統計づくりに欠かせない視点とは? ~観光統計グローバルフォーラム参加報告に代えて [コラムvol.392]

2019.04.03

観光経済研究部 主任研究員 川口明子

 2018年11月、筆者はペルーで開催された「Global Forum on Tourism Statistics(観光統計グローバルフォーラム)」に参加し、観光庁と共同で我が国のインバウンド統計拡充の取り組みについて報告しました。その後の2019年年初には統計不正が話題となりましたが、各種関連記事を拝見していると、統計を作る上で欠かせない、ある重要なポイントを指摘する声が少ないように感じます。そこで今回は、同フォーラムでの報告内容の紹介に絡めて、この点について書いてみたいと思います。

標高3,000m超!高山病の不安を抱えクスコへ

 みなさんはペルーに行ったことがありますか。私にとっては今回が初めての訪問でした。ペルーの観光スポットといえば「マチュピチュ」や「ナスカ」、隣国ボリビアには話題の「ウユニ塩湖」もあります。日本からみると地球の裏側で縁遠いですが、いずれも一生に一度は行ってみたい絶景スポットです。

 さて、OECD・eurostat等主催による「観光統計グローバルフォーラム」は今回で15回目を迎えます。今回の開催地は現在の首都リマではなく、15~16世紀に栄えたインカ帝国時代の首都クスコ。現在はマチュピチュ観光の玄関口となっています。日本からは直行便がないため、飛行機を2回も乗り継ぎ、片道2日間もかけてようやくクスコにたどり着きました。

 移動の負担もさることながら、筆者の最大の心配事はなんと言っても「高山病」。クスコは富士山山頂に匹敵する3,399mの高さにあるため、高山病になる人も少なくないのだとか。そんな過酷な場所が今回の会議開催地であることに若干の憤りを感じつつ、高山病予防薬をお守り代わりに携えて行きました。

 ロングフライトの後に現地に降り立つと、即座に酸欠で倒れるようなことはなかったのですが、空気が薄いことは体感できました。坂を登るだけで息切れしたり、夜間寝ている間に頭痛に襲われたり…。それでも幸いなことに高山病にはならず、無事に登壇することができました。

2018年から拡充した「訪日外国人消費動向調査」について報告

 今回のフォーラムでは、観光庁が作成している一般統計「訪日外国人消費動向調査(IVS)」の枠組みの中で2018年から新たに開始された「地域調査(RS)」について報告しました。当財団ではこの統計調査の集計・分析業務を2010年より請け負っており、地域調査の設計にも携わらせていただいた関係で、今回観光庁と共同で報告する機会をいただきました。

 東日本大震災以降、訪日外国人は目を見張る勢いで増えています。それでも日本人の国内旅行者に比べるとその数は少なく、しかも訪問地は特定の場所に集中しています。そのため、外国人旅行者の実態調査を行っても十分なサンプルサイズを集めるのに苦慮している地域が少なくありません。こうした背景から、国の統計で地域の数値もきちんと作成すべきとの声は多いですが、地域毎の分析となると場所によってはサンプルサイズが不足している状況は国の統計も同様でした。そこで、観光庁は「訪日外国人消費動向調査」の一環として、2018年より新たに地域調査を開始するに至りました。

 実は、海外では国が地域の観光統計を作ることは珍しいことではありません。地域間の比較ができることを重視して、国が地域の観光統計を作成するケースは複数見られます。しかし、一部地域のサンプルサイズが不足してしまうのはどの国にとっても共通の課題。今回のフォーラムでは、同じ課題を抱える国々に対して、日本の経験をもとに有効な解決策の一例を提示できたらという思いでのぞみました。

効率的かつ効果的に必要な票を回収する「二相抽出法」

 「訪日外国人消費動向調査」では、国内の空海港において帰国間際の外国人旅行者の方々を対象に聞き取り調査が実施されています。調査票に掲載されている質問数はすでに相当なボリュームがあり、この上さらに地域毎の支出設問を追加してしまうと、質問量が過大となって回答拒否率が高くなってしまう恐れがありました。そのため、従来の「全国調査(NS)」とは別立てで、地域調査が実施されることになりました(図1)。

 新たに開始された地域調査で特筆すべきは、「二相抽出法」が採用されたことです。これは標本調査法における一手法で、一相目(First-phase)の質問の回答内容で条件に当てはまる人にだけ二相目(Second-phase)の質問をするという方法です(図2)。外国人訪問客の少ない場所を訪れた人には地域別の支出を詳しく尋ね、東京や大阪しか訪問していない人は数問の質問だけで終了。このように、限られた調査時間の中で、出現率の低い地域の票数が効率的かつ効果的に回収されていることをフォーラムでは紹介しました。

 我々が参加したセッションには他に5件の報告がありましたが、ビッグデータを活用した事例の報告が主だったこともあって、我々の報告内容は少々特異だったようです。それでも、質疑応答の際には韓国やインドネシアなど複数の国々が日本の報告内容に関心を示してくださり、手応えを感じることができました。

統計の品質確保には「回答者負担の軽減」が欠かせない

 調査を拡充する際に必ずつきまとう課題は「回答者負担の増加」です。今回の報告の主軸は、調査を拡充するにあたって回答者負担を如何に抑制するか、という点にありました。

 アンケートを企画すると、誰しも一度にいろいろなことを知りたくなるので、調査票の質問量が多くなりがちです。しかし、多すぎる質問量は回答品質の低下に直結します。また、サンプルサイズが大きすぎると多くの人々に回答の負担を強いることになり、結果として調査を継続的に行うことが難しくなります。したがって、統計調査を設計する際には、回答者負担の軽減策をセットで考えることが極めて重要になります。

 統計調査の設計には、「訪日外国人消費動向調査」で採用された「二相抽出法」の他にも、回答者の負担を軽減するための様々な手法があります。そもそも、母集団全体から一部を抽出して実施する標本調査法は、回答者負担の軽減策そのものと言っていいでしょう。統計不正に係る一連の議論をみていると全数調査を肯定する論調が目立ちますが、回答者負担軽減の観点からみれば全数調査よりも抽出調査の方が優れているという見方もできるのです。

 統計に限らず、アンケートを企画される方々の間で「回答者負担の軽減」という考え方が定着すると、データの品質はより向上するのではないかと筆者は考えます。また、各種調査の協力依頼をお受け取りになった方々には、統計作成者が回答者負担の軽減に知恵を絞っていることをご理解いただき、無理のない範囲で快くご回答いただけるよう、心からお願いする次第です。

参考

Global Forum on Tourism Statistics
http://www.15th-tourism-stats-forum.com/Presentations.html

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