若者視点からの角館とその周辺地域における観光の一考察 [コラムvol.234]

2014.12.12

企画課長  中野文彦
col-234

 当財団では、調査研究の成果を活かした実践性を重視した講義を、大学と連携して行っています。今回は、立教大学観光学部にて、当財団の会長、志賀典人が特任教授として行っている講義の中から、「旅行産業演習1及び2(2年生と3年生の2つの講義)」の秋合宿についてご紹介します。

●立教大学生と秋田に実習に訪れました

 私は今年度から「旅行産業演習1及び2」に講義の補助として参画しており、この秋に18名の立教大学生とともに、秋田県角館(仙北市)、秋田内陸縦貫鉄道(仙北市~北秋田市/阿仁合・森吉山)、増田(横手市)を訪れました。
 私自身は秋田県や角館には何度か訪れていましたが、今回は、20近く年齢の離れた大学生と一緒にこの地域の観光を考えることによって、これまでの研究者の視点とは異なる新鮮な視点に驚き、また、いくつかの新しい発見がありました。

●若者(大学生)の視点から見た角館、秋田内陸縦貫鉄道、増田町

 今回の学生達のほとんどは秋田県を訪れることが初めてで、「秋田県、角館のイメージがなかなか湧かない」という声もありました。もちろん、「あきたこまち」「なまはげ」「きりたんぽ」、角館であれば「武家屋敷」といったイメージはありました。しかし、秋田県や地元市町村等のインターネットや観光パンフレット、首都圏で販売されている旅行ツアー商品等を事前にできるだけ調べたのですが、なかなか“これを見たい、あれをしたい”といった具体的なイメージが湧いてこなかったようです。

 しかし、訪れた後は、学生の反応は大きく変化しました。
 角館については「武家屋敷以外にも、外町(商人町)にもたくさんの見所がある」「工夫しながらまちの良さを保存しているのがよくわかった。そうした歩みをもっと知りたい」「角館の方々がまちを保存してきたことが印象に残る。帰って知人に伝えたくなる」「地域の産品を使った飲食店など、食の魅力がたくさんある」といった、いわば「まち」としての魅力について多く語るようになりました。観光協会の方に一緒に歩いていただくことで、「ただ歩くだけでは薄い経験になってしまう。地域の方と一緒に歩くことでそれを埋めていただいた」といった声も聞こえてきました。

角館
角館/角館駅前蔵 (観光案内所)
武家屋敷
武家屋敷でのイタヤ細工実演
フルーツパーラー角館さかい屋<
フルーツパーラー角館さかい屋
(地元西明寺栗を使ったパフェは1時間待ち)
安藤醸造の蔵
安藤醸造の蔵で江戸時代からの営みを学ぶ

 秋田内陸縦貫鉄道については、角館から阿仁合(あにあい)までの1時間30分ほどの乗車でしたが、「里山、自然を間近に眺めることができて、“旅をしている”と感じた」「車内での、アテンダントさんのアナウンスが良かった。アナウンスがあるからすばらしい風景に気づくことができた」「途中、日本人や台湾からのツアーのお客様で大賑わいになった」といった声が上がるなど、当初はイメージできなかった、よい経験がたくさんできたようです。株式会社秋田内陸縦貫鉄道の方からのレクチャーでも、経営の苦労とともに、地元の物産や人々と結びついた様々なイベント列車の運行、台湾でのプロモーション活動などの営業努力などの話や沿線地域と連携した特産品開発など、学ぶことが多かったようです。

秋田内陸縦貫鉄道 秋田内陸縦貫鉄道
秋田内陸縦貫鉄道/台湾からのツアー客でにぎわう車内、車内からの風景
増田町 公開家屋の案内
増田町/重要伝統的建造物群保存地区である町並み、楽しく見せる工夫をしている公開家屋の案内

秋田内陸縦貫鉄道 自然ガイドの方と歩く森吉山のブナ林  参加者全員が初体験だった自然ガイドと歩くツアーを体験した森吉山では、丁寧に、そして誇り高く森吉の自然と文化を「世界遺産に匹敵する豊かな自然と文化のある森吉山のブナ森!」と解説してくれたガイドの方、伝統的な町並みや蔵を活かしたまちづくりと観光に取り組む増田町では、公開している町屋・蔵のオーナーであるおじいさん、おばあさんとの“会話”を通して、「会話を通して地域の魅力を感じることで、すごく愛着が湧いた」との声もありました。

●訪れて感じたことを人に伝えるアイディア

 この合宿の目的は、訪れた地域をテーマとした旅行商品づくりや新しい視点からのプロモーションを考えることです。学生たちは、自分自身で得た経験(その地域で感じた魅力的な体験、地域の方との交流)を、まだその地域の魅力を知らない人に対して「行ってみたい」と思ってもらうために知恵を絞っています。  学生達のアイディアを、私の視点も交えて次のように整理しました。

○“まち”としてのイメージがふくらむ地域であることを伝えたい
 ・ 角館は「武家屋敷と桜」という点のイメージから、「まちあるき」や「周辺観光」ができる観光地へイメージ転換できる(食、まちあるき、物産の体験・買い物、情報、交通、地域の魅力を伝える人などが揃っている)。
 ・ 外国人も公共交通を使う時代。公共交通の観光客利用の重要性を再確認し、角館を拠点とした周辺観光をどんどん発信すべき(角館から秋田内陸縦貫鉄道を紹介、角館から増田を紹介など)。
 ・ 地元の方と一緒にまちあるきをすると“まち”の魅力が見えてくる。体験した人が体験を口コミ(SNS)で発信する仕掛けが必要。
○ “もの”ではなく、“こと”を伝えたい
 ・ 物語性のある伝え方 秋田でしかできない50のことを~
   例) 角館の安藤醸造でできること
秋田内陸縦貫鉄道でできること
増田の佐藤又六家でできること
 ・ 「こと」に出会う仕掛け
   例) 便利な交通情報、地図情報も重要
“50のこと”スタンプラリー(SNS参加(参加者が発信)、LineでスタンプGetなど・・・)
 ・ 名物料理とともに、それを提供する飲食店を、「店名+魅力的な食事の写真+一言」で紹介(細かい情報はなくても、“写真で食べに行きたい!” と思わせる)
 ・ 動画の活用(地元の人が紹介する“秋田でしかできない50のこと”など)
○若い世代に伝えたい
 ・ 20代を中心とした若者は秋田や角館のことをあまり知らない。しかし、実際に知って訪れれば「実際に秋田のために動いてくれる人」になり得る。
   例) 秋田の魅力を伝えてくれる人(SNS、口コミ)
地域の物産を買ったりイベントに参加してくれる人
長期的に(何回も)秋田に訪れてくれる人
将来的に住んでくれる人

 

●若い世代の声をどのように受け止めていくか

 今回の合宿のプロセスにおいては、訪問前の情報収集の段階ではなかなか地域の魅力が伝わってきませんでした。ところが、訪問中にひとたび地域の魅力を感じると、その地域への愛着が湧き、真剣に、前向きに、地域の魅力を語り、地域のこれからを考える姿勢に変化しました。現在学生達は、自分達が経験したことを他の観光客にも感じてもらうためのアイディアを議論しています。

 これからの観光政策は「地域創生につながる観光に取り組む」段階になります。そうした段階において、若い世代の地域への関心を高め、さらに地域の活性化や発展にどのように巻き込んでいけるかは重要なテーマになります。また、今回の合宿で出されたような若い世代の声に、私たちはどれだけ応えていけるのか。今回の合宿を通して、改めて、しっかりと考える事が求められていると感じました。

議論 公開家屋の案内
自分達が経験したことを他の観光客にも感じてもらうためのアイディアを議論しています

<合宿に際してご協力をいただきました皆様>
(秋田県様、仙北市TIC(ツーリスト・インフォメーション・センター)様、秋田内陸縦貫鉄道様、NPO法人森吉山ネイチャー協会様、増田まちなみ保存会様)