シェアサイクルで街をめぐる [コラムvol.350]
写真1.都内のシェアサイクル。赤いボディが目立つ

 世の流れは「所有」から「共有」へと変化していますが、まさにその便利さを実感したのがシェアサイクルです。たまたま自宅の近くにシェアサイクルのポート(貸出・返却ができる場所)があるのを知ったのがきっかけで利用するようになったのですが、駅から離れた場所を訪れる際などに重宝しています。

 特に便利さを感じたのは出掛けた先で雨が降った際やお酒を飲んだとき。自分が所有する自転車であれば出先に置いて帰り、後日取りにこなければなりませんが、シェアサイクルであればその心配がありません。また、駐輪場料金などの維持費もかからず、いいことずくめです。

 なにより徒歩で移動するのともまた違った景色を味わえるのが楽しく、この1年ほどよく利用するようになりました。

都内で見かけるようになった赤い自転車

 都内で提供されているのは株式会社ドコモ・バイクシェアが運営しているサービスで、本コラムを執筆している2017年7月時点では6区で広域展開されています(江東区、千代田区、港区、中央区、新宿区、文京区)。6区内のポートであればどこで借りてどこで返しても自由。

 同サービスがなんといっても優れている点は、すべての自転車が電動アシスト付ということ。都内は思った以上に起伏に富んでいるので、一般的なシティサイクルでは苦労する場所が多々ありますが、電動アシスト付であればちょっとした坂はらくらく上がれます。

 利用料金は1回につき30分以内で150円(税別)で、地下鉄の初乗り運賃とほぼ同じ。また1日パスや月額会員制度もあります。自転車はどの区でも共通で、色は赤(写真1)。目立つデザインですのでサービスを知ってからは、あちこちで利用している人が目につくようになりました。平日は通勤に利用する人が多く休日はご夫婦で利用されている姿を見かけるなど、シェアサイクルが区民に浸透している様子がうかがえます。

 一方で気になったのは旅行者の利用を見かけないこと。特に外国人が利用している姿はまだ見かけたことがありません。旅行者が利用してもきっと便利なのに、なぜ?そう疑問に思い現在展開されているサービスを調べていくうちに、少しずつ旅行者が利用する際の課題が見えてきました。

ロンドンとの違い

ロンドンの自転車貸出端末

写真2.ロンドンの自転車貸出端末

 まず挙げられるのは登録の手続きの複雑さです。利用するに当たっては最初に公式サイトで会員登録の手続きをしなければいけません。サイクルポートには利用手順を書いた看板が設置されていますが、表記は日本語のみ。字も小さく、旅行者が利用するにはちょっと難しいと感じました。

 もう一つ、旅行者にはハードルが高いだろうと感じるのが貸出手続きで、これも会員サイトで行わなければいけません。ICカードがあれば自転車にタッチするだけで借りられるのですが、ICカード利用もサイトで事前登録が必要となってしまいます。

 シェアサイクルの先進事例としてはパリやロンドンが有名です。実際、私も5~6年前にロンドンを訪れた際に利用したのですが、どのサイクルポートにも写真2のような貸出端末が設置されています。貸出手続きはこの端末にクレジットカードを入れて、出てきたレシートに書かれている番号を自転車のロックに入力するだけ。実にシンプルです。

 それに対して、都内のいくつかのサイクルポートでもロンドンのように貸出端末が設置されていますが、その数はごく限られています。 同サービスはまだ実験段階ということですので、今後こういった課題が解消されていくことを期待します。

”ママチャリ“は日本だけ?!

ロンドンのシェアサイクル

写真3.ロンドンのシェアサイクル。
中央に簡素なスタンドがついている

 もう一つ盲点だったのが、いわゆる“ママチャリ”が外国の人にとって使い慣れていないこと。それを知ったのはつい先日、京都で外国人FIT客が多く泊まる宿のマネージャーにお会いした時でした。その宿では“ママチャリ”タイプのレンタサイクルを貸し出しているのですが、外国人宿泊客は戸惑う様子を見せており、スポーツタイプにしてほしいとの要望が上がっているそう。理由を聞いてみると、“ママチャリ”のようなタイプの自転車に馴染みがなく、特にスタンドの使い方や鍵のかけ方が分からないとのこと。

 そのお話を聞いたときは鍵の話はなるほどと感心しつつも、前述のロンドンのシェアサイクルも“ママチャリ”とほぼ変わらなかったのに、と疑問に思ったものでした。しかし改めてロンドンで撮った写真を見ると、確かにスタンドはついているものの、ただ下ろせばいいだけのシンプルな造りだということに初めて気づきました(写真3)。そもそも返却の際にスタンドを下ろす必要さえなかったのです。

 それに比べて日本の“ママチャリ”はスタンドを下ろしてさらにロックを掛けるものがほとんどで、説明なしに使うのは難しいかもしれません。東京のシェアサイクルは電動アシスト付で重量があるため、さらに頑丈なスタンドになっており、返却の際はさぞ戸惑うことと思います。外国人の方にシェアサイクルを利用してもらうには、そういった背景を理解した上で丁寧に解説する必要性を感じました。

 リピーターのFIT客が旅行者の主流となったいま、常に新しい街の魅力を伝えていくことが求められています。そうした人たちも手軽に自転車で巡ることができるようになることで、電車やタクシー、徒歩で巡るのとはまたひと味違う街の魅力を見つけてもらえたらと思います。