熊本地震が観光に与える影響 -過去の経験から得られたこと、学ぶべきこと- [コラムvol.302]

 2016年4月14日(木)の熊本地震の発生以降、今なお断続的に続く地震は、熊本県及び周辺地域に多大な被害を及ぼしています。お亡くなりになられた方々には深く哀悼の意を表し、また被災された方々に対しては心よりお見舞い申し上げます。

 我が国で震度7を記録したのは、2011年3月11日(金)に発生した東日本大震災以来です。被害を受けた地域では、復旧・復興に向けた取り組みが進められており、一刻も早い回復が望まれます。

過去の震災の経験から得られたもの

 今回の地震では、東日本大震災を含め、過去に発生した震災から得られた教訓のいくつかが活かされているように思われます。例えば、情報の伝達手段として、SNSが有効活用されたようです。特に、被害が甚大にまで至らなかった大分県別府市では、市長のフェースブックがどこよりも早く正確な情報を流したため、地元民の安心感につながったとのことです。

 また、被災地への貢献手段の一つとして、地元産商品の購入等に注目が集まり、東京にある熊本県のアンテナショップ「銀座熊本館」には多くの人が殺到しました。

 ボランティア活動についても、一部で混乱したものの、前向きな姿勢には心温まるものがあります。  今後は、観光復興においてもこれまでの経験が活かされることが期待されます(『観光文化』229号において、取り組みの一部を紹介しています)。

「風評被害」の克服が課題

 その一方で、「風評被害」については、今回も課題を残す結果となっています。特に、観光地における多数の宿泊キャンセルの発生は、地元に深刻な影響を及ぼしています。東日本大震災時は、発生後しばらく東北全域で旅行の自粛が見られましたが、その後は被害の大きかった太平洋側で復旧・復興工事関係者等の宿泊需要が発生したこともあり、宿泊者数が徐々に回復していきました。これに対し、被害が比較的少なかった日本海側では、風評被害が大きく影響し、回復が遅れる結果となりました。今回の熊本地震では、建物被害や道路の寸断などで宿泊ができない箇所がある一方で、熊本県内の利用可能な宿泊施設には復旧・復興工事関係者等の宿泊需要が発生しているとのことです。しかし、隣接する県では宿泊キャンセルの影響が大きく、報道によると、4月末時点で、大分県では約15万人、鹿児島県や長崎県ではそれぞれ約7万人という多大な宿泊キャンセルが出ているとのことです。また、私が4月末に大分県別府市を訪れた際には、ほぼ全ての旅館・ホテルが営業しているにも関わらず、おおよそ8割にもなる宿泊キャンセルが出たとうかがいました。確かに、私が滞在したホテルは通常に比べて稼働が低かったようで、街中を歩いても観光客の姿はあまり見られませんでした。このような現象は、まさしく東日本大震災と同じ傾向と言えます。

 各県を周遊するツアーが多い九州の場合、ツアー自体の中止により熊本県以外の宿泊もキャンセルとなるのはやむを得ないことでしょう。また、余震が続いている状況において、現地への配慮や安全面から旅行のキャンセルや自粛の判断を下す気持ちも理解できます。しかしながら、訪れることも復興の支えになりますので、単に「いつでも行けるから」と考えるのではなく、現地の状況について正確な情報を入手したうえで的確に判断されることを望みます。実際に訪れた観光客の中に、「キャンセルを検討したが、いろいろ調べた結果大丈夫という結論に至った」という声が聞けたことは、これまでの教訓が少なからず活かされたようにも思われます。

メディアの役割と期待

 情報を発信する側の各種メディアに対しては、風評被害も考慮した対応を期待します。被害の大きかった地域の状況を伝えることはもちろん必須ですが、それだけではなく、比較的被害の小さい地域の状況を伝えることも大事な使命だと思います。特に、被災状況を一括りにして伝えるのではなく、地域ごとの正確な情報を伝えることが重要です。一方で、地元向けのローカル放送では、被災地の人々に役立つ情報を伝えることも忘れてはなりません。

 番組の時間的制限があるなかで情報を取捨選択するのは大変だと思いますが、地元の声をしっかりと拾ったうえで、正確且つ公平な情報発信につなげていくことを、心より願います。

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写真1 普段通りに営業する商店街の店舗   (ソルパセオ銀座、2016年4月28日撮影)

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写真2 観光客の来訪を心待ちにする別府温泉   (北浜地区、2016年4月28日撮影)