自然地域における入域料 〜収受にかかるコストについて考える〜 [コラムvol.408]

2019.11.07

観光地域研究部 副主任研究員 伊豆菜津美

竹富島で入域料(入島料)の収受開始

 沖縄県竹富町では、2019年9月から、環境保全を目的として、地域自然資産法に基づき、竹富島を訪れる観光客を対象に任意で1人当たり300円の「入域料(入島料)」を求める取り組みが始まりました。集められた資金は環境維持のほか、自然を損なう恐れがある開発用地の購入などに使われます。

 地域自然資産法は、公的資金だけでなく、入域料等(※1)の民間資金を用いて環境保全を推進することを目的として2015年に施行されました。近年では、既に多くの自然地域で「協力金」や「募金」といった形で入域料等の収受が行われていますが、地域自然資産法に基づき入域料が求められるのは今回の竹富島の例が全国で初めてのケースです。竹富島での導入をきっかけに、今後入域料等を求めることによって環境保全を推進したいと考える自然地域が増えてくるかもしれません。

 既に多くの自然地域で入域料等の仕組みが導入されていますが、果たしてどの地域でもうまく導入できるものなのでしょうか。今回のコラムでは、自然地域における入域料導入の実現可能性を左右する要因の一つである、収受にかかるコストに関する問題に焦点を絞って考えてみたいと思います。

※1:ここでは、山岳地域や島嶼地域などある地域に入域する際に支払いを求められる入域料、法定外目的税、協力金、募金などを合わせて入域料等と記載している。

コストを賄えるだけの利用者数があるか

 入域料等を集める行為には必ず一定の収受コストが生じます。例えば、入口に収受員を配置すれば人件費がかかり、機械や募金箱を配置すればそのお金の回収費がかかります。竹富島などの離島のように入口が限定されている地域については、ある程度効率的に入域料を収受することができるかもしれません。一方で、多数の登山口が設けられている山のように徴収箇所が分散される地域では、収受コストが大きくなることが想定されます。また、観光客の入込が少ない地域においては、集まったお金のほとんどが収受コストに費やされてしまい、課題を解決するための事業に資金が残らないといった状況も想定されます。

 つまり、入域料等の導入は、収受コストを賄えるだけの入込みが期待できる地域でないと難しいものと考えます。仕組みをうまく成立させるためには、収受コストを抑える、もしくは入込み(利用者数(協力者数)や入域料等の単価)を増やす工夫が必要となります。

 しかしながら、後者の入込みを増やすという選択肢は、特に自然地域においては持続可能な利用の観点から様々なリスクが生じる可能性があります。(無計画に)利用者数全体の増加を期待することは、自然環境のキャパシティを超えた利用を促進するような方向に進んでしまう恐れがあるからです。また、入域料等の単価を高額にすることは、本来国民誰もが享受できるはずの自然を楽しむという権利を奪うことにも繋がりかねません。自然地域での入域料等の導入を検討する場合は、まず、できる限り収受にかかるコストを削減することから検討するのが重要ではないでしょうか。

コストを削減する工夫

 実際に入域料等が導入されている地域では、どの程度の収受コストがかかっているのでしょうか。自治体のホームページを確認すると、例えば富士山の山梨県側では約30%、伊吹山では約15%程度が協力金収受にかかる費用に充てられているようですが、両地域とも収受にかかるコストの削減を課題として挙げています。既に入域料等が導入されている地域では、少しでも多くの費用を本来の目的の事業に充てられるよう、収受コストを削減するために様々な工夫がされています。

 例えば、富士山では、任意で1人当たり1,000円の環境保全協力金を求めています。協力率を高めるために人員を登山口に配置して収受を行なっていますが、登山者が少ない時間帯に人員を配置した場合、収受の効率が低下し、収入に対するコストのさらなる上昇が懸念されることから、登山口の利用状況に応じて人員を配置する時間帯の調整を行っています。

表 富士山保全協力金受付場所・時間

 アメリカのボルダー州立公園では、公園内に駐車する場合には一日$5の利用料金が課せられていますが、徴収員は配置されておらず、料金投入箱のみが設置されています。料金投入箱の中には封筒があり、利用者は自ら料金を封筒に入れ、表面の黄色の紙を切り取ります。切り取った黄色の紙にナンバープレート番号、州、日にちを記入し、車の後ろの窓に貼っておくことで支払いの証明となり、違反が発覚すると、ナンバープレートから割り出された車の所有者へ、$25の罰金が請求される仕組みになっています。

図 ボルダー州立公園(左:支払い証書、中央:料金投入箱、右:支払い証書設置場所)

 妙高山・火打山で実施されている社会実験では、任意で1人当たり500円の協力金を求めていますが、三つの主要な登山口のうち、最も登山者の多い笹ヶ峰登山口のみに収受員を配置しています。収受員を配置していない登山口でも募金箱を設置していますが、募金箱に加えて、Softbankのスマートフォンであればウェブ上で携帯料金と一緒に支払うことのできるSoftbankのサービス、「つながる募金」にジャンプするQRコードを掲示しています。試行的な取り組みではありますが、回収費がかからないことに加え、登山時には財布を持たないという登山者が多い中で、協力率向上にも期待ができるかもしれません。

図 妙高山火打山自然環境保全協力金社会実験、新赤倉登山口(右側のポップがかざせる募金)

収受コストを理解してもらうために

 上記の事例は一部ではありますが、入域料等の取り組みを行う様々な地域で時間や場所を限定したり、収受の方法を効率化したり、収受にかかるコストを抑える方法を試行錯誤しています。しかしながら入域料等の収受についてはその全てをボランティアで行わない限り必ずコストが発生します。協力した側は、支払ったお金が協力を依頼された課題に直接的に使用されることを望みがちではありますが、収受にかかるコストを入域料等の中から賄うためには、協力いただける方が納得できるような説明や表現を持って依頼し、理解してもらうことが重要だと思います。

 今回のコラムでは、自然地域での入域料等の導入における収受コストを取り上げました。環境省が進める「国立公園満喫プロジェクト」(※2)においても、優れた自然地域への立ち入りに対して、利用者から入域料等を徴収して、自然資源の保護・活用を進める取り組みを拡大することを推進すると掲げられており、入域料等の検討が進められる自然地域が今後も増えてくることが想定されます。入域料等の導入は、貴重な自然環境の保全の一つの有効な手段になり得ますが、社会的風潮に流されることなく、その必要性と可能性の両方を十分に議論した上で取り組みが進められることを期待したいと思います。

※2:2020年の訪日外国人旅行者数を4,000万人とすることを目指して取りまとめられた「明日の日本を支える観光ビジョン」に基づく10の施策のひとつで国立公園を世界に通用する「ナショナルパーク」としてブランド化することを狙いとしている。

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