多文化に触れ、グローバルを養う「旅の力」 [コラムvol.179]

2012.11.09

観光文化事業部 岡田美奈子
研究員コラム

●旅を通して違いに気づき、自分を知る ~多様性に触れる旅を通して

コアラ飼育員  ケアンズ・ワイルドライフ
 ・ドームのコアラ飼育員
 今夏は中学生の娘達とケアンズへ旅行。キュランダでアボリジニ文化の神秘を体感、グリーン島では迫力満点のクジラに遭遇、可愛さのあまりコアラ飼育員を目指す宣言まで!数々の出会いや体験は新たな発見や希望をもたらしました。ハイライトは現地日本人中学生 との交流。今回の体験を機に考えたのは「旅する力」です。

●全然違う!オーストラリアの中学生活 ~ファッションショーやトライアスロンも教育

 初対面のせいか最初は黙々と食事をする3人でしたが、次女が提供した話題をきっかけに驚きや賑やかな笑い声。その後は教科書やアルバムを開き話が尽きません。「教科書は英語で書かれているけど内容は同じ。でも授業は応用ばかりなんだって!」「音楽の授業で はバイオリンを選択していて、放課後もレッスンがあるらしい。ダンスやピアノも習っていて友達とは遊べないみたい」「留学生にはバディがついてお世話するの。日本人留学生も増えていて、日本の話を聞けるのが楽しいって言っていた」と後刻の報告。
アーミーダック乗り場 欧米・アジアなど多言語の案内パンフレットが並ぶ
キュランダのアーミーダック乗り場
 盛り上がった話題は学校行事の数々です。まず、アパレル数社の協力を得て開催するファッションショー。好きな洋服を選び、企画、構成、出演まで全て生徒が行います。恥ずかし気にウオーキング練習する生徒達も意識が高まり、どう観客を楽しませ、服をステキに見せ るか議論が白熱。撮影ビデオを見ると、親や友達に手を振りながらランウエイを颯爽と歩き、自信に満ち溢れた笑顔で観客を魅了しています。そして3種目制覇のトライアスロン。過酷な道のりを自分と対話し、友達から刺激を受け、限界の一歩先に到達です。夏は3週 間のサバイバルキャンプ。詳細予定は事前に知らされず、緊急時以外は親とも連絡がとれません。食料は生徒が探して料理し、見つけられなければ食べ物はないのです。
 これらは教育の一環、日本の中学校行事とは少し異なる形で、個人の力、チームの力を高め、強い精神力を鍛錬していきます。娘達は、「勉強大変だけど楽しそう。ファッションショーやりたい!」「2週間位ならホームステイしたいな。バディもいるし大丈夫」と、留学には目 も向けなかった意識に変化。異文化に関心を高め、行動への兆しすらも感じました。手紙などでのやりとりは続いており、ケアンズに娘達の海外拠点ができたのです。

●増える短期留学、ホームステイ ~オーストラリアとマレーシアが人気

 ケアンズ観光局によると、日本人を含めオーストラリアへの留学やホームステイは増加傾向で、震災直後も日本からの数は減少しませんでした。高等学校主催の日本の海外教育旅行について旅行推移を見てみると、参加生徒数は94年より増加、00年をピークに減少 傾向となり、04年から緩やかな増加に転じました(文部科学省および公益財団法人全国修学旅行研究協会)。09年は新型インフルエンザなどの影響で減少したものの10年以降は再び回復基調です。10年時点で、修学旅行先トップ3はオーストラリア、韓国、マレ ーシアでした。特に、ニュージーランド、マレーシアへの旅行が伸びています。そして、研修旅行先では、オーストラリア、アメリカ本土、イギリスがトップ3でした。ここでも、マレーシアの伸びは顕著で、ハワイも伸びています。このことから、海外教育旅行先として、オーストラリアの 人気は高く、マレーシアへの注目度が上昇していることがわかります(グラフ参照)。
 オーストラリアとマレーシアが好まれるのはなぜでしょう?豊かな自然、政情も比較的安定し安全な環境、英語での授業などが考えられます。そして何よりも、多様性を尊重するその社会背景にあるのではないでしょうか。

<グラフ1-1:全国公私立高等学校の海外修学旅行実施状況>
                 
1-1 高校生の海外修学旅行
  行先別参加者数推移 (人)
図1-1
1-2 高校生の海外修学旅行
  行先別参加者数 伸び率(%)
図1-2

<グラフ2-1:全国公私立高等学校の海外研修旅行実施状況>
                  
2-1 高校生の海外研修旅行
  行先別参加者数 推移 (人)
図2-1
2-2 高校生の海外研修旅行
  行先別参加者数 伸び率(%)
図2-2

●語学習得だけが目的じゃない ~異文化が混在する感覚を求めて

 お会いした中学生のご両親によると、オーストラリアの学校教育は、アカデミックな知識だけでなく、芸術やスポーツなどを通し豊かな人間性を育み、将来、国際的リーダーとなる人材育成を目指し、世界的な評価も高いとのことです。授業はディスカッションが中心で、異文 化に対する寛容性やその価値を尊重することも指導されているようです。みなが多様性に貢献しつつ、コミュニケーション力、問題解決能力、創造性、自主性、思考力、自他や社会を敬う心などを磨くしくみです。音楽の授業は、管弦楽器や木管、打楽器、声楽の中から 選択、楽器や個人レッスンも学校が提供し、オーケストラやバンドなどで構成される音楽発表会は全員参加。グループの一員として責任感や協調性を高め、演奏後の達成感や自信がさらに高い目標へと導くのです。社会ニーズに即した経営や技術分野などの授業では、 実践スキルを身につけます。さらに、在校生が留学生をサポートする「バディ制度」。異文化に寄り添い、思いやる気持ちを高める優れた方法だと感心しました。また、政府としても、留学生保護の法律を制定し、留学生受入教育機関には政府登録(現在 1200 以上) を義務付け、安心して学ぶ環境が整備されていることも人気の理由でしょう。
St Monica`s College ケアンズ中心地にあるSt Monica`s College:
多様な文化や価値観に触れられる教育環境
 一方、マレーシアは、物価が安く温暖な気候で生活しやすいこと、英国の影響を受けた高いレベルの教育、対日感情もよく、子育てしすい環境などで支持されていますが、何より、異文化が混在する社会に関心が高まっています。マレーシア政府観光局では教育旅行の 推進に力を入れており、「ルックマレーシアプログラム2012」では大学生16名を3週間現地に派遣。語学研修、企業訪問、ホームステイなどを通して異文化に触れ、自ら「グローバル」「社会に求められる人材」を考える機会として注目されています。研修報告会で驚いたの は、大学生達のみなぎるエネルギーと目の輝きです。数カ国の留学生から構成されるクラスで授業中発言できず「日本人はいるのか」と言われ続けた体育会の学生は、数日後、ようやく「日本人はここにいる」と存在をまずアピール、その後は議論にも積極的に参加できたと のことでした。彼は異文化の中で自分を知り、変わったのです。「必ず世界を舞台にビジネスで活躍する」という彼の言葉は印象的でした。研修生全体からの「学び、考え、動こう」メッセージから、彼らが日本でも周囲を刺激し、グローバルを促していくものと期待がもてます( 同観光局のサイトで研修報告公開中)。
University of Nottingham University of Nottingham:多文化の国・マレーシアで学び
世界観も広がる(写真提供:マレーシア政府観光局)
 最近は、マレーシアへの年齢の低い子連れの親子留学が増えており、現地留学斡旋会社の話では、今夏の「親子留学」取扱人数は昨年の3倍以上でした。さらに、長期滞在ビザ取得申請者は殆どがシニアでしたが、現在は、子供の教育目的に移住する日本人家族 が増えています。一時減少していた在留邦人総数は09年から増加に転じ、11年は前年比7.2%増の1万401人でした。同地への「教育移住」を主導するのは多様性。『AERA 2012年10月8日号』「日本の教育を選ばなかった親たち~行き着いたのはマレーシア」では 、教育移住した家族を紹介。マレーシアを選んだ理由は「グローバルにどこででも働ける力がつく環境」「外国人を異物とみなさない社会」などで、子供の将来を見据えた「親の選択」です。
 私の知る限り、日本の多くの学校では、体育祭や合唱祭などの行事は実施することが優先。そして、多様性を受け入れ尊重するどころか「みな同じ」が基本で、過激な発言は制され、異質を面白がる風土など殆ど見られません。しかし、一部の教育機関、学生、親は、 本当のグローバルに気づき、考え、手探りで行動し始めているのです。

●旅をして多様性を感じましょう! ~「旅の力」「旅する力」が求められる社会

 今回のケアンズへの旅行をきっかけに、改めて、グローバルや多様性を身につける、ということについて考えました。単に外国語ができることではなく、多様な文化や価値観に触れ、それを尊重し容認した上で、自ら考え行動できること、それが真のグローバルなのでしょう。速 いスピードで変化する社会を背景に、グローバルの力が求められています。滞在期間に関わらず、旅は多様性に触れ、気づきの多い学びの場です。1週間ほどの旅でも、娘達の意識は確かに変わりました。これが「旅の力」なのです。グローバルへのきっかけとなることから、教 育や人材育成という視点での旅へのニーズは、今後、一層高まることでしょう。文部省の学習指導要領の理念である「生きる力」として、「知力」「徳力」「体力」そして「旅力」が掲げられる日も近いかもしれません。
 まずは旅をしましょう。子供に旅の機会を作りましょう。オーストラリアやマレーシア以外の国や日本国内にも多様性に富む、気づきの場はたくさんあります。1~2回の旅ですぐ行動に変化が現れるかには個人差があり、これも多様性です。そして、旅では様々な文化や環 境などに触れると同時に、苦楽を含めて多様な経験をします。つまり、旅すること自体が多様性を育むことにつながるのです。沢木耕太郎氏が言うように、「旅はもうひとつの学校」です(『旅する力 深夜特急ノート』)。「教師は世界中の人々、教室は世界そのもの」。教 科書もない旅という学校で身につけるのは、目の前で起きていることを受け入れ果敢に挑戦する「タフな精神力」です。旅を通して培われるグローバルでタフな精神は、どんな社会も生きていける力であり、旅をし続ける限りどこまでも伸ばせる力なのです。

<参考文献、ホームページ>

 

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