「現代アート」を活用した観光地づくりとは [コラムvol.208]

2014.03.20

観光政策研究部 高﨑恵子
研究員コラム

■現代アートフェスティバルブーム継続中

 2000年代に入ってから日本国内で開催されるアートプロジェクトやアートフェスティバルが増加しています。近年では、毎年どこかで開催されるというアツイ状況が続いています。
 2013年には、「十和田奥入瀬芸術祭」(青森県)、「中之条ビエンナーレ2013」(群馬県)、「あいちトリエンナーレ2013」(愛知県)、「神戸ビエンナーレ2013」(兵庫県)、「瀬戸内国際芸術祭2013」(香川県・岡山県)などが開催されました。2014年は、「札幌国際芸術祭2014」(北海道)、「中房総国際芸術祭いちはらアート・ミックス」(千葉県)、「ヨコハマトリエンナーレ2014」(神奈川県)、「道後オンセンナート2014」(愛媛県)、「国東半島芸術祭」(大分県)など様々な地域で開催される予定です。

■現代アートを活用した取り組みの特徴とは

 各地で取り組まれているアートプロジェクト、アートフェスティバルの代表として、新潟県十日町市・津南町で取り組まれている「大地の芸術祭の里」があります。「大地の芸術祭の里」は、国内でもあまり知られていなかった農村地域である越後妻有の名前を世界中に広め、回を重ねるごとに集客数が増えている成功事例として広く知られており、この取り組みに刺激を受け芸術祭を始めたという地域もあります。

 今回は「大地の芸術祭の里」を主な事例として、近年の潮流である現代アートを活用した取り組みの特徴を整理したいと思います。

○現代アートファンをきっかけに観光客を呼び寄せる
 現代アートを中心としてアート市場は拡大を続けていると言われています。
 2012年に開催された「第5回大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ」(2012年7月29日~9月17日)の来場者数は48.8万人で、そのうちの67.7%が県外客※1 でした。、2012年十日町市の観光入込客延べ数は234万人※2 でした。十日町市のある中越地域の県外客比率は34.9%で、80.9万人が県外客と推計されます。簡単に推計すると県外から延べ観光入込客のうち、なんと約4割が「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ」で来訪したこととなります。
 取り組みを始めた当初は現代アートファンが来訪していたそうですが、回を重ねるごとに「大地の芸術祭の理念やコンセプトをよく知らない来訪者も多くなった」※1 という状況になっているようです。つまり、当初は現代アートファンという新規顧客が集まり、それが話題となることで現代アートのライトなファンも地域に集まるようになったのです。国内観光市場が縮小していくなか、地域にアート作品、アートフェスティバルなどの新たな資源をつくることで、アート市場というこれまで地域を来訪していなかった新規市場を捉え、それをきっかけにさらに観光客を呼び寄せるということになっています。

○現代アートで地域資源を「見える化」「自分ごと化」する
 私は、「現代アート」を活用した取り組みならではの魅力は大きく2つあると考えています。
「大地の芸術祭の里」の代表的な作品であり、私の大好きな作品の一つである「棚田」(イリヤ&エミリア・カバコフ)を例として考えていきたいと思います。この作品は、棚田に農作業をする人々の彫刻と詩を設置し、農作業の1年を表現しています。
 1つ目の魅力は、「現代アート」を媒介として地域資源を「見える化」していることです。アート作品が棚田に設置されていることで、観光客は棚田という存在に気づきやすくなります。さらに、彫刻の形や詩を見ることで、この地域に流れる時間や暮らし方を「見る」ことができるのです。
 2つ目の魅力は、「現代アート」を読み解いていくことで地域資源を「自分ごと化」していくことにあると考えます。アート作品を見ていくと、なぜこの場所に作品は設置されているのだろうか、この詩は何を意味しているのだろうか、なぜ彫刻は2色に塗り分けられているのだろうか、色の持つ意味は何なのだろうかなどと疑問が湧き、自分なりにアート作品の意味を解釈していきます。このようなプロセスにより、「現代アート」を媒介として見ていた棚田や稲作風景は、越後妻有の地域資源という意味を超え、見る人自身の主観を通して感じる特別な風景になっていきます。
 地域資源の場所や由来などをマップやガイドブックに落としていったり、ガイドが案内したりという手法でも地域資源を「見える化」させることは可能です。私は、それらの手法とアート作品を媒介として地域資源を見せる大きな違いは、アート作品を見ているようで実は地域資源を見ていたという「見える化」、地域資源がいつのまにか自分自身にとっての特別な価値を生んでいたという「自分ごと化」にあると考えています。

棚田

■取り組みの継続にむけて

 アートプロジェクトやフェスティバルを継続させていくためには、新作を発表し続け、来訪者を呼び続けることが必要です。各地で展開されるアートプロジェクトやフェスティバルが今後どこまで取り組みを継続していくことができるかは分かりません。まずは、これらのプロジェクトが長続きするために、地域ならではのオリジナリティを出していくことが求められます。そのためには、質の高い作品だけでなく、地域資源そのものの磨き上げや受入体制の整備なども必要になります。今年開催されるアートプロジェクトを来訪しながら、継続に向けた課題整理や方策検討について分析を進めていきたいと思います。

※1 大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2012総括報告書(2013年3月大地の芸術祭実行委員会)
※2 平成24年新潟県観光客入込客統計 (新潟県産業労働観光部観光局交流企画課)

 

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