いざという時、観光地を支えるもの [コラムvol.370]

2018.05.21

観光政策研究部 主任研究員 岩崎比奈子

 日本列島は世界的に地殻変動や造山活動が盛んな地域といわれており、記憶に新しいところでは熊本地震(2016年)や東日本大震災(2011年)といった大きな地震が一定の周期で発生、また近年、全国各地で火山の噴火が活発に起こっており、人々の生活・財産は、常に自然災害と隣り合わせということができます。

 その一方でこうした我が国の自然は、独特の自然景観や登山を楽しめる山々、多様な泉質を持つ温泉地と湯治文化の創出といった観光面の多くの恩恵も私たちに与えてくれます。

 本コラムでは、今年の1月に発生した草津白根山の噴火を事例としながら、観光地にとって予知が難しい自然災害への備えについて考えました。

草津白根山の噴火

 2018年1月23日の朝、前触れもなく草津白根山の一つ、本白根山(もとしらねさん)が噴火しました。私は偶然その時、観光関連の会議に出席するため草津町にいましたが、地震などを感じることはなく、町民・観光客ともにいつもと変わりなく、終日賑やかな温泉地でした。

 噴火発生後、地元の草津町は、雪解けを待って火口付近に観測機器を設置するなど監視体制の強化を図ったうえで、冬期は閉鎖されていた志賀草津道路を例年どおり開通させるなど、町の基幹産業である観光への打撃を最小限におさえるべく取り組んできました。5月の大型連休直前に、今度は草津白根山(湯釜付近)で火山性地震が増加するなどしたため噴火警戒レベルが1段階引き上げられ、どうなることかと心配しましたが、幸い、その後現在に至るまで山は落ち着いています。

 このように観光地にとって自然災害は、地域側が予防的対策を行ってすべてを事前に回避することが難しく、災害が起こって以降の対処の仕方が、その後の事態の善し悪しにつながるといえるでしょう。

草津白根山噴火の観光への影響

 今回の噴火の観光への影響は、噴火直後(1月26日17時まで)に発生した宿泊のキャンセル数は5,499件、延べ20,275人、被害額は2億8,000万円程度と試算されました(草津温泉旅館協同組合調べ)。噴火後の宿泊への影響としては、スキー客や団体客を主とする施設において宿泊客減少の影響が出ています。外国人宿泊客については、噴火直後は多くのキャンセルが出ましたが、その後、比較的早く予約が戻りました。そして、火口近くの草津温泉スキー場の利用者数は例年の約6~7割減となりました。立入規制区域内のゲレンデ及びロープウェイは廃止を決定、夏期のコマクサ観賞も難しいと懸念されています。

行政・観光業界の動き

 このような自然災害によって発生する悪影響を最小限にするために、完全な予防策は難しいものの、観光地として可能な限り事前の対策を行っておきたいものです。草津町においては、これまでスキー場従業員を対象に、白根山の噴火を想定した訓練を繰り返し行ってきたことが今回活かされ、ロープウェイ山頂駅付近にいたスキー客を迅速に麓へ降ろすことができたとのことでした。

 また、噴火発生時の対外的な対応については、官民で明確な役割分担を行い、迅速に対応しました。具体的には、草津町は情報発信の窓口を草津町役場総務課に一本化し、そこから噴火情報や観光業界に対する支援策等について、専門家の見解・データに基づいた正確な情報を交えて発信することに注力しました。町としては、まずは住民と観光客の安全確保、正確な情報発信を優先し、そのうえで基幹産業である観光の復興を図っていくとしています。 観光業界は旅館協同組合と観光協会が中心となり、草津温泉の強みである、行政を含めた団体間の連携の良さを発揮して、被害額の把握や今後の誘客策について検討、町内外で「草津が安全で楽しい温泉地である」ことをPRするイベントなどを行いました。

本当に大変な時に支えてくれる「常連のお客様」

 今回、噴火直後から懸念されたのが「風評被害」の発生でした。結果として今回は、一時的には観光客数が減少し、その影響の大小は各宿泊施設のターゲット顧客によって異なるものの、風評被害は想定よりも軽微に短期間で収束したように感じられているようです。

 その要因としては、行政・観光業界の素早い対応、嘘偽りなく情報を出すという誠実な姿勢、切れ目なく続くイベントの開催などいくつも挙げられると思いますが、私が特に感じ入ったのが、「草津温泉をよく知る常連客が『こういう有事の時こそ!』と支援する気持ちで訪れてくれた例も多かった」と聞いたことでした。もちろんまずは地域側の頑張る姿があって、それに応えたいという消費者の気持ちの表れだと思いますが、草津温泉ではリピーターの存在が風評被害の広がりを緩和した面があるようです。

 今回、草津の事例を身近に見聞きして、予知が難しく予防的対策に限界がある自然災害に対しては、常日頃からお客様に愛される観光地づくりに取り組むということが、いざ本当に大変な事態に陥った時に、その観光地を支える力の一つになるのだと感じたのでした。

 ※当財団のエントランスにあるギャラリーにて、「自然災害と観光復興」というテーマで企画展を開催中です(2018年4月~6月)。お越しの際は、ぜひお立ち寄り下さい。
https://www.jtb.or.jp/publication-symposium/gallery

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