Duty Freeからみた国際競争力 [コラムvol.186]

 今年に入ってインバウンド政策についての自主研究をスタートした。
 先ずは、海外諸国のインバウンド政策を中期計画を中心にレビューし、政策の類型化から着手したところである。その作業と同時並行で、海外のインバウンド誘致に関わる施策の中から、初年度は免税に関する諸制度を取り上げて比較分析を進めているところだ。
 一口に免税と言っても、関税の免税(Duty Freeと言うことが多い)、消費税・物品税の免税(Tax Freeと言う場合が多い)の違いがある。
 秋葉原のお店でよくDuty Freeと看板に書きこんでいるお店を見かけるが、実際にはTax Freeの免税店である。しかし、広義にはDutyは税全般を含む言葉なので、消費税免税の店が使っても間違いではない、と言えなくもない。Custom Duty Freeと言えば間違い無いのだが、Duty Freeと略されてしまうとややこしくなる。こうした錯誤を無くすためには、海外で行われているようなTax Free免税店の統一マーク整備が必要ではないかと思う。
 さて、今回はDuty Freeショッピングについて少し書かせていただきたい。

■国際空港でのDuty Freeショッピング

 Duty Free ショッピングというと、何と言っても国際空港の保税エリア(CIQを通った後)での免税店での買い物が中心である。お店や商品にもよるが、このエリアでは一般に消費税も免税扱い(Tax Free)になるので、欲しいアイテムがそこにあれば通常は最安値で買える公算が高い。但し、国産品については関税を考慮する必要はないので免税になっても消費税免税のみである。
 もっとも、日本のブランドであってもユニクロのように中国から製品を逆輸入している場合は関税がかかっている。日本の場合、関税率は、衣料品では10%前後、ハンドバッグで8~16%、アクセサリーが約5%、履き物30%または4,300円などとなっている。時計やパソコン、電気機器、楽器、化粧品などは無税である。
 日本に比べると韓国や中国などの方が関税率は全般に高い傾向があるため、海外でのショッピングは日本人以上に魅力的である。韓国等では、出国・帰国時に韓国内の国際空港で免税ショッピングを楽しむ人が多く、これも海外旅行の動機の一つになっている。
 多くの国が、空港免税店の売上高を通じて自国への経済効果を獲得しようと、華やかな免税店街を整備し、幅広い品揃えを推進している。2010年のデータでは、世界で最も免税店の売上高が多い国際空港は①ドバイであり、以下、②仁川、③ヒースロー、④チャンギ(以上は10億ドル以上の売上高がある)、⑤香港、⑥シャルルドゴール、⑦フランクルルト、⑧タリンクシリヤライン(クルーズ船)、⑨スワンナプール(バンコク)、⑩スキポール(アムステルダム)の順である(資料:Generation Research )。
 いわゆる世界的なハブ空港が上位に名を連ねており、これに空港施設の質や商品の品揃えなどの評価が加味されたランキングのように思われる。国際航空戦略の勝者の国により多くの消費額が落ちるという構図にも見えるが、国際的な免税事業者の進出もあり、単純にその国に経済効果が発生するというわけではないようである。
 ところで、研究の一環として、海外の幾つかの空港で、定番ブランドのアイテムを予め十点ほど設定して、その価格を試みに調べてみることにした。しかし、これがなかなか難しい。設定したブランドショップが無かったりアイテムが無い空港もあれば、設定したサイズの商品が無い空港もある。万年筆なのかボールペンなのか一見してわからないとか、凝ったボトルデザインのために相対的に高くなっている洋酒など、簡単に比較させてはくれない。まだとりまとめ中だが、本来、関税が無税なのだから、国毎の価格差は小さいはずなのに、商品によっては結構な価格差が認められるものがあった。仕入れ時の為替レートと調査時点のレートの差異だけでは説明がつかない要素、例えば流通コストや企業のブランド戦略等が働いているように思われる。こうした価格差や品揃えがどの程度旅行先の競争力に影響しているかについては、発地での旅行者調査が必要となるだろう。

■市中でのDuty Freeショッピング

 韓国などでは市中の免税店においても、空港同様に関税と消費税が無税となるショッピングが可能であり、購入した商品を空港で引き取るサービスも行われている。こうした方式は、日本人に馴染みの深い米国のDFSギャラリアが先駆けとなっている。
 また、特徴的な政策として、我が国の沖縄で生まれ、韓国の済州島、中国の海南島へも導入された方式で、特定の地域に限定して国内旅行客向けに関税を免除する制度がある。
 なお、空港での免税店強化の斜め上を行く政策が、そもそも旅行者が買うようなブランド品全般に関税をかけないという政策である。香港などはそもそも関税も消費税もかからないため、国まるごと保税エリアという一種のタックスヘブンの形となっている。マレーシアも、2010年からインバウンド振興のためにブランド品や宝飾品、玩具の関税を撤廃している。
 市中での消費税免税制度については、ここでは詳しく述べないが、これも諸外国に様々な制度がある。日本の場合、諸外国に比べて免税品目が限られているといった課題がある。消費税率が現行の5%から、予定通りに8%、10%へと引き上げられていけば、訪日旅行のショッピングの競争力低下は避けられない。消費税免税制度についても、競争力強化に向けた見直しが必要となっている。