歴史ファンが没頭できる観光地づくりを[コラムvol.252]

2015.05.15

観光政策研究部 塩谷英生

 伊豆の国市に韮山城という戦国時代初期の城を早春に訪ねた。

 歴史好きの方はよくご存知と思うが、此所は今川氏に身を寄せていた北条早雲が、権謀術数によって堀越公方を滅ぼし、伊豆国に独立を果たした後(1500年)に築いた根城である。

 高さ50メートルほどの平山城で、寒風の下、息を白くしながら本丸に近づくと視界が三方に広がり、雪に覆われた富士山が遮るものも無く目に飛び込んでくる。安土桃山から戦国にかけての城のような精巧な石垣や美しい櫓は無いものの、急峻な崖を活かした土塁や郭の構成は見事で、実に攻めにくい“城らしい城”である。豊臣秀吉の小田原攻めでは、10倍の敵を相手に100日余りを守り抜くことになるのだが、守備隊の荒々しい息遣いが聞こえて来るかのようだ。

DSC_0846韮山城からの富士

■想像の世界に遊ぶ

 「想像」することは、歴史観光の醍醐味である。現実の韮山城には、往時の防御施設の姿も無ければ、弓鉄砲が空気を切り裂く音も聞こえはしない。しかし、歴史好きの人であれば、予備知識や経験値によってバーチャルな世界を脳内に構築することができる。学生時代に関ヶ原古戦場を歩いたことがあるが、司馬遼太郎の「関ヶ原」を事前に読むだけで、ここは石田光成や宇喜多秀家などの豪華キャストが躍動する、さしずめブロードウェイの舞台のような空間にもなり得るのである。

 一緒に歴史観光地を訪れても、同行者が歴史への関心度が低くてその世界観に浸れないのを見ると、個人的には「せっかく来たのにもったいない」ように感じる。損得で旅行をするわけでもないし、大きなお世話と言われればそれまでなのだが、実際歴史好きの人は、歴史観光地を訪れる前に事前に情報収集をすることが多い。

 こうした歴史文化観光への関心度層別の傾向については、前回のコラムでもご紹介した自主研究「歴史文化観光とその振興施策に関する基礎的研究」(https://www.jtb.or.jp/research/cultural-heritage)の中で2月に国内市場調査を実施し、集計・分析を進めているところである(6月以降にホームページで公開予定)。

 参考までに、事前情報収集について、下図をご覧いただきたい。「歴史文化観光地を訪問する前に歴史文化資源の情報を収集しておく方だ」という人は、高関心度層(歴史文化観光に非常に関心がある層)が45.3%に対して、中関心度層(ある程度関心のある層)は23.5%と、他の選択肢と比べて関心度層による差が大きい項目となっている。

出典:JTBF自主研究「歴史文化観光とその振興施策に関する基礎的研究」

出典:(公財)日本交通公社 自主研究「歴史文化観光とその振興施策に関する基礎的研究」

■歴史文化資源の持つ根源的な魅力

 もちろん、歴史文化資源の範疇にはお城以外に、社寺や洋館、町並みや伝統工芸など様々な資源が含まれている。そうした資源の中には、歴史への関心が無くても楽しめる魅力も多い。

 歴史文化資源の根源的な魅力について聞いたところ、高関心度層で魅力と感じるポイントが豊富という結果になったが、中関心度層でも高い回答率となった項目として、「美しさや芸術的なものを感じる」「壮大さや力強さを感じる」がある。これらは視覚的・体感的に感じ取れる“わかりやすい”魅力であり、自然景観が幅広い客層に感動を与える傾向と通じるものがある。

 逆に言うと、巨大な建造物や絢爛豪華な文化財に乏しい地域であれば、高関心度層の誘致が重要となる。調査では、地方の歴史文化観光地を訪れた際に感じた「京都」と比べた魅力についても聞いているが、「歴史情緒を感じさせる」という回答が大きな差別化要素となっている。

 いかに、地域の歴史が持つ世界観を知ってもらい、それに没頭してもらう環境を作れるか。
 情報提供や動線上の景観など、歴史好きな人々のニーズを踏まえて、地域の受入態勢を工夫していく視点が重要だと考えている。

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