文化財保護に観光客の力を借りよう [コラムvol.211]

2014.04.11

観光政策研究部  西川亮
col-210

■ はじめに

 少子高齢化が顕著になりつつある日本。地方都市は人口減少が進み、東京の一極集中が激しくなっています。地方の観光地でも担い手不足・後継者不足は喫緊の課題で、観光地として存続するためには、「観光客に将来的にも来てもらうこと」だけでなく「地域として観光客を受け入れる環境を維持すること」も大切だと言えます。
 ホスト側の高齢化や後継者不足は、当然のことながら観光業を支える全ての活動(宿泊施設等のサービス業や農林水産の一次産業、資源管理等)に影響を与えます。こうした産業従事者の高齢化にどう立ち向かうか、といった問題は非常に大きな課題ですが、今日は文化財の保護に関するお話をしてみたいと思います。

■ 文化財保護VS観光

 もともと文化財保護と観光は相反するもので、文化財や伝統文化の観光利用は地域文化や生活環境の破壊など、様々な問題を引き起こすものとして認識されることが多々ありました。すなわち、文化財保護と観光は対立関係にあったと言えるでしょう。そこで、各地域は、持続的な発展を目指すべく文化財保護と観光を共存する方法を模索するようになってきました。

■ 観光客の力を“借りる”文化財保護へ

 和歌山県では、新たな文化財保護と観光の関係を構築しようとする試みがあります。つまり、観光客を“借り”て文化財保護をしようという取り組みです。
 和歌山県には2004年に世界文化遺産に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産の1つである熊野古道があります。和歌山県内の熊野古道は市町村等の行政や地元住民が中心となって保全に取り組んできましたが、世界遺産登録を機に観光客が急増し、多くの人が歩いた結果、道の表土が削られ雨で流されやすくなるなどの影響が出るようになりました。加えて熊野古道を支える地域住民の高齢化も影響し、熊野古道の適切な保全が課題となりました。こうした状況をふまえ、和歌山県では熊野古道の保全に観光客など外部の力を借りることに目を向けるようになります。こうして始まったのが、2009年にスタートする「道普請プログラム」です。これは、熊野古道の保全に観光客などに関わってもらうことを目的とした取組みで、まさに発想の転換。観光客の力を借りることによって、熊野古道のPRと文化財の保全を同時に実現させる興味深い取組みといえます。
 熊野古道は文化財保護法上の「史跡」指定を受けており、改変等を行うためには文化庁の許可が必要です。そのため、道普請は古道の清掃や土かけなどが中心ではありますが、観光客にとっては、世界遺産の保全に自らが関わることができるのは非常に魅力的です。
 近年では、大手旅行会社が道普請を旅行に組み込んだツアーを販売するようになっており、中には毎年参加する方もいらっしゃるようです。
 熊野古道の保全に観光客の力を借りようとする取組は三重県にも波及しています。三重県内の熊野古道は、各峠に住民による峠保存会が設置され、住民自らが古道の保全に携わってきました。しかし、和歌山県と同様で、こちらも高齢化で保存会の活動を維持することが難しくなるなどの課題があります。そこで、今年度より三重県では熊野古道の補修等に携わってもらう「熊野古道サポーターズクラブ」を立ち上げるようです。

■ 真のファンを掴む大切さ

 本質的には熊野古道などの文化財を保全する担い手を維持するためには定住人口の増加が必要です。しかし今日、定住人口の拡大を見込むのは地方都市にとって非常にハードルが高いのが現状です。和歌山県の例は、定住して熊野古道の保全に関わるのは難しいけれど、熊野古道のために何かしたいという強い思いを持った“ファン“に響く取組みと言えるでしょう。
 ファンの獲得はその観光地が持続的・安定的に成長するために不可欠なことです。「その地域のことが好きなファン」を獲得することから、更にもう一歩進んだ、「その地域のために自らの時間を使いたいと思うファン」を獲得すること。これが実現できれば、観光を利用した文化財保護の新たな方法が確立できる可能性があることを和歌山県の例は教えてくれるのではないでしょうか。

図:文化財保護と観光の関係性イメージ
図:文化財保護と観光の関係性イメージ

 

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