗客がその地に「滞在すること」を捉えるオランダのアムステルダムとロッテルダムの2都市の事例を取り上げ、この「滞在」への課税という発想が、どのように制度化されているかを見ていく。

アムステルダム:乗客の「滞在」に着目する制度

オランダ・アムステルダムは、クルーズ船乗客に対する日帰り観光客税を採用している*1。税率は1人1日15ユーロであり、課税客体は、クルーズ船乗客が「滞在」することそのものである。課税標準は乗客が滞在した日数であり、これは接岸から出航までの日数として数えられる(滞在が数時間にとどまる場合であっても1日として課税される。)。

上記のとおり、この制度の課税客体は、船舶の入港や出航そのものではなく、クルーズ船乗客がアムステルダム市内で滞在することであるところ、トランジット(その都市を出発地とも到着地ともせず、航路の途中で立ち寄る)のクルーズ船乗客の滞在のみが課税対象となり、アムステルダムを出発地または到着地とするクルーズ船乗客の滞在は課税対象から除外されている。

この区別の背景には、観光税の対象となる「滞在」には、単なる乗降や乗継ぎを超える一定の継続性が必要だという考え方がある。条例に付された公式解説でも、乗降や乗継ぎのために短時間市内にいるだけでは、観光税の対象となる「滞在」とはいえないとされている。

そのため、アムステルダムを出発地または到着地とする乗客については、乗船・下船に伴う短時間の市内滞在にとどまる場合には課税対象外となる。他方で、航路の途中で寄港し、市内で一定時間を過ごすトランジット客については、宿泊を伴わない滞在として日帰り観光税の対象となる。

実質面でも、アムステルダムを発着地とする乗客については、乗船前または下船後に市内のホテル等に宿泊する場合が多く、その場合には通常の宿泊税の対象となる。そのため、発着地とする乗客を日帰り観光税の対象から除外しても、実質的に市内に滞在する場合(すなわち、宿泊する場合)にはその滞在が宿泊税によって捕捉・回収されるため、公共負担の分担に漏れが生じにくいという事情も、この除外を支えていると考えられる。

なお、この日帰り観光税は、同じ滞在であっても、自動車や鉄道で訪れる日帰り客を対象とせず、利用する交通手段によって取扱いを区別していることになる。条例に付された公式解説によれば、観光税が対象とする「継続的な滞在」に当たるかどうかは、個々人の主観的意図ではなく、客観的に判断されるべきものとされている。そして、自動車や鉄道で訪れる日帰り客一人ひとりについて、継続的な滞在に当たるかを個別に認定することは、税の執行上現実的ではない。そのため、執行可能性・確認可能性、すなわち制度の効率性の観点から、クルーズ船以外の手段で訪れる日帰り客を課税対象から外すことが正当化される、という整理がされている。

ロッテルダム:乗客の「夜間滞在」に着目する制度

オランダのロッテルダムは、クルーズ船上での夜間滞在に着目したクルーズ船宿泊税を採用している*2。税率は1人1泊6.10ユーロであり、ロッテルダム市内で、夜間に4時間以上連続して係留されたクルーズ船上において、乗客が有償で滞在することを課税対象としている。

同条例において、夜間滞在とは、21時から翌6時までの間に、クルーズ船が少なくとも4時間連続して係留される場合をいう。アムステルダムが単に「滞在」に着目するのに対し、ロッテルダムは「夜間滞在」に着目する点で設計は異なるが、乗客が一定時間その地にとどまるという「滞在」を捉えて課税する点では、両者は共通の発想に立っている。

日本において

日本でも、クルーズ船の受け入れをめぐる負荷の問題はしばしば指摘されており、近年はクルーズ船乗客への新たな課税を求める声も聞かれる。もっとも、現状では、クルーズ船乗客を対象とした法定外税はまだ実現されていない。

アムステルダムとロッテルダムに共通する特徴は、船舶の入港ではなく、乗客がその地に「滞在」することを課税客体としている点にある。この点で、宿泊税が「宿泊」という滞在行為に着目する税であるとすれば、両都市の制度も、乗客の滞在に着目する点でこれに近い発想に立つものといえる。いずれの条例でも、納税義務を負うのは、滞在の機会を提供する事業者、すなわち運航会社であり、事業者が税相当額を乗客から回収する仕組みがとられている。事業者が乗客に代わって納付する点では、宿泊施設が宿泊税を徴収・納付する構造とも近い。

日本においても、各地域で宿泊税の導入が進むなかで、その使途として観光振興の財源をどう確保するかという点にとどまらず、観光によって生じる公共負担を誰がどのように分担するかが議論されるようになっている。クルーズ船乗客は、その多くが寄港地では宿泊を伴わない日帰り客でありながら、日帰り客の中でも地域に与える負荷が特に大きい。このため、宿泊客との間での公共負担の分担の不均衡と、来訪が集中することによる固有の負荷の双方の観点から、負担の公平性をめぐる指摘が生じやすい。クルーズ船乗客に対する課税には、日本ではまだ先行する例がないものの、こうした視点からすれば、今後、その導入に向けた具体的な検討が始まっても不思議はない。

その際に、オランダの2都市の例が示唆するのは、課税客体を船舶の入港ではなく乗客の「滞在」に求めるという発想もあり得るという点である。課税客体を乗客の「滞在」に置くという整理は、日本の既存の制度との関係でも意味を持つ。港湾管理者が船舶から徴収する入港料は、「船舶の入港」を対象とするものであるところ(港湾法第44条の2)、乗客の「滞在」を課税客体とする設計は、入港料とのすみ分けを説明しやすいものと考えられる。

【注】

  • ※1 「2019年日帰り観光客税条例(Verordening Dagtoeristenbelasting 2019)」
    https://lokaleregelgeving.overheid.nl/CVDR614619/4
  • ※2 「2026年クルーズ船宿泊税条例(Verordening logiesbelasting cruiseschepen 2026)」
    https://lokaleregelgeving.overheid.nl/CVDR749018/1