「キャリング・キャパシティ」は算出できるのか(その4) [コラムvol.91]

2009.07.31

観光調査部長 寺崎竜雄
col-91

 7月初旬にウィーンで開催された「ISSRM(International Symposium on Society and Resource Management)」に参加しました。社会活動と自然環境との関わりに興味をもつ社会科学者、自然科学者、政府機関、土地管理者、NGOなどといった多様なバックグラウンドの関係者が集う学会IASNR(The International Association for Society and Natural Resources)による国際シンポジウムです。

■世界の共通テーマ

 第1回目のISSRMは、1986年、米国のオレゴン州立大学で開催されました。その後も継続的に実施されており、今回が15回目になります。これまでに3つの大陸の6カ国で開催され、次回は米国のテキサス、その次はマレーシアでの開催が決まっているそうです。ウィーンでは、ウィーン農科大学(the University of Natural Resources and Applied Life Science Vienna:BOKU)が素晴らしい大会運営を行っていました。
 今回、参加者数は400人から500人程度もあり、とても賑やかなシンポジウムでした。参加人数の多さにもまして感心したのは、44カ国からの参加があったことです。資源管理の研究は、北米が先駆的であることは知っていましたが、そこに端を発したネットワークはヨーロッパ、中南米、アフリカ、アジアなどにも拡大し、理論的成果だけにとどまらず、それらの理論が現場で実践されています。
 わたしたちはそこで、前回のコラム(vol.71)でも紹介した"わが国におけるROS(Recreation Opportunity Spectrum)理論の実践例"について発表しました。同じセッションでは、ニュージーランド・ワイカト大学の研究者による"フレンチポリネシアにおける環境対策とツーリズムの今後"、ウルグアイ東方共和国大学の研究者による"ウルグアイにおける持続可能かつ環境配慮型の農村観光の実践例"の発表が予定されていました。また発表後には、ケニアの研究者から発表資料のデータがほしいと声をかけられ、意見交換を行いました。
 研究内容を1枚のポスターとしてとりまとめ、ポスターをみながらその著者と意見交換を行うポスターセッションでもわたしたちは発表を行いました。ここでは、台湾大学の学生の発表数が最も多く、また彼らのポスターはとても念入りに作り込まれていました。
 「観光と資源管理」の関わりは、世界のいたるところで興味をもたれている"旬"なテーマであるということをあらためて実感しました。

■二つの基本コンセプト

 さて、題目のキャリング・キャパシティに関わる意見交換に焦点をあわせてみましょう。
 セッションの合間の雑談では、「多様な利用者ニーズに応じた、多様なレクリエーション体験の場の整備が必要」というコンセプトの重要性がことさらに強調されていました。何度も書いてきましたが、多少は不便であっても原生的な体験を望む人たちのために手つかずの場を残しておくこと、気軽に安全かつ快適にレクリエーションを楽しもうという人たちのためには施設類が充実した場の整備をすすめること、をバランスよく行うべきだという考えです。
 もうひとつは、観光利用によって何らかの影響を被る資源や場の状態を継続して観測していくことが重要だということです。少し理屈っぽくいうと、資源や場の状態を客観的に知るためには何らかの指標(ものさし)が必要で、継続的に指標値を観測し、指標がある一定の値を超えた場合には何らかの対応策をとらねばなりません。このとき、指標と訪問者数の関係性が明らかであれば、この指標に基づくキャリング・キャパシティが算出できます。この超えてはならない指標の水準は、関係する人たちが決めることなので、キャリング・キャパシティもまた関係者によって決められることになるのです。指標は一つである必要はありません。指標には、生態的なものだけでなく、利用者の混雑感といった社会的な側面、そして利用者を受け入れる地域の人たちの感情なども含めるとよいでしょう。観光客による消費が、地域経済に対して重要な役割を占めているようなところでは、観光消費額なども指標となりえます。
 どうやら、この二つの概念が、これからの観光地計画や誘客戦略作りにおける重要な視点になると思われます。
 発表あとの雑談時、わたしたちが今抱えているミッションはキャリング・キャパシティの算出なのだというと、「So difficult !」。算出とはいわずに、設定するといえばよかったのですね。これも難しいことなのですが。

■余談になりますが、

 会場となったウィーンのことを少し。北海道に気候が似ているといわれるウィーンでは、日差しは強いもののカラッとした天気が続きました。世界文化遺産に登録されている旧市街地は、それらしく立ち並ぶ歴史的建築物の谷間の屋外カフェーで、遠巻きに聴こえてくる路上演奏と、コーヒーやスィーツ、ビールなどを楽しむ観光客らしき人たちで賑わっていました。
 大会の主なプログラムは、近代的なオーストリアセンターで行われました。一方で、レセプションやポスターセッションは、重厚なウィーン市庁舎や、BOKUが会場となり、参加者は歴史の迫力にうなることに。圧巻は、大会最終日のパーティー。会場となったリヒテンシュタイン美術館では、庭園でのシャンパン談義、ルーベンスの作画などを嘆賞。そして通された会食用のホールの天井には一面のフレスコ画。パーティーの締めには、ワルツダンスの講習会までが用意されるというウィーンづくし。
 資源管理の枠組みには、資源の保護や保全だけでなく、資源がもつパワーを存分に発揮させるということも含めねばならぬことを、再確認。理屈を練り、感性を磨く、楽しい機会となりました。
 
 
 (さらに次回につづきます)


BOKUでのポスターセッション リヒテンシュタイン美術館でのパーティー図
BOKUでのポスターセッション リヒテンシュタイン美術館でのパーティー

 

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