自家用車での移動を考える [コラムvol.34]

2008.06.06

研究調査部 堀木美告

 自家用車で旅行に出かける人は多いと思います。しかし環境問題や通信・情報デバイスの進化など、クルマを取り巻く状況は大きく変わりつつあります。これらの変化が「自家用車での移動」にどう影響しているか、考えてみたいと思います。

■観光で利用した交通機関としては「自家用車」が第1位

「観光の実態と志向」((社)日本観光協会)によると、平成16年度の宿泊観光で利用した交通機関としてもっとも多かったのは「自家用車」で、53.0%でした(複数回答)。主要な交通機関1つに限定して尋ねた結果でも49.9%で、宿泊観光のおよそ半分の場面において自家用車が主たる移動手段として利用されていることが分かります。同調査の結果を遡ってみると、昭和39年では「自家用車」の利用率はわずか3.0%(「鉄道」が72.8%、「バス」が44.0%)です。しかしその後急激なモータリゼーションの進展と軌を一にして自家用車の利用率は伸び続け、昭和61年には鉄道の利用率をはじめて上回っています。以降、利用率増加のペースは緩やかなものになりますが、平成8年には5割台に乗り、現在に至っています。

■観光に適した自家用車の特性

 そもそも観光と移動とは切り離せるものではありませんが、特に自動車は見る・遊ぶ・休むという観光の基本行動に対応できる道具であることが指摘されています*1。さらに、?思うところへ行くことのできる「自在性」、?家から目的地まで直接行くことのできる「ドアtoドア性」、?自分(たち)だけの快適空間を確保できる「私的空間性」といった特性を兼ね備えていて、快適に、手軽に、そして思いのままに観光を楽しむことを可能にする道具だと考えられます*2
 このように、自家用車は基本的に観光という行動形態にフィットする移動手段なのだと言えます。しかし一方で、クルマという道具の生活の中での位置づけが大きく変化しつつあり、観光の移動手段として捉えたときにもこの変化が影響をおよぼすものと考えています。

■クルマの趣味性と実用性

 クルマは実用的な移動のための道具であると同時に、趣味的な側面も多分に持ち合わせています。しかし、近年その趣味的な側面が相対的に薄まりつつあるように感じます。一般的なファミリーカーとして選択される車種として、セダンやステーションワゴンに代わり、いわゆる「ミニバン」タイプが広く普及したことがそのことを端的に表しているように思います(あくまでも、相対的にみて趣味的な要素が薄まったと言うことですが)。セダン等に比べて車内空間にゆとりがあり、多人数でも使い勝手がよいミニバンの車内では、狭い車内では制限も多かった食事や仮眠などの行動も完結するようになり、上で触れた「私的空間性」がますます高まっていると思われます。このことは、同乗者同士のコミュニケーションを高める方向に作用し、逆に外部空間との関係性は希薄になるように思います。その結果として、「ドライブ旅行」というカテゴリーのレクリエーション活動の内実も、クルマの運転そのものを楽しんだり、次々に眼前に展開する風景を楽しんだりすることよりも、気の置けない仲間同士クルマで移動しながら楽しい時間を過ごすことにより重点が移っているように思われます。

■情報端末の多機能化と普及の影響

 クルマの私的空間としての充実に大きく貢献したのがカーナビではないでしょうか。当初ルート案内というシンプルな機能から始まったカーナビですが、多機能化が進み、複合的な情報端末あるいは映像や音響まで統合したエンターテインメント端末といって良い状況です。カーナビのモニターに視線を落とす時間が増えれば、それだけ車外の空間に目を向ける時間が減るわけですから、これも運転者や同乗者が車外の空間との積極的な関わり合いを減らしている可能性があります。

■地球環境・地域環境に対する意識変化の影響

 もう一点、環境に対する意識の変化があげられます。先日の当コラム欄(地球温暖化の観光産業への影響)にもあるとおり、観光産業界としても地球温暖化問題には敏感になっていますし、一般市民の環境意識も高まっており、トヨタの「プリウス」(初代は1997年発売)の累計販売台数が2008年4月末までに100万台を突破したそうです。燃費のよい車種を選択する、アイドリングストップを心がける、一人での移動を減らす等々の取り組みをされている方もいらっしゃると思いますが、これらの意識の変化が中長期的に見て、「ドライブ旅行」あるいは自家用車での移動に対してどう影響してくるか、気になるところです。

■クルマ離れ?

 近年では免許取得が可能となる年代の若者の間で「クルマ」に対する興味が薄れる傾向があるように感じます。筆者の周りでも、若い世代(20代前半)においてかつてに比べてクルマに対する関心度が低くなっているようですし、免許取得に関して特段の必要性を感じない層も少しずつ増えているようです。
 原油価格の高騰によりガソリン価格が今後も上昇すると見込まれる中で、「クルマ離れ」が進んでいるとも言います。例えば今年の夏休みの帰省旅行などにどのような影響が出るか、引き続きウォッチする必要がありそうです。


*1 永井護「車社会と観光行動」月刊観光80年9月号(1980年)
*2 下村彰男「観光地空間との関わりから見た交通機関の史的展開」造園雑誌51(5)(1988年)

【クルマで出かける観光の一コマ】
ドライブが楽しくなる岬へ続くみち ゲートで入園料を支払って国立公園へ 観光地にふさわしい心地よい駐車スペース リゾートでは自動車と自転車が共存
写真1  ドライブが楽しくなる岬へ続くみち(網走市・能取岬)

写真2  ゲートで入園料を支払って国立公園へ(アメリカ・ヨセミテ国立公園)

写真3  観光地にふさわしい心地よい駐車スペース(フランス・ブレス地方)

写真4  リゾートでは自動車と自転車が共存(オーストラリア・ゴールドコースト)

 

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