旅行収支にみる産業としての教育 [コラムvol.297]

2016.04.04

観光経済研究部長 塩谷英生

3.3兆円に上る米国の留学生消費額

 米国におけるインバウンド消費額は2014年で1,772億ドル、同年の為替レートで計算すると約19兆円に上り、これは世界最大である(国際収支統計の旅行収支受取額)。
 さらにその内訳をみると、外国人留学生の消費額(区分名:Education related)が3.3兆円(旅行収支受取額の17.4%)に上ることに驚かされる。これに留学生の親戚知人が訪れることによる消費額までカウントすれば、さらに大きな規模となるだろう。

 2015年の我が国ではインバウンド消費の増加が話題となったが、その総消費額は3.5兆円であり、2014年の米国旅行収支の一カテゴリーである「教育」と同水準というのが現状となっている。
 米国の留学生消費の65%はアジア人が占めており、中国が31.8%で最大の顧客となっている。これに、インド11.8%、韓国7.6%、台湾2.3%、日本2.0%と続く。他は、欧州10.5%、中東8.9%(うちサウジアラビア5.7%)、中南米7.8%等である。

                 図1 米国の留学生消費の国・地域別構成比
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 一方、米国人の国外での留学生消費は0.7兆円で、全体としては2.5兆円の黒字(輸出超過)である。輸入が超過している地域は欧州だけであり、特に対英国が約1千億円の輸入超過となっている。なお、対日本では509億円の黒字である。

 世界の留学生の消費額を一覧比較できる統計は無いが、留学生数に関する統計は幾つかある。その1つである”Education at a Glance 2015” OECDでみると、2013年の国別の留学生数分布は、米国が19%でトップ、以下英国が10%、オーストラリアが6%で、ここまでは英語圏である。以下、フランス6%、ドイツ5%と続き、我が国はロシア、カナダと並んで3%となっている。

 英国の2014年の留学生消費(区分名:Education)は69.2億ポンド(約1.2兆円。旅行収支受取額の24.5%。国際収支統計より)で、輸入は僅か2.4億ポンドに過ぎない。英国人全体の旅行収支は大幅な赤字であることは良く知られているが、「教育」はそのバランスを改善する役割を果たしている。

 留学生数第3位、新進気鋭のオーストラリアの留学生消費(区分名:Education)は87.3億豪ドルである(約0.6兆円。旅行消費額の21.6%。”INTERNATIONALVISITOR SURVEY”TRAより)。なお、2015年は豪ドル換算で30%も伸びている。伸びの中心は中国人である。

 なお、我が国の留学生消費(教育の輸出)は、2014年で2,093億円(旅行収支受取額の10.7%)、2015年が2,172億円(同7.0%)である。輸入が2014年の2,394億円から2015年の1,882億円へと大きく減少したことから、2015年の収支は黒字に転じている。リーマンショックの影響から学費が上昇するといった趨勢の下で、急速に円安が進んだことが少なからず影響していると思われる。

実を取る教育産業へ

 以上のように関連統計を俯瞰してみると、世界共通語としての英語を背景にして、米、英、豪、カナダ等が、アジアや中東をマーケットとする教育産業の輸出を年々強化してきたことが窺える。 ジャーナル、教科書、国際会議などの標準語が英語であるから、教育や研究の国際的な枠組みも英語圏の国がリードするのが自然な流れである。教育システムの根幹である教科書の輸出、学会・ジャーナルや学校のアジアでの展開、著名教員の派遣など、教育産業の輸出は留学生消費に留まらず、英語圏主導の大学ランキングなどを巧妙に絡めながら押し進められてきた。

 一方で我が国では、海外留学生に無償の奨学金を提供するなどしており、そもそも外貨を稼ぐ輸出産業として教育を捉えていないように見える。それが一概に悪いということでは無く、純粋に産業として育成するにも、言語の壁もあり補助金に見合うような経済効果を挙げることは難しいであろう。

 そうであれば、留学生を厳選して奨学金等の「費用」を縮小しつつ、産業や行政の期待に応える研究の推進や、人材の育成といった「便益」をより重視した“実を取る”教育産業に転換すべきかと思われる。例えば、大学教員の評価制度は論文数が最重視されるが、これは米国型の評価軸である。我が国においては、政策への貢献や人材育成といった要素により傾斜した評価制度を再考すべきではないだろうか。

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