"等身大"の旅行?  [コラムvol.101]

2009.10.23

観光文化事業部 相澤美穂子
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 先日テレビを観ていると、女子高生向けのファッション誌の制作現場に密着した番組に目が止まりました。それを観て私は、自分が高校生だった頃とは色々な点で大きく様変わりしていることに驚きました。

 中でも一番驚いたのは、雑誌の表紙を飾るのがプロのモデルではなく、いわゆる「読者モデル」だったことです。読者モデルというのはその名の通り、読者が編集部に応募し、選ばれた人たちのことを指します。
 番組を見て興味を持ち、実際にその雑誌を手に取ってみると、表紙だけではなく誌面のいたるところに、読者モデルが登場していることに再度びっくりしました。それまでも読者モデルの活躍を目にする機会はありましたが、ここまでとは想像していなかったのが正直な感想でした。

 私が学生の頃に読んでいたファッション誌を思い返すと、登場するモデルの多くは外国人でした。その象徴とも言える存在は、80年代後半から90年代にかけて活躍した「スーパーモデル」。彼女たちの並外れたプロポーションや華やかな私生活は人々の目を引き、日本でも人気を集めたことを覚えている方は少なくないと思います。

 スーパーモデルから読者モデルへ。なぜここまで大きく変化したのでしょうか。

 かつて読者が外国人モデルへ注いでいた視線は"憧れ"でした。他にお手本となる存在が身の周りにいなかったこともあり、読者は少しでも彼女たちに近づくべくファッションや化粧法、エクササイズまで真似したものでした。
 しかし時代が進むにつれ、読者たちが"むなしさ"を感じ始めたように思います。外国人モデルが雑誌で着ていた服を実際に試着し、あまりに似合わない自分の姿を見て愕然としたのは、きっと私だけではないはず。いくら手を伸ばしても届かない存在に、無力感を覚えていたように思えてなりません。
 そんな心理を反映してか、それ以降、徐々に日本人モデルが多くの誌面を飾るようになっていき、読者はより近いところにお手本を見出せるようになりました。日本人モデルといってもスタイル抜群なことに変わりないのですが、それでも以前よりは、ぐっと身近な存在として感じられるようになったのです。

 冒頭で触れた「読者モデル」はそれがさらに進化した形として捉えることができます。読者モデル自体は今に始まったものではなく、私が学生の頃にもいたと記憶しています。しかし当時は小さなコーナーに登場する程度で、表紙はもちろん、主要なページを占めていたのはあくまでもプロのモデルたちでした。
 しかし、今や読者モデルの存在感は増すばかり。最近では彼女たちによって雑誌や商品の売り上げが大きく左右されることも少なくないと言われています。

 読者モデルの最大の武器は"等身大"であること。彼女たちの中には身長が150cm台という人も珍しくありません。プライベートでよく行くお店も高級ブランド店ではなく、格安の服やアクセサリが売られている量販店。手ごろな価格の服や小物をうまくコーディネートして着こなす彼女たちのスタイルは読者にとって格好のお手本です。
 また、そのライフスタイルもモデルであることを除けば普通の人と同じ。プライベートな話題には口を閉ざしがちなプロのモデルとは違い、恋愛や普段の生活を誌面やブログで発信する彼女たちを見て、読者はモデルたちが自分たちと同じような考えや悩みを抱えることを知り、身近な存在に思えるのでしょう。
 今の若い女性は、憧れだけで動かない。読者モデルに共感し、その姿に自分自身を投影することでようやく購買に結びつく、そんな時代になったのだと感じました。

 では、これを旅行に当てはめてみるとどうなるでしょう。

 かつて海外旅行が "憧れ"だったことは言うまでもありません。スーパーモデルが活躍した80年代後半~90年代前半は日本人の海外旅行者数が大きく成長した時代でした。その成長を牽引したのは20代女性。憧れでモノが売れていた時代に、海外旅行が大きく伸びたのは当然だったのかもしれません。

 そして、雑誌と同様に海外旅行もまた"憧れ"から"より身近な存在"へと徐々に変化してきました。例えば旅行商品であれば北欧デザインをテーマにした街歩きを提案したツアーが人気を集めたり、雑誌の特集でもパリのパン屋さん巡りやカフェ案内が特集されたりと、日常の関心の延長線上で旅行を楽しむ傾向にシフトしてきています。
 ただ、こういった旅行商品や特集は20代後半から30代以上の、どちらかといえば海外に何度も行ったことがある旅慣れた人たち向けであり、海外旅行ビギナーにとっては、ややハードルが高いように感じられます。

 リピーターが増える一方で、初めて海外旅行に行く人の比率が減少し続ける今、10代や20代前半の海外旅行ビギナーが"等身大"で楽しめる旅行の提案が求められていると思います。

 しかし、10代、20代前半が読者層の雑誌で海外旅行の記事を見かけることはあまりありません。また、先に触れたように、今の若年層向けのファッション誌に登場するのは読者モデル、紹介されるのは家の近くの量販店でも買える、手頃な価格の服のコーディネート。彼女たちの日常の関心の中に、海外の情報が登場する機会はどんどん減る一方です。
 まずは、彼女たちが日々関心を持っている話題と結びつけた情報発信を行い、海外をより身近に感じてもらう。そこから始めることが必要なのではないでしょうか。

 

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