自動運転車が変える観光の未来 [コラムvol.317]

2016.09.12

観光経済研究部長 主席研究員 塩谷英生

自動運転車への期待

 2013年の秋に行った自主調査で「これからの国内宿泊旅行市場が拡大していくために 必要性が高いと思うものを選んでください」という質問をした(対象は全国の旅行好きで発信力のあるオピニオンリーダー層)。

 結果は、「高速道路割引率の拡大」54.2%、「休暇制度の充実」47.7%、「地方ローカル線の維持と魅力向上」46.2%、「LCC路線の充実」45.0%の順で回答が多く、「将来的な自動運転車(ロボットカー)の普及」は12.5%に留まった。

 やや余談になるが、アンケート調査では、回答者の予備知識が無かったり、想像することができないことについては、回答率が低くなりやすい。政策評価に用いられるCVM(Contingent valuation methodology)と言われる調査手法では、旅行者に「こういう施策を実施するとしたらいくら負担しても良いですか?」といった質問をするが、具体的な施策やその効果についてのイメージを正確に伝えることがなかなか難しい。

 さて、安倍首相が2020年までに自動運転車の実用化を謳ったこともあって、自動運転車の開発状況がニュース等に露出する頻度も高まっている。同じ質問を今同じ層にすれば回答率も幾分上昇するものと思われる。

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完全自動運転車が普及すると?

 一言で自動運転と言っても、そのレベルには、レベル1からレベル4(完全自動運転)まであり、国内で市販されているクルマに搭載されている技術は概ねレベル1である(海外の場合でもレベル2までとされる)。8月に発売された日産「セレナ」はレベル2に近いが、現段階では高速道路での単一車線での自動走行までで、車線変更までは行えない仕様になっている。

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 レベル4の完全自動運転車が十分に普及した社会になった場合、旅行市場へのインパクトは極めて大きいものと予想される。 

 旅行者は運転から解放され、車窓からの景色を楽しむも良し、家族とのコミュニケーションを取るも良し、仕事をしても良いし、泥酔しない程度にお酒を飲むこともできるだろう。朝起きたら別荘の玄関に着いているといった「どこでもドア」のような使い方も考えられる。週末の旅行では、金曜日の夜に出発して土曜日の朝から日曜日の夕方まで観光地にゆっくり滞在しても、帰りの渋滞を気にする必要もない。

 クルマのレイアウトの自由度も増すので、移動オフィスの機能を持った車や、車椅子のまま利用可能な自動運転車、インバウンド客向けのソフトウェアが充実した車など様々な客層に対応できる。

 これまでと全く異なる自由度の高いプライベートな移動空間が出現することで、旅行のスタイルは大きく替わり、結果として旅行需要の拡大に大きく貢献することになるだろう。特に、観光旅行での自動車利用率が低い高齢者や若年層での底上げ効果が大きいと推察される。 

 若年層ではレンタカーあるいはカーシェアリングの利用が中心となるだろう。レンタカーの営業所やカーシェアリングの駐車場まで出向かなくても良く、玄関前に配車されるので自動車を所有するのに近い感覚で利用できる。

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 観光地も大きく変わる。観光地の中に駐車場がある必要は無く、バレーパーキング(Valet Parking※1)を無人でやってくれる。車寄せやロータリーが整備されて歩行者空間は広がり、交通渋滞、交通事故、騒音も縮減する。 

 駐車場や渋滞がボトルネックとなっていた行祭事の受入許容量も拡大する。混雑時には車寄せの利用時間割り当て(予約)がなされるだろう。人気の飲食店も空いている時間を予約して注文も同時にすれば利用者の待ち時間は減り、お店の生産性も向上する。

 観光コースのスタート地点とゴール地点が違っても良い。例えば、登山口で降ろしてもらって下山口に迎えに来てもらうこともできる。自転車やカヌーの利用も便利になる 

 「二次交通」と呼ばれる観光地内の移動手段もロボット化される。 

 空港や駅構内にはレンタカーが自動で配車され、遠くの営業所まで送迎してもらう必要はない。タクシーは早朝や深夜でも動いているし、料金も昼とあまり変わらない。 

 宿泊施設の送迎サービスも自動化される。駅に着いたら、重い荷物は自動集配でホテルまで運んでもらうこともできるだろう。

自動運転車普及への課題

 レベル4の実用化(市場化)は2025年以降と想定されており、さらにその普及には買い替え周期などを考えるとかなりの時間がかかる。また、米国で5月に起きたテスラ社の事故は、運輸当局に改めてSafety-Firstへの回帰を意識させた。特に我が国では、安全性を確認しながら、レベル4に近づいていく流れになるだろう。

 但し、レベル3とレベル4の壁は高く、これを越えるには自動運転に対する社会的許容度が高まり、それを踏まえて法制面が変わっていく必要がある。しかし、紆余曲折はあっても、旅行市場における自動運転車の導入は着実に進んでいくだろう。

 その理由の一つは、既に述べたような形で旅行の快適性や効率性が高まり、新たな旅行需要が生まれるためである。

 もう一つの理由は、中長期的な課題である人手不足への対応と生産性の向上である。 地域、特に過疎地の交通産業において、バスやタクシーの運転手やレンタカー店の人手不足は顕著である。宿泊施設も人手不足であり、送迎サービスをするのも容易では無くなってくる。観光以外にも、例えばトラック運転手の人手不足やトラクターなどの農耕機械の運転も含めて、地域全体での自動運転の導入が進んでいくだろう。

 公共交通への自動運転技術の活用については、フィジビリティの点でも克服すべき課題が山積している。地域の交通需要・産業需要と観光需要を複合的に取り込んでいくこと、バス等のメンテナンスコストを抑制することが重要となるものと思われる。

 観光経済研究部では、自動運転車の旅行市場へのインパクトを把握する目的から「自動運転車の観光振興への利活用に関する研究」をこの夏スタートさせた。地域の社会実験の視察に加え、今冬には自動運転車に関するニーズについて市場調査を行う予定で、その結果については当財団のHPでも適宜発信していく予定である。

 

※1 係の人に車の鍵を預けて代わりに駐車してもらうサービス

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