観光分野におけるデジタルアーカイブ化に向けた課題 [コラムvol.241]

2015.02.20

観光研究情報室・旅の図書館 主任研究員 渡邉智彦
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はじめに

 現在、私は、当財団が運営する専門図書館「旅の図書館」に勤務している。日々の業務に取り組むなかで、とくに重要な課題として考えている点は、

 ①観光分野における専門図書・資料の分類のあり方(観光学の体系化と不可分の課題)

 ②場としての図書館のあり方(その一環として、当館では昨年11月から「たびとしょCafé」を開催している)

 ③観光の研究・実践に寄与する専門情報の収集・選定・保管・共有の方法(当館では、ツーリズム分野における国際学術誌の選定と収集等を行っている)

 

であるが、ここでは③に関連して、最も早急な対応が望まれている課題のひとつである「観光分野におけるデジタルアーカイブ化の進め方」について考えてみたい。

 デジタルアーカイブ化とは、「有形無形の歴史・文化資産などを対象に、デジタル方式で記録し、データベース技術を用いて保存、蓄積し、ネットワーク技術を用いて活用すること」である(NPO法人日本デジタル・アーキビスト資格認定機構による定義)。デジタルアーカイブ化と言うと、たんに、紙媒体の図書・資料の劣化や、図書・資料の増大に伴う保管スペースの確保といった、個別の図書館や文書館等が抱えている課題を解決していくための効果的な方策と捉えられがちであるが、実際には、図書、記録文書、映像、写真、美術品等、これまでに蓄積してきたさまざまな文化資源をいかに収集・保存・修復・活用・共有・発信し、新たな創造の源とする「知の循環」として根付かせていくのか、という大きな問題とも結びついている。実際に、現在、国内では、国立デジタルアーカイブセンターの設立構想、著作権に関する法改正の検討等、デジタルアーカイブ環境の整備に向けた議論が活発に行われており、さまざまな分野におけるデジタルアーカイブ化の動きは今後急速に進んでいくことが予想される。

観光分野が扱う情報の整理と選別

 このような状況において、観光分野ではデジタルアーカイブ化をどのように進めていけばよいのだろうか。

 まず、観光分野が扱う情報について考えてみたい。統計データ、白書、報告書、専門図書、学会誌、業界誌、観光研究者や実践者へのオーラルヒストリーの音源記録、観光地の写真等、観光分野が扱う情報(図書・資料群)にはさまざまな種類や内容のものが存在するが、残念ながら、これらのデジタル化及びアーカイブとしての整備は十分進んでいないようだ。例えば、国内の観光関連学会誌をみても、データベース・サービス「CiNii」に論文を公開しているのは1誌のみ(『観光ホスピタリティ教育』)であり、学会誌のデジタル化は国内の観光関連学会が抱える大きな課題のひとつとなっている。

 このような多岐にわたる観光分野の情報について、デジタルアーカイブ化の優先順位の整理を試みたのが図表1である。ここでは、各図書・資料が備える「稀少性」(流通経路、入手の可否)、「専門性」(研究・実践への有用性)、「閲覧可否」を分類軸として、優先度の高いもの(A)から、優先度の低いもの(F)までを整理している。実際の選別作業を進めていくにあたっては、この基準に加えて、図書・資料のもつ「学術的価値」、「歴史的価値」、「紙媒体の破損・劣化状況」、「公開・非公開の可否」(著作権・肖像権の問題と関係)等を検討したうえで、デジタルアーカイブ化の対象を絞り込んでいくことになるだろう。

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観光分野におけるデジタル情報の保管・共有の仕組み 〜UNWTOの事例〜

 次いで、観光分野におけるデジタル情報を保管・共有する仕組みについて考えてみたい。

 観光分野に特化した情報を扱うデータベースは国内外に存在するが、国内では、観光庁、JNTO(日本政府観光局)、JATA(日本旅行業協会)、日本観光振興協会、海外では、WTTC (World Travel & Tourism Council)、PATA(Pacific Asia Travel Association)、USTA(U.S. Travel Association)等のホームページを確認したところ、世界でもっとも充実したデータベースを持つ機関はUNWTO(World Tourism Organization)だと思われる。

 UNWTOでは合計14種類のデータベースを保有しており(図表2参照)、その内容は、UNWTOの全刊行物を扱う「UNWTO Elibrary」、世界の国・地域200以上の統計データを扱う「Tourism Factbook」、UNWTOの組織記録を扱う「UNWTO Historical Archive」、動画共有サイト「vimeo」にUNWTOのメッセージや会議内容を掲載する「vimeo UNWTO」等、さまざまである。扱う情報の種類、利用形態に応じたデジタル情報の保管・共有の仕組みは、観光分野のデジタルアーカイブの仕組みを考える上でも数多くの示唆を与えてくれるものだろう。

図表2 UNWTO (World Tourism Organization)が扱うデータベースの一覧

今後に向けて

 ここまで、観光分野におけるデジタルアーカイブ化の現状と課題について簡単に紹介してきたが、実際のデジタルアーカイブ化の整備を進めていくうえでは、さらに、以下のような高度な課題にも対応していかなければならない。

 ①図書・資料の各種メタデータの付加による検索性の向上(検索システムの対象となる書誌情報、所在情報等)

 ②図書・資料の著作権、肖像権、所有権の扱い(権利者不明のまま死蔵されているものは「孤児作品(Orphan Works)」と呼ばれる)

 ③関係機関との協力・連携によるリソース・シェアリング

 ④多様な関係者の参画の可能性

 ⑤デジタルアーカイブを担う人材の育成(文化・芸術・学術の知見、情報メディアと著作権の知識、文化資源の保存・修復・収集・組織化・共有化・発信に関する知識・技能等)

 これら課題を解決していくことが、観光分野における「新たな創造」と「知の循環」に結びつくような基盤づくりには必要である。観光の研究・実践に寄与するさまざまな情報の整理・収集・公開を進めていくことが旅の図書館の果たすべき大きな役割のひとつであり、デジタルアーカイブ化はその重要な柱となるものだ。今後も引き続き、私は、観光分野のデジタルアーカイブのあり方について考察を進め、その具体化に取り組んでいきたいと思っている。

参考文献

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