快く協力していただくために ~自然環境保全のための入域料~ [コラムvol.388]

2019.01.28

観光地域研究部 研究員 伊豆菜津美

 自然環境の保全と持続可能な利用を推進していくためには、適切な資源管理や施設整備ために、安定的な財源を確保する必要があります。しかしながら、近年、公的資金だけでは必要な経費を賄うことができず、「法定外目的税」や「協力金」という形で、施設使用料や環境保全にかかる費用の一部を利用者に求める事例が増えています。

 「協力金」は、法令上の制約も少なく法定外目的税と比較して導入しやすいものの、利用者に対して強制力を持って徴収ができず、安定的な取組が行えないという懸念があります。協力金の制度をうまく活用するためには、継続的に利用者に協力してもらえる仕組みを整えることが重要となってきます。 今回のコラムでは、昨年秋に妙高山・火打山で実施された、入域料等に関する社会実験を例に、利用者に快く協力していただくための留意点について考えてみました。

燕温泉登山口

新赤倉登山口

良くわからないものには協力できない

 妙高山・火打山で実施した社会実験は10月1日~21日の紅葉シーズンに行われました。結果は、通過者3,459人のうち75.1%の登山者にご協力いただくことができました。

 登山者はどのような理由で協力することを決めたのでしょうか。現地で実施したアンケート調査では、支払った登山者は、「趣旨に賛同したから」という回答が多く、支払わなかった登山者は、「任意の協力金だから」という制度上の理由の他に、「気付かなかったから」「使い道がわからなかったから」という回答が多くみられました。

 これらの結果からは、きちんと趣旨や使い道が登山者に伝わっていたら、また、協力金に関する取組を事前に周知できていたら、より多くの登山者が協力金の支払いに応じていたのではないかと推測されます。

支払った理由

支払わなかった理由


※支払わなかった理由のその他の回答のうち、44%が財布を持ち合わせていなかったと回答。
※調査日によっては、係員を配置せず、協力金箱の設置により回収を行っている。

資料:環境省報道発表資料より筆者作成

いつ・どのように伝えるべきか

 妙高山・火打山の登山者の多くは、早朝に登り始めます。暗いうちから、多くの登山者が登山口前で荷物の整理、体操を始め、出発に向けて準備を整えています。そのような中、いざ出発と意気込む登山者に対して、登山口で一人一人の足を止め、協力金の趣旨について説明をすることは現実的ではありません。また、仮に実行できたとしても登山者は不快に感じるでしょう。趣旨や使い道を理解してもらい、協力するかどうかきちんと判断してもらうためには、やはり、事前に認知した状態で来ていただくことが非常に重要になります。また、アンケート調査の結果でも、協力金について、登山口に来るまでの「道中で知った」という登山者はほとんどおらず、旅行を始める前に伝える必要があります。

 それでは、事前に登山者に情報を伝えるためにはどのような場所や媒体を活用すればよいでしょうか。調査の結果では、登山情報サイトのホームページや、自治体、観光協会のホームぺージ等のインターネット上の媒体で確認した登山者が多いことが分かります。また、その他の回答の中にも、インターネット上の山行記録プラットフォームサイト(例:ヤマレコやYAMAP)による回答が多く、個人の登山者による発信も影響力がありそうです。

早朝混み合う登山口(笹ヶ峰登山口)

社会実験を知ったタイミング

社会実験の実施を知った場所・媒体

※ヤマケイオンライン:山と渓谷社が運営する登山情報サイト。火打山、妙高山をgoogleで検索した場合、行政以外のホームページでトップに掲載されている。

資料:環境省報道発表資料より筆者作成

百聞は一見に如かず?

 筆者は、社会実験のスタッフとして12日間登山口にいましたが、登山者に制度の趣旨が伝わらなかったり、内容を理解した上で支払う必要はないと判断されたりと、協力頂けなかった場面に度々立ち合いました。そのような中、印象的であったことは、登山開始時には理解されず協力を得られなかった登山者であっても、下山時にご協力いただくことがあるということでした。これは、一度や二度でなく、何度も遭遇したことでした。ご協力頂いた方に話を聞くと、「木道が整備されていて助かった、これであれば500円を支払ってもよいと思った。」「ライチョウを観ることができて感動した!これからも保全に取り組んでほしい。」等、実際に整備の状況を目にしたり、感動的な自然体験に遭遇したりすることで、協力金の収受を肯定的に捉えられるようになったようでした。妙高山・火打山で協力金の収受を行ったのは昨年の秋がはじめてのことで、協力金が登山道整備や保全活動に充てられるのはこれからですが、これまでの地域が取り組んできた保全活動や登山道整備の状況が登山者に評価されたといえるでしょう。

 集められた協力金は、地域の課題に対して計画的に使われるべきことは言うまでもありませんが、協力金という形で制度を続けていくためには、登山者の目線を意識し、実際に目で見てわかる整備を行ったり、成果が見えにくい活動であればその必要性をわかりやすく伝える工夫を講じることが大事になってくるかと思います。地域の課題を解決しつつ、登山者にとってもより快く協力したいと思えるような仕組みが整えられることを期待したいと思います。

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