「滞在地」におけるMICEの取り込み [コラムvol.366]

2018.03.26

観光政策研究部 主任研究員 守屋邦彦

「滞在地」となる必要性

 2017年の訪日外客数(インバウンド)は2,869万人(前年比19.3%増)、その後の18年1月、2月の数字もそれぞれ250.2万人(9.0%増)、250.9万人(23.3%増)と増加傾向を示しており、このままいけば2018年の3,000万人超えは確実である。このように海外からの来訪者の更なる増加が見込まれる状況においては、都市や観光地といった来訪者を迎えるデスティネーション(Destination)も、国際的な目線から見直した上で、様々な面でより一層成長していくことが求められるだろう。

 国際的な目線で見た際に日本のデスティネーションが取り組むべき点の一つとして、いかにして「滞在地」にするか、ということが挙げられる。もちろん、日本人の場合、国内旅行は短期間が主流であるため、そもそも1週間や10日間といった旅行の「滞在地」になることは難しい。しかし海外からの来訪者については旅行期間も長く、1ヵ所に比較的長く滞在する旅行であるケースも少なくないことから、海外からの来訪者にとっての「滞在地」となることは可能であろう。

滞在地に必要な要素であるMICE

 「滞在地」になるための要素は様々あると思うが、私は「MICEをはじめとするビジネス需要(ビジネスツーリズム)の取り込み」が大きな要素の一つだと考えている。

 昨年、南仏のニースやカンヌ、またモナコといったいわゆる“ヨーロッパのリゾート地”を訪問する機会があった。無論、青い空や海、活気がありながらも上品な雰囲気のする町並み、海を眺めながら楽しめるレストラン等々が存在するが、中心部から離れた郊外や港湾部といった離れた場所ではなく、連続する町の一角にしっかりと国際会議場が立地していた。また、観光局等の観光推進組織においても、ビジネスツーリズムを重要なものとして捉えていた。

写真1 ニースの海岸

写真2 マルシェ(朝市)

写真3 アクロポリス国際会議場正面

写真4 アクロポリス国際会議場入口

 実際、世界の国際会議の開催状況を収集・発信している組織であるICCA(International Congress and Convention Association)が発表した2016年の国際会議開催ランキングをみると、ニースの国際会議開催件数は24件であり、これは日本の福岡、神戸、横浜といった都市よりも多い。ニースの人口は約35万人(広域でみても100万人程度)、一方で福岡や神戸は約150万人、横浜は約370万人であることを考えると、ニースが国際会議の開催需要をうまく取り込んでいる事がわかる。

表1 2016年の国際会議開催件数(抜粋)

出典)ICCA Statistics Report(2016)より筆者作成

 また、カンヌやモナコにおいては、ニース以上に中心部と一体的な場所に国際会議場が立地しており、観光客と会議参加者の双方によってまちの賑わいが形成されていた。特にカンヌは当地で開催される映画祭が有名であり(私が訪問した際も映画・ドラマ関係の商談会等が開催されていた)、MICEがその地のイメージ、ブランド形成に結びついている。

写真5 カンヌ国際会議場

写真6 モナコ国際会議場

施設だけでなく「空間」としての快適さを

 MICEは何日間かに渡って開催されるため、当然参加者も開催地に「滞在」することになる。また、MICEは平日に開催される事が多いため、平日はMICE参加者で、週末はレジャー目的の観光客を取り込むことによって、デスティネーションからみれば需要を平準化することが可能となる。日本の、特に観光地においては、観光目的のツーリズムとビジネスツーリズムを切り離して考えてしまう事が多いが、世界的にも有名であるリゾート地においてもこうした動きがあることは押さえておくべき点と思う。

 また、ビジネスツーリズムを取り込むためには、もちろん会議場やホテルといったMICEに対応できる施設が必要となる。日本の会議場等のMICE施設の多くは80年代や90年代に計画・建設されたものが多く、そろそろ建設から20年、30年が経過し更新の時期を迎えている。近年、日本の各地でMICE施設の新設や増設、改修といった動きが出てきてはいるが、MICE施設単体での整備に留まっている面もあるように感じている。

 南仏のニースやカンヌ、またモナコを訪れて感じた事は、こうしたMICE施設がまちの一要素となり、地元の方々も利用する飲食店などとも一体となって、居心地の良い快適な「空間」を形成しているということであった。需要を平準化するといったソフト面での取り組みと、快適な空間を形成するといったハード面での取り組みが一体となって進んでいくことで、今後の日本のデスティネーションの「滞在化」も進んでいくものと感じている。

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