地域らしい“食のいろどり”を考える [コラムvol.52]

2008.10.10

研究調査部 堀木美告
研究員コラム

 その土地のおいしいものを味わうことは、旅行の大きな楽しみです。観光地側でも"食"の魅力を向上させようとする取り組みが盛んですが、そもそも来訪者側は観光地の"食"に何を期待しているのでしょうか。また観光地側はその期待にじゅうぶん応えているでしょうか。少し考えてみたいと思います。

■「赤い食材」の魅力

 「選ぼうニッポンのうまい!」というキャンペーンをご存じでしょうか?2005年にスタートしたキリンのキャンペーンで、対象商品を購入して応募すると日本全国の"うまいもの"があたるというものです。先日、その車内広告を見ていて気がついたことがあります。デフォルメされた日本地図の上に全国47都道府県ごと賞品="うまいもの"の写真がレイアウトされているのですが、一見して、「赤い食材」がとても目立つのです。具体的に「一目見て赤いと感じる食材」*1が含まれている都道府県を数えてみたところ、肉類(牛肉、豚肉、鶏肉、その他肉加工品)が27箇所、魚介類(魚の切り身・刺身、エビ・カニ類、その他魚介類加工品)が7箇所でした。
 人間の感覚は色彩によって大きくされるようで、食欲については暖色系の色彩と強く結びついているそうです。上記キャンペーンポスターで「赤い食材」が目立ったことも、このことと無関係ではないように思います。

■日本人がイメージする「新鮮な食材」とは?

 以前、当財団の自主研究*2で「食に関する観光地イメージ」についてネットアンケートを実施し、全国26箇所の観光地について、「料理に関するイメージ」や「食材に関するイメージ」を訪ねたことがあります。ここではなかなか興味深い結果が得られました。
 まず「料理に関するイメージ」ですが、北海道内の各地や伊豆、伊勢志摩といった地域では「新鮮な食材がある」というイメージがかなり強い(6割~4割程度の選択率)ことがわかりました。その一方で、内陸部を中心とするその他の観光地に関しては、「新鮮な食材がある」というイメージが概して低いという結果です。26箇所の観光地名の選び方に影響を受けている部分もあるとは思いますが、日本人の中では、一般的に見て「新鮮な食材=海産物」という意識が強いように感じます。
 つづいて「食材に関するイメージ」を見てみると、多くの回答者が共通認識を示したのは「海産物がおいしい」観光地についてで、具体的には前の設問において「新鮮な食材がある」とされた地域とほぼ一致していました。逆に、その他の食材に関するイメージ(野菜がおいしい、おいしいお酒がある…など)については、どの観光地においても海産物に関するイメージほど明確なものにはなっていないようです。この結果からも、観光地の食に関して、「新鮮な食材=海産物」が特に注目を集めていると言えそうです。

■観光地の「食」に対する期待

 同じ自主研究の中で「旅行先での食に対する期待」も調査しています。「旅行先での食事場所を選ぶ際に重視する点」を訪ねた結果では、7割以上の回答者が「地元の新鮮な食材を提供していること」と回答した他、「その土地らしい風景」(48.3%)、「地域色豊かなメニュー」(38.9%)など、地域らしさが感じられることを重視する回答が上位に並びました。
 この結果は、「地産地消」「生産者の顔が見える食材」など最近の食に関連するキーワードとも関連性が強いと考えられ、先ほどの「新鮮な食材=海産物」という画一的な認識とは逆のベクトルを示しているようにも感じられます。観光客は、何を期待しているのでしょうか?

■山あいの温泉地の悩み

 ここまでで紹介した2つのアンケート結果と呼応するように、東北地方のとある山あいの温泉地では、こんな悩みを耳にしました。その時のヒアリングの趣旨は、「遠隔地(の海岸部)で獲れた海産物をわざわざ使わずに、地域色豊かな地場の食材を旅館など観光の現場でもっと活用できないか」というものだったのでした。支配人がおっしゃるには、「観光客向けには地場食材で地域らしさをアピールすることも考えられるが、地元客の宴会利用では赤い食材(お刺身やカニなど)がアピールする」、「旅行会社側からもパンフレットに掲載する写真では見栄えのする赤い食材へのリクエストがある」とのこと。もちろん、地場食材の積極的な活用に踏み切れない理由には流通システム上の大きな課題等が大きいのですが、利用者側からのニーズに応える上でも少なからずハードルがあるということでした。

■多様な食文化=その土地ならではの食のいろどりを!

 さて、それでは対立しているようにも見える2つのアンケート結果をどのように読んだらよいのでしょうか。これは、多少なりとも設問内容の構造に違いがあったからではないかと考えています。つまり、前者のアンケートはより一般論的な答えを引き出し、後者は「自分の場合ならこうする」という回答者個別の考えを引き出す質問内容だったということです。だとすれば、やはり地場の食、地域独自の食に関する期待はますます高まりつつあると言えるのではないでしょうか。
 各観光地では、地元客の「赤い食材」へのニーズも視野の片隅に入れつつ、その土地ならではの「食のいろどり」に対する期待に答えていって欲しいと思います。それぞれの土地で生産される食材、それらをいかすために発達した食文化は独自の色彩にいろどられていることでしょう。決して派手ではないかも知れませんが、訪れる土地毎に違った食のいろどりに触れられるような観光地が増えることを期待します。

*1 1つの都道府県で複数の食材を組み合わせているケースもあります。
*2 すでに当HP上で公表している自主研究「食と地域振興」の成果の一部。詳細は今後掲載予定。
沖縄県那覇市 福島県会津若松市
写真1
牧志公設市場に並んだ魚たち。いろどり豊かで南の島らしい雰囲気。(沖縄県那覇市)
写真2
いろどりは控えめでも、地場食材を活用したメニューは旅の思い出に。(福島県会津若松市)

 

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