財政統計からみた地域の観光財源の課題 [コラムvol.163]

2012.03.30

研究調査部 塩谷英生
col-163

 今年度の後半に、地方自治体の観光財政について研究を行いました。少し固い話になりますが、観光財政に関する統計の現状と、統計からみた地域の観光財源の課題についてお話したいと思います。(塩谷英生)

■観光費に関する決算統計

 都道府県の観光に係る歳出額に関する決算統計データとしては、総務省が作成している「都道府県決算状況調」という資料があります。市町村レベルでも「市町村別決算状況調」という資料があるのですが、「観光費」は残念ながら公表されていません。
 総務省の決算統計は、都道府県間比較が可能となるような統一基準によって作成されているもので「普通会計」と言われます。細かい定義はここでは置きますが、都道府県や市町村が各々の判断で作成する「一般会計」とは数字が異なっています。
 残念ながら、「一般会計」で「観光費」レベルまでの決算情報を出している都道府県は、ホームページ上で確認した範囲では23道県に留まっています(平成24年1月末現在)。従って、「一般会計」のデータから地域間の観光財政の分析を行うことは困難な状況です。

■都道府県観光費の縮小傾向

 さて、この総務省資料によると47都道府県の「観光費」総額は、1995年度の1,532億円から、2000年度には1,262億円に下がり、2009年度には635億円まで減少しています。都道府県歳出総額に占める「観光費」の比率も、1990年度の0.30%から、2009年度には0.13%と半分以下の水準まで低下しています。

図.都道府県歳出額と観光費の推移
図

 その要因を「観光費」の性質別内訳のデータでみると、「投資的経費」の減少が大きく影響しています。一方で、観光宣伝事業を中心とする「物件費」や「人件費」については横ばいもしくは微減傾向で推移しています。
 地方財政収支の側面から描写すると、歳入面では1998年頃からの国の行政改革による地方交付税や補助金の圧縮、歳出面では「公債費」「扶助費」等の義務的経費の増加があり、この二つの要因に挟まれて「投資的経費」が予算の枠組みから弾き出されたような形になっています。
 しかも、「観光費」における「投資的経費」の減少率は歳出全体のそれよりも大幅なものでした。2000年度から2009年度にかけて「普通建設事業費」は歳出全体で44.0%減ですが、「観光費」では67.1%も減少しています。その背景には、90年代のリゾート法の失敗や、旅行単価の低下などの市場の停滞があり、投資効果への期待値が低下したことも大きいでしょう。

■観光費データの課題と規定要因

 47都道府県の観光費の大小関係を詳細にみると、各都道府県が「観光費」に組み入れている支出範囲の違い、言い換えると「観光費」の定義の曖昧さが比較分析を困難にしています。例えば、観光道路等は「土木費」か「観光費」か、動植物園等は「社会教育費」か「観光費」か、といった点です。
 観光活動は多様であり、観光産業が幅広い業種に広がっていることは、観光の経済効果を分析する場合にも特徴的な点です。例えば、国連世界観光機関の定めた観光経済統計の統一基準であるTSA(Tourism Satellite Account)では、各産業の観光需要に対応する消費額や付加価値を寄せ集めることで、TGDP(Tourism Gross Domestic Product)を算出しています。
 観光財政統計の分析においても、観光政策の関連部署の広がりが大きく、すんなりと観光歳出の集約ができないという状況には、ある種の既視感を感じています。
 さて、都道府県観光費の規定要因を重回帰等で分析したところ、大きくは観光需要と観光財源の二つの要因で説明することができます(統計上の問題による差異を除く)。観光需要の割に観光予算が大きい都道府県は、振興開発特別措置法の地域や、電源地域であったり、国からの補助金が多い地域であるケースが多くなっています。

■観光財源の課題

 適正な「観光費」の水準が、各都道府県への観光需要に比例的に決まるべきものとすれば、観光客数や観光消費額に応じた財源を確保するための税制や、一般財源化されてしまいますが交付金算定の仕組みの工夫も必要でしょう。
 しかし実態は、都道府県税には観光客数に比例的で使途を観光振興に限定した法定目的税は存在していません。市町村には「入湯税」がありますが、これも使途は観光に限定されていませんし、温泉資源に恵まれない地域にとっては有効な財源とはなりません。また、一般財源に組み入れられる地方交付税の基準財政需要の算出においても、「商工行政費」の算定基準には「地域人口」が用いられ、観光客数あるいは交流人口といった要素は考慮されていません。
 観光需要に比例的な自主財源が無ければ、自治体よりも遙かに大きな予算規模を持つ各省庁の補助事業に受動的に依存せざるを得ないということにもなります。観光白書によれば政府全体の観光関連予算は2010年度で2,183億円ありますので、単純計算では47都道府県合計額の3倍以上の規模です。(市町村の観光予算についてはデータがありませんが、参考までに2009年度の入湯税収入は全国で228億円です。)
 法定税や補助金に依存しない自主財源確保の手法としては、東京都宿泊税のような法定外税や協力金制度、駐車場運営等による事業収益といった可能性があり、適切な手法を検討していくことが必要となるでしょう。法定外税については総務省の同意要件が存在し、厳しい審査が行われています。地域の自主財源確保における国の関与度を下げ、地域の主体的な観光政策を実現していくことが望まれます。

 

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